大崎上島(広島県)のMICHISHIO BREWING(ミチシオ ブリューイング)にビールを飲みに行った時の記録です。(訪問日:2024年12月13日(金))
前編に続き、今回はいよいよ店内にお邪魔します!
時刻は16時前。
天満港で自転車を返却した後、小走りでMICHISHIO BREWINGへ。予定外の小雨が降っています。(離島の天気予報はあてになりません)
オーナーの森夫妻と初対面!
夫の隆則さんはDIY中でしたが、作業の手を止めて歓迎してくれました。
妻の愛子さんも笑顔で出迎えてくれました。
初めましてなのに嬉しい!遠慮なくお邪魔します!
店内は6坪ほどで細長く、奥に醸造スペースがあります。右手前の扉は冷蔵室です。
こちらは麦汁を仕込むための寸動鍋です。
そしてこの小型冷蔵庫のような箱が、麦汁を発酵させてビールを作る装置です。
一般的なブルワリーではステンレスタンクで麦汁を発酵させますが、MICHISHIO BREWINGでは、温度調整機能を備えた箱の中に専用ビニール袋を敷き、その中で麦汁を発酵させています。
この醸造方法は「石見式醸造法」と呼ばれ、島根県の石見麦酒が発明したものです。ステンレスタンク式と比較して初期費用が大幅に抑えられるうえ、タンク清掃の手間を大幅に削減できるという、画期的な醸造法です。全国的にも、この石見式を採用する小規模ブルワリーは数多く存在します。詳しく知りたい方には以下の書籍がおすすめです。常識を覆す石見式の発想からは、ビール醸造に限らず多くの学びが得られますよ↓
愛子さんが、大切そうに冷蔵庫からペットボトルを取り出しました。
大崎上島産のトマトを丁寧に手で絞ったというジュースです。
大崎上島ではトマトの栽培が盛ん。一般的なトマトに比べて水分量が少なく、トマト本来の味や香りが楽しめる美味しいトマトだそうです。
※リンク先はイメージです(必ずしもリンク先の品種と同じとは限りません)
そんなトマトをざく切りにして、布袋で手絞りして抽出した液体がこちら。
美しく透き通っています。
ちょっとだけ味見させてもらったら、上品で濃厚な旨味にびっくり!!!
「トマトジュース」ではなく「トマト出汁」という印象です!
これは本当に驚きました!めちゃくちゃうまい!
強く絞り過ぎると雑味が混じるので、優しく絞るようにしているそう。
ミキサーで一気にジュースにするのとは訳が違い、相当手間と根気のいる作業です。
この貴重な「トマト出汁」をたっぷり使用して作られているのが、定番ビールの「Saison TOMATO」。トマト由来の爽やかな旨味のおかげで満足感の高いビールに仕上がっています。
MICHISHIO BREWING(大崎上島)の定番「Saison TOMATO」で乾杯!🍻
— しま彦(離島ビール倶楽部) (@island_beer) December 8, 2024
大崎上島産完熟トマトを贅沢に使用したビール。カラメルのような甘い香り。苦みは抑えめ。後味に広がる旨味はトマトのおかげ?😋
以前より一層美味しくなった気がします!🍺#広島県 #大崎上島 #クラフトビール pic.twitter.com/GCh3kYhamm
ここで、あらためてMICHISHIO BREWINGの建物をご紹介させてください。
MICHISHIO BREWINGが間借りしているのは1階の右手前部分だけですが、建物自体はその何倍も大きいです。
特別に、建物内の見学ツアーをしてくださいました。
100年以上前の建物だそうですが、古すぎて正確な築年数は分からないとのこと。
こちらは2階。もとは旅館だったそうで、広くて立派な造りです。
こちらは3階からの眺め。穏やかな港と造船所のクレーン。大崎上島らしい風景です。
大崎上島で生まれ育った隆則さんは、最近まで造船所関連のトラック運転手として働いていました。
一方、愛子さんは本土側の竹原出身で、結婚を機に島に移り住んでから20年以上が経つそうです。
