花は、もう何も答えなかった。
 僕は何度も何度も声をかけて呼んだけれど、でも、もう花は答えなかった。
 「あんた、この花の知り合いなの?」
 いつのまにか傍にいた猫が、僕に話しかけてきた。僕は上手く答えることができなくて、開いた口ばしからは白い息が漏れただけだ。
 「花は幸せだったと思うよ。死にたい場所で死ねたんだから」
 猫が、知ったようなことを言ったので、僕は一瞬猫に対して酷い憎しみを感じた。何も知らないくせに。何も。
 僕が「空を飛ばせてあげる」なんて言わなかったら花は死なないですんだはずだ。
 僕が自分勝手にただ「してあげたい」なんて驕った感情を押し付けてしまわなければ、花はまだいい匂いをさせて咲いていたはずだ。
 僕は目を逸らした。もう、しんなりとした葉を見ていられなかった。かさついた花びらを見ていられなかった。ぐにゃりと横たわった茎を見ていられなかった。 
 濡れた土は気持ち悪くまとわりついて、僕を不安にさせる。
 「幸せだったと思うよ、花は」
 猫がもう一度呟いた。
鳥である僕にだって、花の気持ちなんか分かりはしなかった。
 ただ僕は目を瞑った。
 目の裏に映る花はまだ綺麗で、余計に涙が出た。