薬剤師のためのEBMお悩み相談所-基礎から実践まで

EBMの基礎の解説、薬剤師業務に役立つ情報の紹介、学んだ内容の共有。これらを総合して行う、薬剤師生涯学習の拠点を目指します。


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こんにちは、黒田です。


個人的な趣味の延長線上として、ツイッター上で薬剤師国家試験の問題を1日1問解説する、ということをやっているのですが、先日ビスホスホネートに関する問題を取り上げました。


その中でも言及したのですが、以前からこのクラスの薬剤に見られる食道毒性の副作用に興味を持っていたので、以下で調べた結果をまとめておこうと思います。







 

主な傷害の原因はビスホスホネート溶液の胃からの逆流である

私が個人的に気になっていたのは、ビスホスホネートを使用する際の注意点である「服用後30分は横にならない」という部分です。


いうまでもなく、これは食道に薬剤が滞留し、局所的な副作用が生じるのを避けるための措置です。しかし、仮に服用後に臥位をとり、薬剤が食道に張り付いたとしても、その後食事をするのだからその際に胃に移動するはずです。ということは、付着後30分以内に食道に対して何らかの傷害を与えない限りは大丈夫、ということでもあり、「いくらなんでも、そんな短時間で影響が出るものかなあ」と思っていました。


しかしながら、参考文献1を参照したところ、上で述べた「ビスホスホネートの食道毒性は、薬剤が食道に付着することが主原因」という私の思い込みは、どうやら正しくなさそうです。この文献から読み取れた要点を、以下に抜粋します (1)。


 

 

 

  • 予想される病態生理メカニズムは、直接食道刺激であり、薬物含有胃内容物の逆流がもっとも考えられる
  • 化学毒性の一種である
  • 出血は通常稀である
  • 胃または十二指腸には通常影響しない
  • 服用開始から食道炎発症までの平均期間は明らかでない
  • 市販前の試験では、入院を要する重症度の食道毒性はほとんど認められず、これらの大部分はビスホスホネートを中止することなく回復している
  • 市販後の調査では、食道毒性のうち25%が重度または重篤であり、16%は入院加療を必要とした
  • 他に同様の食道毒性を示す薬剤に、テトラサイクリン・キニジン・硫酸第一鉄・塩化カリウムが挙げられる




つまり、服用したビスホスホネート系薬剤の錠剤そのものが食道毒性を示すわけではなく、胃液等に溶解したものが食道に逆流することで、組織障害が生じるということです。簡単には、胃食道逆流症 (GERD) のより重症バージョンといえそうです。


ちなみに、同じ文献にビスホスホネート使用時の副作用の種類とその頻度についてまとめられていたので、以下に引用します (1)。








 

high-dose製剤の方が食道毒性が強いのか?

そうなると、次の疑問が湧いてきます。


ビスホスホネートには、連日服用製剤の他に、週1回や月1回など含量を増やす代わりに服用回数を減らすことができる製剤が存在するのは、ご存知の通りです。


これら相対的にhigh-doseとなる製剤では、服用した際の胃液中ビスホスホネート濃度は、連日服用の製剤と比較して高くなるはずです。そうなると、濃度依存的に食道に対する傷害性も増大すると考えられますが、これはどうなのでしょうか?


こうしたときに役立つのが、医薬品医療機器総合機構からの審査報告書です (2)。参照したのは、アレンドロン酸の週1回製剤の承認申請を行った際のそれです。食道毒性について検証した該当箇所を、以下に抜粋します。


まずは、単回投与時のデータから。

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イヌ単回投与食道刺激性試験(以下、単回投与試験)では、ペプシン含有人工胃液(pH2.0)で 0.8mg/mL に調製した溶液 50mL を麻酔下で食道内に 30 分間かけて持続注入し、投与翌日に雄 1 例、雌 4 例を剖検した。その結果、肉眼的変化はみられなかったが、病理組織学的検査では 2 例に粘膜下織の細胞浸潤、3 例に粘膜上皮の空胞化、1 例に粘膜上皮の限局性巣状壊死が認められた。また、投与 7 日後に雄 1 例、雌 4 例を剖検したところ、肉眼的変化はみられず、3 例に粘膜上皮及び粘膜下織にごく軽度の細胞浸潤、1 例に粘膜下織の限局性壊死が認められた

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次に、週2回投与についてのデータを、次に引用します。

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イヌ週 2 回 4 週間投与食道刺激性試験(以下、週 2 回 4 週間投与試験)では、ペプシン含有人工胃液(pH2.0)で 0.4mg/mL 調製した溶液 50mL が麻酔下で食道内に 30 分間かけて、週 2 回の頻度で 4 週間投与された。対照群にはペプシン含有人工胃液(pH2.0)50mLが同様に投与された。最終投与の 4 日後の剖検例では、対照群(雌雄各1例)で肉眼的及び病理組織学的に変化はみられなかったが、投薬群(雄 2、雌 4 例)では 5 例で肉眼的に灰赤色から赤色の色調変化がみられ、病理組織学的には 6 例全例で中等度から重度の糜爛性又は潰瘍性食道炎が認められた

