鉄道ファンでなくても、その素朴さから「昭和の日本の風景」として多くの方に親しまれれている江ノ電。そんな江ノ電が、これまで慣例として容認してきた近隣住民による線路の横断を原則禁止とする方針を出した。

そもそも、開設当時の用地買収の経緯と立地的な問題から、踏切以外での線路横断を容認している箇所が無数に存在しているのだが、もちろん現在の交通法では、線路内への立ち入りは厳しく禁じられている。さすがの江ノ電も、企業に厳しい安全対策が求められる昨今の事情から、法令を無視するわけにもいかないらしい。

実はこの問題は高齢化社会による認知症の増加と密接に関わっている。先日も認知症の夫が線路内に立ち入り接触事故を起こし死亡した事件で、遺族である高齢の妻に賠償責任が課せられ、話題となったが、徘徊の結果引き起こす事件の増加は大きな社会問題となっている。企業の管理責任はもちろんだが、何よりも家族の人に悲しい思いをさせない為にも、安心して認知症の方をケアできる体制を整えることが重要だ。

現在、認知症患者への支援や保護は管轄の行政機関により様々であり、明確なガイドラインがない。認知症の患者の場合、体は健康なので何十キロと離れた町まで徘徊してしまうことも多く、行政間での連携がない場合、探し出せないケースも多い。しかし行政側からすれば、子供の迷子と違い、本人に帰りたいという意思があることを確認するすべがない以上、個人情報の観点から、積極的な情報公開を控えている。ごもっともだが、「認知症は病気ではないので、支援は必要ない。その他の身元不明者と同様に単純保護でよい」というのはあまりにも杓子定規ではないか。


親には、子供を監督する義務も責任もあるが、認知症の方の場合、本人の自由を拘束せずに、誰が何を監督するべきなのだろう。

家族も、行政も、そして企業も、高齢化社会の抱える新たな問題への取り組みは、始まったばかりのようだ。