リトルウィッチアカデミア続編構想。TVアニメ版の10年後を描く物語のPartⅡ

魏怒羅騒動の後の魔法祭(2023年10月)を描く物語。

でも今回は、その9年前のお話。第1話からは5年後、TVアニメから続く2年生の時のお話。新世代の子たちとアッコたちが交わります。

 

 

 

◆2014年5月 メイフェア

 

「やったーーーー!!! いやっほー!!!!」

 

アッコがついにホウキで空を飛んだ。

 

皆が歓声を上げる!!

周りにはルームメイトのロッテ、スーシィ、それにアマンダ、コンスタンツェ、ヤスミンカの悪友3人組、ダイアナ、ハンナ、バーバラの(かつては天敵だった)上流3人組。

そして、ずっとアッコの味方だったアーシュラ先生、厳しかったがようやく理解者になったと思われるフィネラン先生、実はとても人間味溢れるホルブルック校長、さらに、もしかしたら何かあったかもしれないが、結局何もないはずのアンドリュー、フランクの名門男子校の生徒。

 

アッコを囲む皆の表情は様々だが、誰もが幸せそうだった。

アーシュラ先生は感極まって泣いていた。(*1)

フィネラン先生、ホルブルック校長も大満足の笑顔。

拍手するアンドリューの横でフランクは「やったーー!!」と万歳ポーズ。

ハンナとバーバラも手を握り合って心から喜んでいる。

この2人、かつてはアッコへのイジメを先導していた2人だが、昨年末の出来事以来、文字通り心を入れ替え、人が変わった様にアッコに接していた。ダイアナも満足そうだ。

 

ただ、世紀の一瞬ではあるが、飛んだと言っても10センチほど浮かんだだけ、まだ小さな一歩に過ぎなかった。

 

「おおお、すごい、すごい!!」 はしゃぐアッコ。

「じゃあ、前へ進むよ。。。。うーーん、と うーーんと、あれ?」

 

アッコは浮かんだものの、その位置から微動だにしない。

「前傾姿勢を取ればいいんじゃない?」ロッテがアドバイスを送る。(*2)

 

「こう?」 前傾姿勢を取って前へ進みそうな姿になるアッコ。

でも、進まない。前後に身体を揺すってみるが、それでも前に進まない。

 

「あらあら、とりあえず最初の決定的瞬間には立ち会えましたけど、今日はここまでのようですわね。」

ダイアナが冷徹な評価を下す。言葉使いはいつも通り上流階級の過剰な丁寧さで冷たさを感じさせるものだったが、表情は優しかった。

 

「えーーっ、進みそうな感じなんだけどなあ??」 悔しがるアッコ。

「でも、今までのことを考えたらすごい進歩だわ。急がず一歩一歩進めたらいいと思うよ。」とロッテがなぐさめる。

 

「えーー、もう少し、がんばらせて。」 勢いを大切にするアッコは、ここは集中すべき時だと、挑戦を続ける。

 

でも、やっぱり、その日はそれ以上の進歩はなかったようだ。

 

******

 

でも、今は、ルーナノヴァのみんながアッコを応援している。バカにする者はいない。

不幸なできごと、あのドリームフューエルスピリット、アッコの魔力を吸い取ってしまったことをアーシュラ先生は皆に告げていた。

アッコが飛べなかった理由はアッコに才能が無かった訳ではない、まして努力が足りていなかったわけではない。まあ、最初の頃は酷かったが・・・・。さらに付け加えると、それをも克服して学園一の魔女になったダイアナのすごさが以前にも増して知られることにもなったが。

 

その後、多忙なアーシュラ先生に代わって、ダイアナが熱心にアッコを指導する姿が見られるようになっていた。

 

そうして、魔法祭に向けて時は進んで行った。いや、今年は2年に一度のブライトンベリーで行われる魔女パレードがその前に控えていたのだが。

 

◆トーマスとその父

 

「トーマス、今年はまたうちの町で魔女パレードなどというふざけた催しが行われるそうだ。お前はまたトマトでもぶつけに行くか。」

 

「そうだな、魔女パレードはトマトぶつけるのが爽快だよな。魔女ったって大した魔法を見せてくれるわけでもないし。」

 

「フッ、お前は遊びのように思っている様だが、今度は遊びじゃない。本当に潰しに行くぞ。本当にな。」真顔で答えるトーマスの父、ロバート。

 

「そうなの? 潰すってどういうこと?」 ちょっと怖さも感じたトーマス。

 

「ああ、お父さんが魔法嫌いなのはよく知っているだろう。2年前じいさんが亡くなったのも魔法のせいだ。」

 

「ええ!そうだったの、魔法のせい?ってどういうこと。」 思いもかけなかったことを聞かされ動揺するトーマス。

 

