International Dose-Response Society Dose-Response, 6:369-382, 2008
原爆の健康への効用
  
トーマス・ラッキー(ミズーリ大学名誉教授) (有志グループ訳)


(続き)  


ガン   


 もし、慢性的な照射線量が適度であれば、ガンは無視できるものになるのではないか、という仮説があった。(ラッキー、2008b) このことは、急性の低線量放射線を照射したあとの白血病に関し、当てはまるように見られる。白血病は全てのガンの中でも最も放射線で誘発されやすいと考えられている


 BEIR I (電離放射線の生物学的影響に関する委員会  I)は、長崎のプルトニウム爆弾の被曝生存者の調査結果として、2,527名からなるある被曝者層においては白血病により死んだ人が一人もいなかったと報告している。(グラフ。2a) 



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 これらの人々は、31 cGy の被曝量グループと6 9 cGy の被曝量グループの人々である。(BE I R  I I、19 7 2)闇値は約8 0cGy であった。白血病の発病率がゼロであったということは、ランドの研究で確認された。(1980)ランドは、3 9 cGy の被ばく量の人びと(25,643人・年)には白血病がなかったことに注目している。(グラフ。2b)闇値は約5 0 cGy であった



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 (長崎だけでなく広島を含めた)全ての原爆生存者を考慮した場合の白血病死亡率(グラフ。2c)をみると、7.2 cGyの被ばく量の人々のところに極小値がある。(清水ほか、19 9 0)闇値は1 4 cGy であった




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 ここで注目すべき重要なことは、この研究で使われている”一般平均”の人々は、市外にいた人々ということである。被曝者平均(被ばく量1 cGy未満)の人々の白血病死亡率は、市外の二つの町のグループの人々よりも低かった。全ての生存者における白血病死亡率を累積した場合(グラフ2. d )、闇値は約2 6 cGy であった。(清水ほか、1 9 9 2a )



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 市外にいた一般平均”の人々と比較した場合(グラフ。3a)、白血病以外のガンでの死亡率および全てのガンでの死亡率ともほぼ類似の傾向を示し、いずれも被曝量7 cGy のグループで極小値を示している。(加藤ほか、19 8 7)



いすけ屋のブログ  このデータは19 5 0年から1978年の間のものが使われている。それぞれの闇値は同じで、1 2 cGy であった。もし、中性子のRBE(生物学的効果比:放射線の種類により生物学的影響の強さが異なることを表す為の指標で、ある生物学的効果を与える線量を、同等の効果を与える基準放射線の線量で割って逆数にしたもの。)が10であることを前提とすると(上述の研究では1であるとしているが)、闇値は1 2 OcGy ともいえよう



 広島、長崎両市での白血病以外のガンの死亡率のデータを見ると(グラフ。3b)、被曝線量が2 cGy 未満の場合に死亡率が低下していることを示している。(清水ほか、19 9 0)被曝線量が3 2 cGy までのグループの臓器ガン死亡率は、統計上ほとんど”一般平均”と変わりがないため、実際の闇値は約2 5 cGy 程度であると見られる

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 長崎の生存者の全てのガンの死亡率は(グラフ4a)被曝線量3 0 OcGyまでであれば、一般平均の人々の数値を上回ることはなかった。(メッツラー、モーズリー、1985)プルトニウム爆弾からの放射線(殆どが中性子)には、弱い発ガン性があると見られる。閥値は約3 4 OcGyであった。市内にいた人々(図中の白抜きの丸は、0.03 cGyの被曝線量の生存者を表す)の方が、ほんの少しではあるが一般の人々よりも死亡率が低くなっている(1000人当り2.2人)ことに注目されたい



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 広島、長崎両市のがん死亡率を、観察値と予測値との対比をしてみると(グラフ。4b)閥値は約2 0 cGy であると見られる。(清水ほか、19 9 0)


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 広島、長崎両市の全てのガンの死亡率(MM)は、約2 cSv (2センチシーペルト=20ミリシーベルト)の被曝線量であった7,400人のグループで著しい低下が見られた。(グラフ。4c、清水ほか、1 9 9 2a )同値は約3 cSv であった。日本の被曝生存者において、殆どの臓器ガンの死亡率には予想された通りホルミシス効果が認められる。(近藤、19 9 3)


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 広島、長崎両市の累積での全てのガン死亡率をみると、7、400人のところで、市内平均(爆心地より3Km未満)の人々よりも著しく低かった。(グラフ。4d、清水ほか、1992 b)グラフによれば闇値は約3 cSv であった。外見上の闇値(グラフの左から2番目の点と、右端の3点とをつないで得られる直線からの闇値)は6 cSv であった。これによれば一般平均よりガンの死亡率が低い被曝者2 3、000人が含まれることになる。これらのデータは、白血病や臓器ガンの死亡率が低くなっていることを一貫して示している。このことは、平均寿命の増加につながるのである


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(続 く)