心不全治療薬イバブラジンの効果 | 薬剤師のためのEBMお悩み相談所-基礎から実践まで
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こんにちは、黒田です。


新規の心不全治療薬が承認されたと聞きました。新しい作用機序を持つ薬物とのことですので、基本的な情報を集めつつ効果を検討した臨床試験も見てみたいと思います。



 

イバブラジンの基本情報

その薬物は「イバブラジン」というそうです。まずは添付文書とインタビューフォームを参照して、基本情報をまとめておきます1,2)
 

 

  • 効能効果:洞調律かつ投与開始時の安静時心拍数が75回/分以上の慢性心不全 ただし、β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者に限る
  • 用法用量:通常、1回2.5mgを1日2回食後に経口投与から開始。その後、忍容性を確認しながら必要に応じて増量。1回投与量は2.5、5、7.5mgのいずれかにして、1日2回食後経口投与とする
  • 併用禁忌:リトナビル、ジョサマイシン、イトラコナゾール、クラリスロマイシン、コビシスタット、インジナビル、ボリコナゾール、ネルフィナビル、サキナビル、テラプレビル、ベラパミル、ジルチアゼム
  • 代謝:主にCYP3A4で代謝される
  • 作用機序:洞結節において電気刺激が自発的に発生する自動能形成に関与する過分極活性化陽イオン電流 (If) の形成にかかわるHCN4チャネルを阻害することで、Ifを抑制する



HCNチャネルをターゲットにした医薬品は、知る限りでは初めてだと思います。洞結節への直接的な作用を有する点では、カルシウムイオンチャネル遮断薬と類似しているといえるでしょう。しかしながら、そのカルシウムイオンチャネル遮断薬のベラパミル・ジルチアゼムと併用禁忌なのは注意が必要と思われます。



 

臨床試験

ここからは、イバブラジンの効果を検討した臨床試験を取り上げます3)。これは、海外で行われた「SHIFT」という試験の日本人患者対象バージョンで「J-SHIFT」というそうです。


Summary

 

  • 適切な治療にもかかわらず、NYHAクラスⅡ以上で左室駆出率が低下した頻脈患者に、イバブラジンを投与すると、プラセボと比較して、心血管死または心不全悪化による入院が減少するか検討した、二重盲検RCT
  • 心不全悪化による入院は有意に減少したが、心血管死のほうはほとんど違いがなかった





Study design

  • P: Patients with NYHA functional class II–IV, left ventricular EF ≤35%, and resting HR ≥75 beats/min in sinus rhythm under optimal medical therapy (NYHA分類でクラスⅡ-Ⅳかつ左室駆出率35%以下かつ適切な薬物療法下での安静時心拍数75拍/分以上の患者)
  • E: イバブラジン
  • C: プラセボ
  • O: The primary endpoint was the composite of cardiovascular death or hospital admission for worsening HF (主要評価項目は心血管死と心不全増悪による入院の複合)
  • T: 二重盲検RCT

 

  • ランダム化:最小化法による割り付けが行われている。被験者背景にも特に偏りは見られない
  • ITT解析:完全に守られている (両群とも、割り付けられた127名がすべて解析に組み込まれている)





Result

主要評価項目に関するカプランマイヤー曲線を以下に引用する。複合エンドポイントとしてはイバブラジン群で良好な傾向だが (ただし曲線全体としては統計学的有意差なし)、これは主に心不全悪化による入院の減少によるものと読み取れる。心血管死のほうはイベント数自体も少なく、目に見えるレベルの差異は出ていないようだ。なお、複合エンドポイントのNumber at riskが16週以降に急激に減少しているが、これは試験デザインが最低52週 (=13か月) の介入+52週までの観察という形態をとっているためと思われる。つまり、観察打ち切りにがそのくらいの時点から増え始めるということで、30か月時点などの曲線はあまりあてにならないかもしれない。








副作用についての検討も行われているが、両群で目立った差異はなかったようだ。





コメント


心不全増悪による入院を減らす効果はありそうですが、より重篤なアウトカムを加えた解析ではプラセボと比較しての明確な差を示せなかったということ。もともとの使用条件にも制限があることを考え合わせると、実際に投与に踏み切られるケースは案外少なくなりそうに思えます。イバブラジンを開始する前には、ベラパミルやジルチアゼムがすでに試みられていると予想されますから、これらであまり効果がない場合にスイッチする形で使用されることが多くなるでしょうか。


海外では10年以上前に販売が開始された薬物ですが、国内での使用データはまだまだ少ないので、今後も注視したいと思います。


では、また次回に。




Reference

  1. コララン錠 添付文書 小野薬品工業株式会社
  2. コララン錠 インタビューフォーム 小野薬品工業株式会社
  3. Tsutsui H, et al. Efficacy and Safety of Ivabradine in Japanese Patients With Chronic Heart Failure - J-SHIFT Study. Circ J. 2019 Sep 25;83(10):2049-2060. PMID: 31391387