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最後に、週1回投与に関するデータも、以下に引用します。

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イヌ週 1 回 4 週間投与食道刺激性試験(以下、週 1 回 4 週間投与試験)では、ペプシン含有人工胃液(pH2.0)で 0.8mg/mL に調製した溶液 50mL が、麻酔下で食道内に 30 分間かけて、週 1 回の頻度で 4 週間投与された。対照群にはペプシン含有人工胃液(pH2.0)50mLが同様に投与された。最終投与の 8 日後の剖検では、投薬群、対照群ともに、肉眼的及び病理組織学的に変化は認められなかった。

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ここで注目すべきは、週2回投与と週1回投与のデータです。計算していただければお分かりのように、上記の検証では、どちらも総投与量は160mgになります。したがって、両者の差異は一度に投与する薬剤doseのみといえますから、「より高濃度を暴露することで、食道毒性が増すのか?」の参考になるでしょう。なお、薬理学に詳しい先生方においては、検証されている濃度幅が狭いのでは?とお考えかもしれません。その点はごもっともと思いますが、あくまでも参考ということで、ここは一つご容赦ください。


その結果ですが、上記の通り週1回投与、つまり一度に大量を投与しても病理学的に明らかな変化はなかった、とのことです。もっとも、これは動物実験ですので、その結果をすぐさま外挿というわけにはいきませんが、high-dose製剤を使うことを過度におそれる必要はなさそうです。逆にいえば、食道毒性を軽減するために連日投与製剤を使う、という方法も意味がない可能性が濃厚、ともいえますが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

30分でいいのか?

一方で、別の疑問もわいてきます。


ビスホスホネート系の錠剤を服用するときのテンプレート的な注意点として、「服用後30分は横にならない」が挙げられることは、上でも述べた通りです。気になるのはこの「30分」という数字で、私個人的なことをいえば以前は服用した錠剤が食道に滞留しなければOK、と思い込んでいたために「30分もあれば胃まで到達する時間としては余裕だよな」と感じていました。


しかし、実際のところは先ほど書いたように、ビスホスホネートの溶解した胃液が食道に逆流することに主原因があるわけですから、これが胃を通過してしまわないといけないわけです。いわゆる「胃内容物排出速度 (GER)」が問題になるということですが、30分でこれに足りるのでしょうか?


GERについて手元の生物薬剤学の教科書 (3) を紐解いてみましたが、「GERには個体差が大きい。また食事・薬剤などの諸原因によって変化しうる」といった記載があるのみで、参考にできそうな具体的な数値は載っていませんでした。


別の文献を参照したところ (4)、「普通食では食後10分くらいから胃への移送が始まり、3-6時間で十二指腸への移送が完了する」とありました。諸条件によって変動するとはいえ、これもちょっと幅があり過ぎますね・・・。ただ、一般に空腹時にはGERは増大するとはいえ、十二指腸到達まで3-6時間かかることが多いことを考慮すると、30分では少し不足するのではないか、と思えます。


なお、こうしたときに該当薬剤服用後の血中濃度プロファイルをグラフ化したものがあれば、薬物が血液中から検出され始めるまでの時間をもってGERの近似値を推定できます。しかし、ビスホスホネートは生物学的利用能が極めて低く、投与後の血中濃度も通常検出限界以下ということです (5)、ぐぬぬ・・・。


ともあれ、「起床時にコップ1杯の水で飲み、その後30分横にならない」という指導方法は、世界的に共通して認められるもののようです (1)。いろいろな資料を見たところ、日本の添付文書等に書かれたこうした注意点は、海外ですでに市販されていた同クラス薬剤のそれを、そのまま持ってきたという経緯がうかがい知れました。


結論として、今後の検証の結果によっては、「30分」という数値が変化する可能性はあるものの、少なくとも現状ではこうした指導方法を踏襲する、保守的な対応が無難といえそうです。


では、また次回に。





Reference

  1. de Groen PC, et al. Esophagitis associated with the use of alendronate. N Engl J Med. 1996 Oct 3;335(14):1016-21. PMID: 8793925
  2. http://www.pmda.go.jp/drugs/2006/P200600034/63015300_21800AMZ10364_A100_3.pdf
  3. 瀬崎仁他 薬剤学第4版 廣川書店
  4. 辻彰 薬剤の消化管吸収 化学と生物 VoL.20 No.11  717-726.
  5. フォサマック錠35mg インタビューフォーム MSD株式会社
 
 
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