完成の定義、プロの頭ん中。 | 彩遊戯の落チ語リ

彩遊戯の落チ語リ

(いろどりゆうぎのおちがたり)

所かまわず舞台をつくり
日本の遠い記憶で遊ぶ
クラフト演劇

もう2~3年くらい前になるでしょうか。

バーテンダーの経験がある友人の

何人かに聞いてみたことがありました。

 

「私をイメージしたカクテル作って、とか

言われたことある?」

 

私が聞いた範囲では、全員ありました。

まず、そういうお客さんが実在することに

驚きつつ、続けて聞いてみました。

 

「そのとき、どうするの?」

 

みんなからの答えを

思いっきりオブラートに包んで

お届けするなら、こうです。

 

「いったん、笑顔の下で思いっきり困る」

 

そりゃそうだ。

しかも、初対面でそういうオーダーを

される方も結構おられるようで。

 

でもねぇ、その人のイメージで

何かを創り出すって、

出会って数秒で得られる程度の情報じゃ

とてもとても足りない。

 

しかもバーテンダーさんの場合、

飲んでおいしくなきゃって問題も

あるわけで。

 

さらに「おいしい」ってのは

好みに思いっきり左右される

極めて流動的な価値観なわけで。

 

なんて恐ろしいオーダーだ、

他人事で良かった、などと

思ったものです。

 

で、何でそんな話を

ふいに思い出したかというと、

最近、言われたからなんです。

 

「何度かお話ししてみて、

鈴木さんのイメージとか

やっていることとかを考えると、

こっちの方がいいかな、と思って」

 

そう言って指し示された先には、

 

 

作ってくれたのは、

いきつけのカフェ「ザグリ」の

マスターと奥様。

 

 

マスターが文字と全体のデザインを、

奥様が真ん中のシルエットを

手掛けてくださった、

彩遊戯の新しいロゴです。

 

「ザグリ」と出会ったのは、今年の春先。

自主的飲み屋さん祭り~!とか言って

飲み歩いていた時に、

いっしょに飲んでた友だちが見つけて

入ったのがきっかけでした。

 

外に出た途端に酔いも吹っ飛ぶような

むちゃくちゃ寒い日だったんで、

休憩がてらノンアルコールの

温かいものを欲してたところ、

その友だちが入口のメニューに

「ポタージュ」を発見しまして。

 

木の扉を開けて中に入ると、

古いカメラとかタイプライターとか

あと、古文書的な本がずらり。

 

でも、フラスコ的なガラスの器とか

赤く小さく明滅するデジタル表示とか

近未来の実験室みたいな

理系の雰囲気も漂ってるし。

 

面白いなぁと思いながら

お店のマスターとお話ししてみたら、

何とこの方、デザイナーさん。

 

以前、彩遊戯のフライヤー用に

フォントを探していたことがあったんですが、

そのときむっちゃ気になってた本の

著者さんその人でした。まじか。

 

そしてマスターの奥様は組紐作家さん。

壁に取り付けられた木箱を開くと

繊細な作品が大切におさめられていました。

 

 

つまり、知らずに入ったこの「ザグリ」は、

お二人の作品でありアトリエでもある

カフェだったというわけです。

そりゃ個性的なわけだ。

 

すっかり気に入っちゃったもんですから、

その後、週1回くらいのペースで

お邪魔しましてね。

 

さっき古文書的な本も並んでいたと

申しましたけども、

明治時代から昭和初期ぐらいまでの

教科書がいっぱいあるんです。

 

マスターはその書体を研究しながら

新しいフォントを生み出したりもしてるんですが、

その話がまぁ~、面白い。

 

で、コーヒー飲みながら

いろんなお話をしている中で、

この方に新しいロゴを

お願いしてみたいな、という

気持ちになりまして。

 

いつも一緒にやってくれてる

黒子ちゃんやハッシーやどてらいさんも、

私がやたら楽しそうに話してたんでしょうね、

そんなに気に入ったんならお願いしたら?と

背中を押してくれました。

 

明治~昭和初期の文字デザインを

集めた本(マスターの私物)を見ながら、

個人的な好みとか、気になる書体とかを

ホント、雑談みたいな感じでお話しして。

 

あと、彩遊戯のパンフレットをお渡しして。

(実はあるんです。最近作りました)

 

落チ語リのことは、それこそ、

初めておじゃました時から

世間話のネタとしてちょこちょこ

お話しさせてもらってましたんでね。

 

そしてロゴお披露目の日、

さっきの言葉をもらったんです。

 

「何度かお話ししてみて、

鈴木さんのイメージとか

やっていることとかを考えると、

こっちの方がいいかな、と思って」

 

そしてね、新しいロゴは

もう1バージョンあるんです。

 

 

ロゴお披露目の日、

このデザインに行きつくまでの

ラフも見せてもらったんですが、

その中に、この文字入りの

バージョンもありました。

 

個人的にデザインのやり方や

考え方についても

興味があるもんですから、

せっかくの機会なんで

質問したんです。

 

「この文字入りをやめたのは

どうしてだったんですか?」

 

理由は、フライヤーに載せたり

小さくして使う場合に

文字が潰れて読めなくなるから。

 

なるほど、確かに!と思って

文字なしの方でお願いして、

翌週、完成版を受け取りに行きました。

 

すると、

お願いした文字なしロゴと一緒に、

文字入りの方も渡してくれました。

 

え?何で?と思ってたら

マスターが

 

「パンフレットや名刺にも

ふりがなをつけていらしたから、

もしかしたら、文字入りもあった方が

使いやすいのかな、と思って」

 

実は、そうなんです。

 

彩遊戯は「いろどりゆうぎ」ですが、

「さいゆうき」と読まれる方も多いです。

 

落チ語リは「おちがたり」ですが、

「おちかたり?どっちだ?」と

迷わせてしまうことも多いんです。

 

でも先週のあの場では、そんなこと

ひとことも言わなかったのに。

 

これがプロの仕事か!と。

 

創り出すだけでは未完成で。

届いた先でどう使われるか、

どう活かされるかまでを考えて創って、

実際に届けて、使われて。

 

そこまできてやっと

ひとつの完成を見る。

 

それが、プロの仕事なんだ、と。

 

このロゴが使われる最初の作品

「ハヤシライス遭逢譚」は奇しくも、

働くということについての物語です。

 

仕事というものには、

2つの側面があるような気がします。

 

ひとつは、憧れの対象としての仕事。

そしてもうひとつは、日常としての仕事。

 

2つの見方がすれ違った時、

いったい何が起こるのか。

 

…なんてなことを

考えながら書いてたんで、

ザグリのお二人の心意気が

余計、胸に響きました。

 

ロゴってのは、

今までとこれからを

ギュッと凝縮した旗印。

 

それを、

このお二人に手掛けてもらえて

本当によかった。

 

あのときザグリを見つけて

立ち止まってくれた友だちには

ホント、大感謝です。

 

今度ポタージュの1杯でも

おごろうと思います。

 

ロゴが立派になったんでね、

名前負けならぬ

ロゴ負けにならないよう、

落チ語リも精進してまいります。

 

どうぞ、これからもおつきあいの程

よろしくお願い申し上げます。

 

それにしても、

仕事してる人って、カッコいいっすよね。

 

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彩遊戯の落チ語リ

「ハヤシライス遭逢譚」

2017年8月26日(土)

13:30開場・14:00開演

公演詳細:

https://irodoriyuugi.amebaownd.com/pages/423362/page_201604172215

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ザグリHP

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