今井君の家に遊びに行った。彼の家は交番の裏にあった。今井君のお父さんはお巡りさんだった。彼は自分の父親を誇りに思っていたように思う。ボクはその反対で、父親が何をして金を稼いでいるのかまったく分からず、尊敬もへったくれもなかった。
今井君の家に上がった記憶はない。ただ、庭に木の枝で丸く線を描き、相撲を取ったことだけ鮮明に覚えている。
当時、ボクの知っている相撲は四ツに取り、土俵の中で投げたり、土俵の外に押し出したりする程度のものだった。だが、今井君の相撲は違っていた。
ハッケヨイ! の行司役の声と同時に、「のどわ、のどわ、喉輪」と言いながら、今井君は両手を交互に差し出してきた。突き相撲だった。
苦しくて、相手の体に触れないまま土俵の外に出ていた。完全なる敗北。その日以来、ボクは相撲が嫌いになった。
その後、今井君は引っ越してしまった。何でもお父さんがお亡くなりなったとのことだった。殉職かどうかは定かでない。お父さんが亡くなったと同時に、今井君は学校に来なくなり、彼の家を尋ねることもなくそのままになってしまったのだ。