トーマスも5年前に魔法に出会った。魔法を使う妖精ジョニィに出会い、見たことも無いものを見せられ、しかも空を飛んだ。それだけではない、おじいちゃんも魔法を使えたことに驚愕した。信じられない一夜だった。

しかし、それは長くは続かなかった。父は、祖父の家でトーマスが魔法に触れたことを知ると、それまで一切魔法の話はしなかったのに魔法を危険なものとして語り、以来触れることを禁止した。おじいちゃんの家に行った時も、トーマスとおじいちゃんだけにすることはなかった。そして、おじいちゃんが魔法に手を出していないか注意深く調べた。ジョニィと会うこともできなかった。しかし、トーマスはそれでもジョニィの声を聞いていたのである。人間の煩わしさの無い場所でまた魔法に触れてみたい気持ちを抱きながら。しかし、おじいちゃんが亡くなってからはその機会も消滅した。

その間、魔女嫌いの父からは魔法の悪い面ばかり聞かされていた。トーマスは魔法に魅了されたにもかかわらず、その危険性を嫌というほど叩き込まれ、”悪いものに魅了されてしまった”という不安定な心を宿すようになる。そして、今回、トドメとばかりにおじいちゃんの死が魔法でもたらされたものだと聞かされ、混迷を深めて行く。

父によると、おじいちゃんは5年前から隠れて魔法の研究を再開していたとのことだ。魔法は人間の精神力をエネルギーとする。それは命を削る諸刃の剣だ。この科学の時代にあって意味の無いものに囚われて命を無駄使いしたというのが父の見立てだった。

 

「お父さんは、今回最後の魔法を使う。お前も魔法を見たかった様だからな。実はそれが目的で魔女パレードに行っていたんだろ。今回使う魔法は、魔法の恐ろしさを知らしめるものだ。そうして2度と人間が魔法など使わない様に思い知らせるためだ。昨年、ここで空に花が咲いた、魔法が世界を救ったなどと噂されたが、それは実は魔法の暴走を必死に止めただけのことだ。奴らの不始末を奴ら自身が何とかもみ消したというのが真相だ。これからまた魔法が再評価される動きもあるようだが、クソくらえだ。俺が目を覚まさせてやる。上手く使わないと危険なもの、しかも使い手にも危険なもの、百害あって一利無しだ。」

怒りで興奮し始めた父の後ろの空気が揺らぎ始め、何か形づくろうとしていたのにトーマスは気づいていた。あの時、5年前、祖父の家でジョニィが現れる前振れの時の様に・・・・

 

おじいちゃんが亡くなってからジョニィと会う手段は完全になくなった。今はどこで何をしているのだろう? 自由になったあの妖精のこともトーマスは気がかりだった。

 

◆魔女パレード出演依頼

 

「フィネラン先生から呼び出しがあったって。アッコもだよ。何か重要な話らしいよ。」とロッテが告げる。

 

「えー、フィネラン先生から? 私は何もしていないよ。1年前とちがって、ずっといい子でいたもん。」

これまでフィネラン先生から呼び出された時は、大抵アッコが何かをしでかした時だったので、今回は私は関係ない、と自分にも皆にも言い聞かせるように、強調して主張をするアッコ。

 

「あ、でもダイアナ組も呼ばれているそうだから、悪いことじゃないと思うよ。」とロッテ。

 

「え、そうなの、ダイアナ組も。」

 

「そう、それにアマンダ組も。」

 

フィネラン先生の前に並ぶ、ダイアナ組、アッコ組、アマンダ組の9人。

 

「さーて、揃ったようね。我が校のニューナインウィッチが。」と切り出すフィネラン先生。

 

「え、ニューナインウィッチ?」驚くアッコと皆。

 

「そう、あなた方は我が校を代表して、2年ぶりに行われるブライトンベリーの魔女パレードに出てもらいたいと思います。」

フィネラン先生の口から出たのは指導ではなく、何か楽しそうな依頼事項だった。

 

「え、パレード!!!💗」 目を輝かせるアッコ。

 

「そうです、これまでも魔女の苦難の歴史を忘れさせないために、という目的で行われていました。ですが、今回は希望に溢れた魔法の未来も表現したいとのことです。昨年末、ブライトンベリーの空に咲いた花のこともあり、この町を魔法再興の地としてアピールしたいとの思いがあるようですね。正式発表はありませんが、あれは我が校の生徒によるものだとの話は結構伝わっています。なので、実際にそれを実行したあなた方にぜひともお願いしたいのです。」

 

「え、私とバーバラは何もしてませんでしたが・・」と恐縮するハンナ。

 

「いえ、大丈夫、ダイアナを支えてきたチームの一員としてぞんぶんに力を発揮してください。あなた方も以前からはずいぶん変わりました。大丈夫ですよ。」

そう、ハンナとバーバラもダイアナとアッコの関係に大いに刺激を受け、言動や態度は大きく変わった。もはや腰巾着とは呼ばせない、ハンナは明るく、バーバラは思慮深い、個性あふれる2人になっていた。

