シリーズ今だから言える 町田交通トラブル致死無罪事件その3 | 事件鑑定人のブログ@鑑定人イシバシ

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私が事件鑑定人としてこれまで経験したことを書きます。
特定を避けるため、一部、ぼかしたりフェイクもありますが、概ね実体験です。

前回の続き・・・・

 

【轢き殺すという選択肢】
 ここで、東名の交通トラブルで死亡した夫婦について考えてみる。
 この事故では、石橋和歩等を轢いてでも逃げるという選択肢があった。
 時系列的に見ると、停止してから衝突まで約3分あり、机上の計算では可能である。
 しかし、死亡した被害者等の車はキャブオーバー型のワンボックスス車。
 衝撃を吸収するボンネットがない分、歩行者の死傷率は高い。
 死亡に至らなくとも、衝突で歩行できなくなる受傷を得る可能性も低くない。
 その場合、後続車に轢過されることは必至であろう。
 しかし、東名事故で、死亡した夫婦が生還するには石橋和歩を轢くしかなかった。
 勿論、轢かれた石橋和歩が死亡する蓋然性は高い。
 しかしながら、死亡した夫婦が生還するためには、最も合理的な選択肢であった。
      
 
【無罪の代償】
 仮に、死亡した夫婦が石橋和歩を轢いて、最悪、死亡させてしまったとしよう。
 おそらく判決は、町田事件と同様に無罪の可能性が高い。
 町田事件の他にも、交通トラブルで死亡した事例でも無罪判決が出ている。
 しかし、無罪に至るまで年単位での取り調べや刑事裁判は避けられないだろう。
 現に町田事件の依頼者は、事件発生から無罪が出るまで約2年を要した。
 ちなみに、町田事件の依頼者は事故と同時に職を失っている。
 働き盛りの被告人は、家族を抱えており、アルバイトで糊口を凌いだそうだ。
 無罪までの2年間の窮乏は如何ばかりかと、察するにあまりある。
 最高裁判所で無罪を勝ち取った煙石博氏も、逮捕から無罪判決まで4年。
 無罪の代償は、あまりいも大きい。
 もし私が、東名で死亡した夫婦と同じ立場になったら・・・・
 私は、商売柄、石橋和歩を轢くことが、最も合理的な選択肢と瞬時に理解するであろう。
 しかしながら、そうと知りつつも目の前に人がいるのにアクセルを踏み込む自信はない。
     
 
【最後に】
 町田事件の被害者の行動は、石橋和歩容疑者に酷似している。
 ネットにも、生前の悪行が書き連ねられていた。
 死人に口なしで、今となっては書き込みの真偽はわからない。
 しかし、私はその事件で死亡した被害者に激しい憤りを今でも感じている。
 彼の父親の遺族調書には、息子に対する想いが切々と書かれていた。
 周囲から、蔑まれようとも息子を庇う内容で、悲哀に満ちた内容だった。
 私が憤りを感じること自体、死者に対して鞭打つことに他ならない。
 それでも憤を禁じ得ないのは、被害者が父親よりも先に逝ってしまったことである。

     

 

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末尾になりましたが、このたびの事故によって亡くなられた方、
ご遺族、関係者の皆様に、衷心よりお悔やみ申し上げます。
また、負傷をされた方々には、一刻も早い回復をお祈りいたします。

 

FAL 代表理事 石橋宏典