Isanan の駄文ブログ

… 自作小説(?)やら何やらの駄文を、気が向いたときにだらだらと書き連ねて行くブログです


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 湖に飛び込むとラシオンは、岸壁が張り出し陰になった部分まで泳ぎ寄った。そこには周囲から隠すように生け簀(す)が設けられていた。結わえていた紐を解き生け簀の囲いをはずすと中から泳ぎ出てくるものがあった。ファルーマに棲む大亀、マーティスだ。成長すると小型の船ほどにもなるこの水亀は、浅い岸辺の水草を主食とするおとなしい生き物である。後足は水中生活に適して櫂(かい)状になっていたが、前足は水底を這いやすいよう蹄のある棍棒状をしており泳ぎはあまり得意でなかった。そのため厚い甲羅で守られているものの簡単に捕えられてしまい、このような人里近くの水辺ではほとんど見ることができなくなっていた。しかしこのマーティスが今でも大量に生息している場所がある。聖域として漁の禁じられているアマルナカム島だ。ラシオンは随分前からオレフィーナ救出のため島へ行く手段として、このカメを船代わりに利用することを考えていた。聖域への人の侵入は認められていなかったが生き物は自由に出入りしているのを見ていたからだ。そのために島から迷い出てきたマーティスを捕獲し、密かに今晩までここに飼っていたのだ。

 ラシオンがまたがると果たしてマーティスは島に向かってまっすぐ泳ぎ始めた。望んだ方向に進むよう乗りこなす練習もしていたが必要無さそうだった。ラシオンは自然とアマルナカムの魔女とラーケロンにまつわる伝説を思い起こしていた。ファラト族はその歴史が残る最初の時からアマルナカムを聖域とし、その地に住む魔女をファルーマの使いと畏怖し崇拝してきた。魔女がその力によって湖で禁忌を犯した者に報いを与えたという伝説が幾つも残っていた。また魔女が民を助けた話も伝わっていた。嵐の到来を知らせたり疫病の治療法を教えたなどという内容だ。ラーケロンはファラトの伝説に登場するファルーマの巨大な生き物である。神聖視されていてファラト族の守護神と崇められていた。島のように大きく魚に似た姿をしているとされている。あまりの大きさに暴れると津波が起きたと伝えられていた。ラシオンも漁に出て突如大波に見舞われたとき、年長の漁師が「ラーケロンの仕業だ」などと言うのを耳にしたことがある。だが魔女もラーケロンも、今生きている者で姿を見た者はいなかった。だが伝説を疑う者の数も少なかった。アマルナカムには財宝が眠ると信じ掟を破って島に向かう者達がいたが、一人も生きては帰ってこなかったからだ。

 ラシオンは突然銛を握り締め周囲に警戒の目を走らせた。心の中の何かが危険を警告していた。月明かりの中、しばらく離れた所の波が不自然な動きをしているのが見えた。シャゴールの背鰭だ。シャゴールは剣のように伸びた二本の牙を持つサメの仲間で、ファラトの漁師が最も嫌い恐れる生き物である。その長大で鋭い牙はカヌーの底に穴を開けるほどであり、漁の際に獲物を狙って集まって来られると船上の人間ですら危険であった。そのシャゴールが、ラシオンの乗るマーティスの周りを円を描くように泳ぎ寄ってきていた。マーティスは気づいている風は無い。徐々にその距離が詰まってきた。と、不意に背鰭が水中に没した。ラシオンは銛を構え精神を研ぎ澄ました。夜の湖に静寂の時が流れた。いきなり間近の水面からシャゴールが飛び出してきた。その牙は正確にマーティスの首筋を狙っている。だがラシオンの銛の方が一瞬速く閃いていた。シャゴールの攻撃はそれた。目と鼻先の感覚器官を切り裂かれ、バシャバシャと水音を立ててもがきながらシャゴールは離れていった。

 その水音が突如として止んだ。水中に引きずり込まれたのだ。そしてさらに激しい水音が大きく響いた。何匹ものシャゴールが傷ついた仲間に襲いかかっていた。ラシオンは周りを見渡した。三角形の背鰭が、波間から幾つも突き出しているのが見えた。シャゴールの群れに周囲を取り囲まれていた。

(続く)

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 月と星の明かりが照らす湖畔の小径で、少年と老人は対峙した。老人は背筋を伸ばし威圧するようかのように少年を睨み付けた。少年は無表情のまま、厳しさを目に鋭く光らせ見つめ返した。

「儀式は始まった。誰も止めることはならん。止められもせん。すべてが一切終わるまではな。」

重々しい老人の声が夜のしじまに響いた。

「そこをどけ」

少年は答えた。鋭い視線と銛先を老人に向け身動きもしなかった。老人は少し声の調子を変えたようだった。

「おまえの気持ちは分かる、ラシオン。親を亡くし一緒に育てられたお前や他の子たちにとってあの子は、オレフィーナは姉よりも慕う存在であったろう。それにあんな良い子はいない。村の者も皆好いている。だがな、これもファラトに生まれた宿命なのだ。」

