NSAIDで認知症リスクは変化するのか? | 薬剤師のためのEBMお悩み相談所-基礎から実践まで

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こんにちは、黒田です。



とあるNSAIDを服用している方から、「この薬を飲むと認知症になると新聞に書いてあったけど、大丈夫なのか?」といった旨の質問を受けました。このケースは常識的な使用法だったこともあり、心配ないと説明したわけですが、実際のところNSAIDと認知症の関係はどうなっていたか、ややうろ覚えなところがあります。確か、むしろ認知症の発症予防にNSAIDが使えないかという試みがされているものの、決定打に欠ける状態だったような記憶がありますが・・・。


どうもこのあたりが判然としないので、この機会にNSAIDと認知症の関係について調べることにしました。



 

 

参照した文献

PubMedで検索をしたところ、やはりNSAIDを使用することで認知症のリスクを低減できるのでは?という仮説を検証したものが結構出てきました。もっとも、その結果は微妙なものが多く、現時点ではまだ仮説段階と考えてよさそうです。


ともあれ、これは今回の記事の疑問とは逆向きのベクトルでの検証です。むしろ認知症のリスクを増大する方向での検討が行われた文献がないかさらに調べたところ、発見しました。文献1です。もともとはオピオイド使用と認知症の関係を調べたものですが、併せてNSAIDについても同じことが行われています1)。今回は、これを読んでみます。
 

  • P: ベースライン時点で認知症のない65歳以上の人
  • E: オピオイドまたはNSAID暴露
  • C: 暴露なし
  • O: 認知症の発症
  • T: コホート研究


対象薬物の暴露量は、TSD (total standardized doses) という尺度で測定されている。オピオイドについては、モルヒネ30mgが1TSDに相当すると記載されている。他方、NSAIDについては1TSDがどの程度の薬物量に相当するかは書かれていないが、イブプロフェン1200mg/dayを1.5年間継続すると、この試験におけるもっとも高い暴露量区分 (541+TSD) になるとのこと。





 

結果

暴露量区分ごとの補正後 (Cox比例ハザードモデル) 認知症発症ハザード比はTable 2に示されているので、下に引用。統計学的有意にハザードが増大しているのは、オピオイド・NSAIDともに最大の暴露量区分のみ (アルツハイマー病に限定していえば、NSAIDは最大暴露量でも有意差なし)。






さらに、TSDとハザード比をグラフ化したものがFigure 3となり、同じく引用。(オピオイドの方は引用していないが、) いずれも薬物も低TSD部分では統計学的に優位でないものの、一過性のハザード比減少が認められ、そこから直線的にTSDが増大している。しかしながら、上記の通り統計学的に優位な増大になるのは、TSDがかなり高い領域のみ。





コメント

背景としてNSAID使用による認知症発症について、増大させる報告と減少させる報告があることについては、上記Figure 3で説明できると思われます。つまり、累積暴露量が低い領域では発症リスクを低減させ、それ以上の暴露量領域では逆に増大させるということです。どのくらいの使用量を見込むかによって、発症への影響が逆転して見えると言い換えてもいいでしょう。


もっとも、認知症リスクに対する影響がどちら向きの暴露量領域でも、その程度は小さく、普通の使い方をしている限りにおいては極端に発症しやすくする、または発症しにくくするということはなさそうです。この文献において統計学的に優位なハザード増大を示した541+TSDは、上に書いた通りイブプロフェン1200mg/dayを長期に継続した場合に相当します。これは日本の添付文書容量の倍ですから、それを1年半も連日使用するというのは通常の臨床ではちょっと考えにくいことです。したがって、NSAIDによって認知症リスクが高まることは現実的にはまず考えられないと思われます。


一方で、認知症予防を期待してNSAIDを使うことも、また推奨できないと思います。この文献を見る限り、あるいはそうした検証をした別の文献の結果を加味しても、その効果量はあったとしてもかなり小さいと推定されます。しかしながら、心血管疾患や腎傷害などはNSAIDによって増大するでしょうから、総合すればデメリットのほうがはるかに大きいと考えられます。


というわけで、必要に迫られて常識的な使い方をする限りにおいては、NSAIDによる認知症リスクへの影響は特に気にする必要はないと思います。むしろ、胃腸障害や心血管疾患など別の副作用を心配すべきでしょう。



では、また次回に。



Reference

 

  1. Dublin S, et al. Prescription Opioids and Risk of Dementia or Cognitive Decline: A Prospective Cohort Study. J Am Geriatr Soc. 2015 Aug;63(8):1519-26. PMID: 26289681