「二人で何か新しいことを始めてみたい」という思いから、様々な商売を模索する中で意見が一致したのが、「島名産の柑橘などの農産物を活かしたビールを造る」というアイデアでした。
その構想を島のレモン農家の中原さん(隆則さんの同級生)に相談したところ、話が一気に進展。中原さんのレモンが石見麦酒のビールに使われていたこともあり、すぐに石見麦酒へ繋いでもらえたのです。
(写真:NHK 小さな旅より)
そこから、本業の合間を縫って夫婦で島根まで通い、石見麦酒で醸造研修を受ける日々が約2年間続きました。
「初めは何もわからず、自分たちの無力さを痛感する毎日でした。研修後の夜は毎回落ち込んで、二人で反省会をしていました」と、愛子さんは当時を振り返ります。
これまで数多くの離島ブルワリーを取材してきましたが、夫婦で一緒にビール造りを学んだという例は、僕の知る限り他にありません。研修を通じて知識だけでなく、体験を共有できたことが、二人の息の合ったビール造りに繋がっているのでしょう。
現在は、隆則さんが代表で、愛子さんが工場長。
MICHISHIO BREWINGのビールは、まさに夫婦二人三脚で生み出されています。
MICHISHIO BREWINGは、わずか6坪の店内なのでタップルームはありません。基本は瓶売りのみです。そのことは僕も察しつつ、「ここでビールは飲めるんですか?」ととぼけて聞いてみたら、即席カウンターを用意してくれました!
先ほど登場した中原農園のレモンを使用した「Session IPA Lemon」で乾杯!
レモンのフレッシュな香りが見事に活きています!
無農薬栽培されたグリーンレモン(黄色くなる前のレモン)の皮を使用。
香り成分が集まっている表皮のみをピーラーで薄く削り、苦みのある白い部分がなるべく入らないようにこだわっているそうです。
(写真:NHK 小さな旅より)
グリーンレモンは、黄色く熟したレモンより香りが強いのだとか。
完成品のビールの香りが素晴らしいのも納得ですね!
(写真:NHK 小さな旅より)
やっぱり離島まで来て飲むビールは最高です!
そしてこの即席カウンターが、めちゃくちゃ居心地良い!
新作ビールも美味しくて、ついついどっぷりと居座ってしまいました。笑
※島内産マスカットベリーAを使用したビール(写真左)と、島内産ライムを使用したビール(写真右)。いずれも限定醸造です。
日が落ちた後、島内のエディオンの社長さんがビールを買いに来られました。
前編でも書きましたが、大崎上島の人は皆さん口調が穏やかで優しいです!
初めて来たとは思えないくらい、心から寛げる時間を過ごせました。
帰りは愛子さんの運転で宿まで送っていただけることに。本当にありがとうございました。
今回のビール旅を一言で表すなら、この記事のタイトルにもした「心が満ちる島時間」でしょう。
これまで僕は、「島時間」という言葉を使うのをなるべく避けてきました。
理由は、「島の生活はのんびりしていて、都市部の方が忙しい」というステレオタイプな響きを感じるからです。
実際、地域の中で一人何役もこなす島の生活は、決してのんびりできるようなものではないと思います。少なくとも、都市に住む僕が軽々しく口にすべき言葉ではないと考えていました。
それでも今回、あえて「島時間」という言葉を使ったのは、穏やかで優しい話し方をする人々が多い大崎上島の雰囲気を形容するのにぴったりだったからです。
何より、MICHISHIO BREWINGのお二人からにじみ出る温かな空気は、「島時間」そのものでした。
MICHISHIO BREWINGの即席カウンターから海は見えません。
しかし、他のどの島にも負けない最高の「島時間」が流れていました。
「離島で飲むビールはなぜ美味しいのか?」
その答えに、また一つ近づいた気がする旅でした。
大崎上島の皆さま、そして隆則さん&愛子さんに感謝を込めて。
ありがとうございました!必ずまた飲みに来ますね!