老人は窺うように少年を見た。少年の厳しい眼差しからは何も見て取ることができなかった。老人は言葉を続けた。

「仲間たちの奪還計画は失敗したぞ。」

「分かってる。船が出たからな。」

少年は口を開いた。相変わらず無表情のままだった。

「ラシオンよ、儀式を失敗させようなどと考えるな。こればかりはどうにもならんことなのだ。ファラトはファルーマに生きる民、ファルーマがファラトのすべてでありファラトはファルーマの一部だ。アマルナカムの魔女はそのファルーマの御使(みつかい)。魔女に逆らうことはファルーマに逆らうことに他ならん。ファルーマを母とし家とし最期の地とするファラトにとって、掟を守り儀式を行い伝えることは、受け入れざるを得ない運命なのだ。」

「それがオレフィーナが死ぬことの理由なのか?」

老人は沈痛な面持ちで顔を伏せ肩をすくめ首を振った。

「いずれ分かる。やがてお前はファラトで一番の漁師になろう。そしてファルーマから多くのものを獲ることとなろう。だが結局それは、すべて先祖が残したものであり子孫から奪うものに過ぎん。では何を得て何を残せば良いのか?それをファルーマ自身が教えてくれたのだ。それがファラトの掟であり、アマルナカムを崇めるということなのだ。ファルーマがすべてを与え、ファルーマがすべてを奪う。そうして何も変わらない。ファラトがファルーマとともに生きるとはそうしたことだ。季節が巡り月日が流れれば、お前にも分かる日が来る。だから…」

 突如少年の銛が閃いて老人の手から何かを弾き飛ばした。少し離れた地面に落ちたそれは呼び子の笛だった。

「どうやら俺を待ってここにいたわけでは無いようだな。」

老人は手を押さえた。だが持っていた笛だけが飛ばされ傷一つついていなかった。

「この場所の見張り役になっていたものの油断していて呼び子を吹けず、話をしながら吹く機会を窺っていたのだろう。」

「なあ、ラシオンよ。」

老人の声は弱々しいものになっていた。

「もう止めようとしても無駄なのだ。島までは誰も行くことはできん。今までにも生け贄を連れ戻そうとした者のことは何人も伝わっておる。だが誰も戻ってこなかった。魔女の怒りを買いラーケロンの餌食になってしまったのだ。」

 少年は一瞥もくれず足早に老人の横を通り過ぎた。途中落ちていた呼び子を踏み壊して行った。

「ラシオン、やめろっ。戻ってこい!」

小径は急な下りになって曲がり少年の姿はすぐに見えなくなった。湖に飛び込む水音が響いた。

 後には老人が一人残された。

(続く)

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 三つの月が天上にのぼり、天環の最明部にかかろうとしていた。月と星の光に鏡のようなファルーマの湖面が照らし出された。ファラト族の言葉ではファルーマは「海」と同義語だった。彼等の部族で本物の海を見たことのある者は永く存在しなかったし、この広大な湖の果てに渡りそしてまた戻ってきた者がいるとも記憶されてなかった。湖中に島が一つ、月明かりに白い岩肌を浮かび上がらせていた。ファラト族の聖地、アマルナカム島。今、そこに松明を燈した数艘の船が対岸を離れ向かおうとしていた。六十年に一度、金、銀、銅の三つの月が満月となり天環に最明部に集結するとき、ファラト族における最も重要な祭礼が行われる。部族の娘を生け贄としてアマルナカムの魔女に捧げる儀式、それが今日この夜執り行われようとしていた。

 その光景をやや離れた岸辺の断崖の上から見つめている者がいた。まだ子どもと言って良いような少年だった。少年の手には皮紐のついた背丈と同じ程の長さの銛(もり)が握られていた。その先には硬石から削り出した一つ鉤の銛先が銀色に輝いていた。それはファラト族の中でも格別に優秀な漁師に送られる栄誉の証であった。少年は船が島に漕ぎ出すのを見て確認すると、紐を肩にかけ銛を背負い崖のような斜面をまるでカモシカのようにかけ降りていった。

 下に着くと少年は急に立ち止まり銛を構えた。湖岸までの道を遮るかのように一人の老人が立ちはだかっていた。

「ここは通せんぞ、ラシオン。」

老人は口を開いた。

「オレフィーナを助けに行くつもりだろうが、そうはさせん。儀式は始まった。終わるまで誰も止めることはできん。」

(続く)

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(あらすじ)
 海のように広大な湖ファルーマ。三つの月がその上に輝く夜、湖畔に住むファラト族では最も重要な祭礼が執り行われる。部族の娘をアマルナカムの魔女へ差し出すのだ。ファラト族の少年ラシオンは、生け贄にされた少女オレフィーナを救い出すため、神獣ラーケロンが守るというアマルナカム島へ掟を破り一人向かった。

(登場人物)
ラシオン…ファラト族の少年。
オレフィーナ…ファラト族の少女。生け贄に選ばれた。
ウパ…両棲類に似た謎の生き物。言葉を解す。
アマルナカムの魔女…ファラト族の聖地アマルナカム島に住む魔女。
パオトン…魔女を護る島の番人。

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