教室の窓際、淡い夕日が差し込んでいた

私はノートを閉じてため息を一つ




小林由依。

クラスでも教師からの信頼は厚い、いわゆる"優等生"

だけど放課後の彼女を知ってしまった私は、もう簡単に彼女を真っ直ぐ見れなくなっていた




昨日

帰り道、忘れ物を取りに校舎へ戻ったとき偶然見てしまった

人気のない体育館裏で由依が他校の制服を来た女の子に壁ドンして軽く笑いながら耳元に囁いているところを

その子が顔を赤くして身を預ける様子まで、全部




…あんな顔、私の知ってる小林由依じゃない




由「理佐、ノートありがと。助かる」




不意に声をかけられて顔を上げると目の前にはその本人

相変わらず整った顔立ちに涼しい笑顔

クラス全員が信じて疑わない、"完璧な小林由依"がそこにはいた




理「うん、別に」




なるべく表情を崩さず返す

でも、胸の奥はざわざわしていた




由「どうしたの?なんか元気ない?」


理「別に、普通だよ」


由「ふーん。理佐って嘘つくとき眉がちょっと動くんだよ」


理「っ…」




思わず目を逸らした

どうして気づくんだろう

優等生ぶってるくせに人の心を読むのだけは鋭い




放課後

帰ろうと鞄を持ったら廊下でまた彼女に呼び止められた




由「ねぇ、今日ちょっと付き合ってよ」


理「は?なんで」


由「理由いる?」


理「いる。…私、部活あるから」


由「嘘。理佐、もうすぐテストだからって休んでるでしょ」




図星を突かれて足が止まる

由依は微笑んだまま私の手首を取った

その自然さに拒否の言葉が出てこない




連れていかれたのは体育館裏

昨日、あの光景を見てしまった場所




理「…ここ、やめてよ」


由「なんで?」


理「昨日、見たから」


由「…ああ」




由依は一瞬だけ目を細めてすぐに笑った




由「見ちゃったんだ、あれ"遊び"だから」


理「…遊び、って」


由「だってそうでしょ。あの子たちは皆、私に夢中になってちょっと甘い言葉を囁けば簡単に落ちる」


理「最低」


由「そうかもね。でも…理佐は、違う」


理「…は?」




不意に距離を縮められて背中が壁にぶつかる

由依の瞳が間近にあって心臓が嫌なほど早くなる




由「理佐は、私を睨んで突き放してもここに立ってる。逃げない」


理「…ただの、偶然」


由「ほんとに?」


理「……」




彼女の声は低くて柔らかくて

聞きたくないのに耳に残る




由「理佐だけは、落としたいって思った」


理「ふざけないで。私、あんたの遊び相手じゃない」


由「知ってるよ」


理「…だったら」


由「だから本気なんだってば」




真面目な顔でそんなことを言う

昨日の軽薄な笑みとはまるで違う




理「…信じられる訳ない」


由「いいよ、信じなくても。でも理佐が逃げない限り、私は諦めない」




そう言って彼女はあっさりと手を離した

その笑顔はまた、誰もが信じる"優等生"の小林由依に戻っていた




なんなの、本当に

本当の顔を見せたり隠したり

でも、こんなの本気にしたら負けだ。相手は絶対遊び

これまでもこうしてたくさんの女の子をこうやって落としてきた

気にせず距離を置こう








あの子はほんとに不器用だ

今日の朝、理佐の顔を見てすぐに分かった

私の裏の顔を知ってしまったんだって




普通なら軽蔑して避けたり他の子に言いふらしたりするはず

でも理佐は逃げなかった。私を睨んで、拒絶して、それでも真正面から向き合っていた




それがたまらなく愛おしかった。




教室では誰かと楽しそうに話している理佐を見ると胸がざわつく

特に男子が隣にいると、理佐がただ頷いただけでイライラする

笑ったりなんかしたら、、もう耐えられない




由「理佐」




放課後、声をかけてみた




理「なに」




素っ気ない返事

でも、その冷たささえ嬉しい




由「昨日の事まだ怒ってる?」


理「別に」


由「本当?」


理「しつこい」




そっぽを向く横顔がどうしようもなく綺麗で

触れたくて、でも触れたら拒まれるのが怖くて




こんな気持ち初めてかもしれない。




女の子を遊ぶのはただの気晴らし

恋人なんて作る気もなかった

ただ身体があったらよかった

でも理佐は違う




だから奪いたくなる。独り占めしたくなる。




由「理佐、最近ひかるちゃんと仲良いよね」


理「急に何」


由「いや、別に…」


理「ただの委員会の仕事」


由「ほんとに?楽しそうに見えるけど」


理「何それ。監視でもしてんの?」




ドキッとするような目で睨まれる

でも、やめられない




由「…だって、嫌なんだもん」


理「え?」


由「理佐が誰かと笑ってるの。私以外に向けてるの見たくない」


理「……っ」




自分でも驚くほどストレートな言葉が出た

優等生の仮面も、女遊びの余裕も、理佐の前だと全て崩れる




由「ねぇ、私のものになってよ」


理「…ふざけないで」


由「ふざけてない」


理「……」




沈黙

理佐は唇を噛んで視線を逸らす

その仕草さえ愛おしくて仕方ない




由「逃げてもいいよ。でも、私追いかけるから」


理「っ、ほんと最低」


由「うん。最低でもいい。…理佐だけは手放さない」




渡邉理佐を絶対に逃がさない。





読んでいただきありがとうございます

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