「言の葉が散る季節」
役表 比率 1:1
男:
女:
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男『形あるものは、いずれ無くなる。どこかのだれかがそう言ったように、僕たちも、いずれ亡くなる。』
女『私たちがいずれ無くすものは『言葉』それを無くした時、私たち自身も亡くなる』
男『言の葉が、散る季節』
―――――場所は二人が住む部屋。二人は雨が降る窓の外を眺めながら二人掛けのソファに寄り添うように座っている。
女「ねぇ」
男「ん?」
女「今日、雨降りね」
男「そうだね」
女「こんな日は、なんだか気分が落ち込んじゃうわね」
男「そうだね・・・でも君がいるし」
女「ふふっ、ありがとう」
―――――雨が、少し強くなる。
男「雨、止まないね」
女「そうね・・・」
男「洗濯物、干せないね」
女「雨だから、ね」
男「まぁ、明日干せばいいか」
女「明日・・・来るかな」
男「来るよ、今までだって・・・来たじゃないか」
女「そうね・・・きっと来るわ」
―――――雨が、更に強くなる。
男「寒く・・・なってきたね」
女「じゃあ、温まる話・・・してあげようか」
男「温まる話?」
女「そう」
男「いいね、聞かせて」
女「私、あなたが好きよ」
男「えっ・・・ありがとう、なんだか・・・照れ臭いね」
女「どう?温まった?」
男「うん、ばっちり」
―――――雨は、降り続けている。
女「明日って」
男「ん?」
女「明日って見たことある?」
男「ないけど・・・」
女「でも、みんな『また明日』ってよく言うよね」
男「確かに」
女「私、嫌いなのその言葉」
男「どうして?」
女「見たことないから」
―――――雨が、勢いを増す。
女「だから、明日が来る前に言いたいこと言うわ」
男「えっ。何」
女「私、あなたのことが本当に好きなの。本当に、好きなの。今まで私は素直に気持ちを伝えてくれるあなたに甘えて、自分の気持ちをちゃんと伝えてこなかったわ・・・」
男「そんなことないよ、君の気持ちは僕にちゃんと伝わってるよ?」
女「ダメ、今日は言うの」
男「・・・聴くよ。僕に聴かせて。君の言葉を」
女「うん・・・」
―――――女は、呼吸を整えてゆっくりと言葉を紡ぎだす。
女「あのね、私あなたと結婚して幸せよ。私、小さいころから無口でうまく気持ちを伝えることができなかったから、誰からも愛してもらえなかったの。私たちの間で一番大事なのって『言葉』で『伝える』ことでしょう?私は、それができなかったんだから愛されなくて当然だよね。私がどれだけ想っても、伝わらないんじゃ意味ないもんね。でもね、あなたと出会えた。あなたは特別だった」
男「僕が、特別?」
女「そう、あなたは特別。あなただけ、言葉にしなくても私の想いをわかってくれた。不思議だった、ほかの人たちはちゃんと『言葉』で『伝え』ないとわかってもらえなかったのに・・・あなたは、こんな足りない私を、ちゃんと愛してくれた。」
女「最後まで」
男「最後って・・・」
女「私ね、もうすぐ散るの」
―――――雨が、窓を激しく叩く。
男「散る・・・って、まさか」
女「そうなの、もう私には残ってないの」
―――――女が男に手のひらを差し出すと、そこには「87」と、数字が浮かび上がっていた。
男「87・・・そうか・・・」
女「だから、ダメなの。明日じゃ、明日になるとあなたまでも見えなくなってしまうから・・・」
男「君が散ってしまう前に。僕の言葉も・・・聴いてくれますか?」
女「・・・聴かせて」
男「・・・僕は、あなたのことが好きです。君が、無口な理由も
・・・今わかった。少なかったんだね、遣える言葉が」
男「君が、勇気を持って、僕に『伝えて』くれたから。僕も、君に『伝え』なきゃ、いけないことがあるんだ。僕は、言葉を発するのが、上手くないんだ。だから、僕も、愛してもらえなかった。でも、そんな時、君と出会えた。心地、良かったよ。君との時間は。」
女「私も」
男「この、喋り方が・・・恥ずかしくって『伝える』のが、好きじゃなかったん、だけど、君は最後まで、黙って聞いてくれるから、好き。だから・・・足りないのは君だけじゃなくって・・・。ごめん・・・上手く『伝え』られなくて」
女「ううん、ちゃんと、しっかり、私に『伝わって』る・・・ありがとう。最後まで・・・あなたのこと、愛してる」
―――――その言葉を最後に、女は静かに散った。
男「ありがとう・・・僕も、最後まで・・・」
―――――散った女を抱きしめようとする男の手のひらには「5」と数字が浮かび上がっていた。
男「愛してる」
―――――男は、眠るように散った。
―――――雨はもう、上がっていた。
END