別に今すぐ自分が死ぬだろうって思っているわけじゃない。

 ただ生きられる日々は永遠ではない。そして生きられる時間は、多くのものが思っているほど長くはない。

 俺は、目の前で生を終える生き物をたくさん見た。子供もいた。赤ん坊もいた。飢えで死ぬものも、寒さで死ぬものも、病気で死ぬものも、誰かに殺されるものもいた。

 死は運命だから仕方がないと誰かが言う。弱肉強食は仕方がないと誰かが言う。仕方がないならしょうがない。ただ俺は、俺の生きたいように生き、死にたいように死ぬだけだ。
 目の前の鳥は、俺の言っていることなどなにも理解できていないようだ。地面をくちばしでついばみ、ときどき顔をしかめ石ころを吐き出しながら、言う。
 「ねえ、野良猫さん。もうすぐ死ぬって言うんだったらさ、こんなとこにいないほうが良いんじゃないの」
 鳥のくちばしには、泥がついている。拭いてやりたいが、俺の前足を伸ばしたら、鳥なんか簡単に吹っ飛んでしまうだろう。
 「こんなところ?」
 「うん。こんなところで、ひとりでいるなんてさ。最後に会いたい誰かのとこ、行ったら?」 
 そんなのいない、そう言いかけて、俺はふと、北の国にいた猫のことを思い出した。
 いつも俺に、キャットフードを分けてくれた飼い猫だ。
 「キャットフードだったら生きてないから、食べられるでしょ。あげても良いわよ」
 なんて、生意気な飼い猫は言った。あの猫、どうしているだろうか。
 黙りこんだ俺に、鳥は、
 「行ったほうが良いよ。いつ死ぬか分かんないんだから」
 と、少し得意げに言った。小さな丸い頭を小突きたいような抱きしめたいような、不思議な気持ちに俺はなる。