ループ利尿薬による聴覚障害について | 薬剤師のためのEBMお悩み相談所-基礎から実践まで

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こんにちは、黒田です。


薬剤師国家試験の解説を作成する過程で勉強した内容をまとめていたときに、ループ利尿薬の副作用として聴覚障害が挙げられている資料を目にしました。大学時代の講義でも普通に習った内容ですし、今まで特段気に留めることもなかったのですが、よくよく考えてみるとどうしてループ利尿薬で聴覚に影響が生じるのか、そのメカニズムについて詳しい説明を見た記憶がありません。


そこで今回は、利尿薬と聴覚障害との関連性について調べた内容をまとめることにします。


 

有毛細胞とコルチ器について


いくつかの文献を読んで得られた結論として、ループ利尿薬による聴覚障害のメカニズムとして、以下のものが推定されます1-3)
 

 

  • 有毛細胞の電位を変化させる
  • コルチ器に対する力学変化



しかしながら、そもそも「有毛細胞」と「コルチ器」が何なのかわからなかったので、これについても調べてみました。幸い、よくまとまった日本語の総説を発見できましたので、ここから重要な点を拾っていきます4)
 

  • コルチ器は蝸牛内部に存在する膜迷路という構造中にある、基底膜上に位置する器官である
  • コルチ器は有毛細胞・支持細胞・蓋膜からなり、このうち有毛細胞は内有毛細胞 (IHC) と外有毛細胞 (OHC) に大別される
  • 音は流体の振動として伝わり、これをIHCが自身の上端に持つ聴毛の屈曲により感知する
  • OHCは、IHCと協調することで音の感知に関与している



つまり、音が空気中を伝わる→耳小骨を振動させる→蝸牛のリンパ液に振動が伝わる→基底膜上のコルチ器に屈曲運動が生じる→IHCの聴毛も屈曲する→IHCの脱分極が生じる→神経伝達物質が放出される→音を認知する、という流れになっているようです。同じ文献4から、コルチ器の構造の図を下に引用します4)






上の流れにはOHCが出てきませんが、同じ総説によれば次のような形で音の認知に関連するとのことです。

 

  • コルチ器が上方に変位すると、OHCは自身の聴毛が蓋膜と接しているために押し曲げられて屈曲する
  • コルチ器が下方に変位すると、上と逆のことが起こるのでOHCは伸展する
  • 上記2つを繰り返すことで、OHCはコルチ器の変位を増幅させる



文献では、OHCのはたらきをブランコの立ちこぎに例えていました。要するに、聴毛や細胞自身の弾力性を利用してコルチ器の屈曲運動を増幅することで音の認知をしやすくするのが、OHCのはたらきということでしょう。


 

具体的な作用機序は?


ループ利尿薬が有毛細胞とコルチ器に影響することで、聴覚に変化をもたらすことはわかりました。上で挙げた「有毛細胞の電位を変化させる」についてはIHCからの神経伝達物質の放出に影響を及ぼすでしょうし、「コルチ器に対する力学変化」とはコルチ器の屈曲運動のしやすさを変化させるという意味なのでしょう。


では具体的に、ループ利尿薬がどのような作用機序でこうした変化を生じさせるのか?このあたりについては、先ほど挙げた文献には詳しい説明がありませんでした。手元の医薬品集を見ると「内耳に存在するNa-K-2Cl輸送体が関与している」と書かれています5)。つまり、ループ利尿薬の本来的な作用機序がそのまま関係しているようです。確かに、内耳のリンパ液の水分量などに影響することによって、これまで書いてきたような変化が生じることはありえそうに思います。


ちなみに、この副作用は通常可逆的だそうです3)。この点は患者のQOLにとって重要なので、覚えておきたいと思います。


では、また次回に。



Reference

 

  1. Rybak LP. Ototoxicity of loop diuretics. Otolaryngol Clin North Am. 1993 Oct;26(5):829-44. PMID: 8233492
  2. Ruggero MA, et al. Furosemide alters organ of corti mechanics: evidence for feedback of outer hair cells upon the basilar membrane. J Neurosci. 1991 Apr;11(4):1057-67. PMID: 2010805
  3. Lin BM, et al. Hypertension, Diuretic Use, and Risk of Hearing Loss. Am J Med. 2016 Apr;129(4):416-22. PMID: 26656761
  4. 和田仁 内・外有毛細胞のメカニクス Audiology Japan 2016 59:161-169.
  5. メディカルレビュー社 治療薬UP-TO-DATE 2018