1991年4月、この年の桜花賞はレース前の波乱が物議を呼んだ。

大本命馬にレース前、落鉄のアクシデント。

急遽、装着が普通。だが、この大本命馬は暴れ、装着を許さなかった。


この年、阪神競馬場改築のため、京都競馬場で行われた桜花賞。

装着の遅れは5分、10分、と延び、ついに競馬会が決断したのが、落鉄のままの発走。


予定時刻11分遅れ、右前脚に靴を履くことなく走った大本命。

それが5戦5勝、名もなき家に生まれシンデレラといわれた、イソノルーブルだ。


父ラシアンルーブル、母キティテスコ。

イソノルーブルの生まれた浦河の能登武徳牧場は繁殖牝馬5頭ほどの弱小牧場。重賞発走馬も出すことのない無名牧場で、当然のごとくイソノルーブルの評価も低かった。セリで買い手がつくか、さえも危ぶまれた。買い手がつかない以上、競走馬として走ることは不可能。

目をつけたのは、中央競馬会だった。

当時、弱小馬主のためにあった抽選馬制度。競馬会がセリで一括購入した馬を抽選で馬主に分け与えるというもので、当然、価格は安いが、競走馬として競馬会が育成し、中央競馬会でのデビューは約束される。


抽選馬=安馬、というレッテルのもとにデビューしたイソノルーブル。

調教中も騎手を振り落とす気性の激しさが、負けん気となるのか、レースではつねに先頭を走り、他の馬には影も踏ませなかった。

スカーレットブーケ、ミルフォードスルーといった良血、良家のお嬢さんたちをものともしなかった。

重賞2勝を含め、5戦5勝。シンデレラ・ストーリー。

6戦目も華麗に逃げ切って桜の女王に。

だが、落鉄。靴を忘れたシンデレラは逃げることも叶わなかった。


3戦3勝、父は天馬トウショウボーイ、母は名牝シラオキに繋がるコニーストウショウ、良血シスタートウショウが桜花賞を勝った。

イソノルーブル5着惨敗。


落鉄さえなければ、もう少し落ち着いてから装着してくれれば、陣営の悔しさとは裏腹に、

「所詮、抽選馬」

「血統的にも大レースはムリ」

「裸足のシンデレラ、魔法が溶けただけ」

イソノルーブルへの巷の評価は冷たかった。



屈辱は

晴らすしかない。


5月19日、オークス。

断然の1番人気は桜花賞馬シスタートウショウ。2番人気ツインヴォイス、3番人気スカーレットブーケ(ダイワメジャー、ダイワスカーレットの母)、そして、4番人気がイソノルーブルだった。(7番人気タニノクリスタルはウオッカの父タニノギムレットの母)


レースはシスタートウショウの出遅れで始まった。

またまた、1番人気に暗雲。

そんなこと、知る由もなく、イソノルーブルはハナを切った。

相手が誰であろうと、先頭を走るだけ。

そして、めざすはゴール!


靴は履いている。

負けることは、考えない!


イソノルーブルは走った。

3コーナーから4コーナーにかけて、ツインヴォイス、スカーレットブーケが追い上げてきた。

だが、動じない。たっぷりと溜めた余力。

来れば、突き放す!


直線、ツインヴォイスもスカーレットブーケも、イソノルーブルに迫ることができない。

完勝か!


だが、違った。

出遅れた桜花賞馬シスタートウショウがやってきた。


シスタートウショウにも意地があった。

良血の意地。

イソノルーブルのアクシデントによる桜花賞勝利、

とは言わせない!


外から並びかけるシスタートウショウ、鬼気迫るものがあった。


イソノルーブルにも意地がある。

名もなき家に生まれたものの意地。

誉められることもなく、着飾ることもなく、ただ、ひたすら耐えて、自分を磨いてきた。



速く走ること。



それが、ここでは一番なのだ!



私は、女王になる!



イソノルーブル、シスタートウショウ並んだところが、ゴールだった。



ハナ差、



勝ったのは



イソノルーブルだった。