 

「すごいです!!フィネラン先生!!まさか先生からそんなお話が聞けるとは感激です。私がやりたいと思っていたこと、そのものです!!! ありがとうございます!!」 なんか涙目で感謝の意を告げるアッコ。

 

「こりゃー、アッコがやりたかったことには違いねー、確かにマジカルショーだもんな。でも、まだ満足にホウキで飛べねーアッコが活躍できるのかなーー?」 と、こんな時でも嫌味を言うアマンダ。

 

「え、何よ!やる気が出たら、一気に上達する。それが私ってものよ!!」と自信満々に応えるアッコ。

 

「パレードの構成とかシナリオはできているのですか?」と聞くロッテ。

 

「それもみんなで考えて欲しいわ。その方が楽しいでしょう。」と答えるフィネラン先生。

 

「うん、考えるわ! とびきり楽しくてキラキラのショー!!」はしゃぐアッコ。

 

「いや、ここはロッテだろう。アッコだとハチャメチャなものになりそうだ。本を沢山読んでいるロッテにまずシナリオを書いてもらうのがいいと思うけど。」とアマンダ。

 

「あ、それは私もやります!」と手を上げるバーバラ。

ロッテとバーバラは読書が趣味で大のナイトフォールファンだ。物書きも得意そうだ。

 

「ぜひともお願い。それから、私も参加させてもらってもいいかしら。ナインウィッチの一員としてしっかりした役割を担いたいわ。」とハンナも続く。

 

「となるとコンスはパレードの山車担当ね。やっぱりスタンシップよね。グランシャリオンも出す?グランシャリオンは魔女っぽくないけど、男の子には受けそうね。」とアッコがコンスに振る。

 

ボソボソと聞こえない声でしゃべるコンスの声をアマンダが拡声する。

「グランシャリオンを魔女っぽくしてホウキに乗せるそうだ。」

 

「えーーっ、それはすごくいい!でも今から間に合うの?」と歓声を上げながらも心配するアッコ。

 

自信満々の表情を見せるコンスタンツェ、またもやマッドサイエンティストいやメカオタクの心に火を付けてしまったようだ。

 

「ヤスミンカは観客に美味しいものの提供かしら。スーシィは・・・?」続けるアッコ。

 

「きのこをばら撒く・・・」

 

「みなさん、それぞれ個性あふれる力を発揮して、素晴らしいパレードが実現しそうね。」嬉しい表情のフィネラン先生。

 

◆アンの娘リラ(*3)

 

「あと、私からの特別なお願いがあるのだけど、聞いてもらえるかしら?」とフィネラン先生がかしこまったお願いをし始める。

 

「ええ、もちろんですわ。」とダイアナ。

 

「足手まといになったら申し訳ないのですが、私の娘にも手伝いをさせてもらえないかしら。初等部に居るのだけど、皆さんのお手伝いをするのはとてもいい経験になると思ったもので。」

 

「え、フィネラン先生のお嬢さんが初等部にいらっしゃったのですか!? それは存じ上げていませんでした。ぜひとも私たちもお目にかかりたいですわ。」とダイアナ。

 

「リラ、こちらにおいで、ご挨拶しなさい。」

 

現れたのはフィネラン先生の娘とは思えない(失礼)、とてつもなく可愛い子だった。

 

「初めまして、初等部2年のリラ・フィネランと申します。よろしくお願いいたします。」

 

あまりの美少女に感銘を受ける9人。瞳からは純粋で真っ直ぐな心が溢れ出てくる様だった。アッコはその瞳に見つめられて特に感激していた。

(この子とは長い付き合いになりそうだ・・・)アッコは直感的に感じていた。勿論、この時は自分が教師になり、リラを教える立場になる未来は想像もつかなかったが。

 

こうして、9人の17才の魔女と、1人の8才の美少女魔女によるルーナノヴァの魔女パレード隊が結成された。

 

「ところで、魔力問題はどうするのでしょうか。」ダイアナが尋ねる。

町の中では魔力が少ない。大きな魔法は使えない。グランシャリオンはとうてい無理だろう。

 

「それが、いいものがあるのよ。」とほくそ笑むフィネラン先生。

 

フィネラン先生が出してきたのはシャイニィロッド!、いやそっくりの杖だ。

 

「え!!!、何ですか?それは・・」驚くダイアナ。勿論、アッコも口をあんぐりさせる。

 

「クロワ先生の置き土産ね。コピー品だけど、そこはクロワ先生、かなり近い性能を持っているわ。」

クロワ先生はあの事件の罪を償うため服役中だ。

 

「クロワ先生はいつ戻ってくるのですか。」

 

「本当は10年くらいの罪だけど、色々情状酌量があってね。あと2年くらいで戻ってくるわ。でも、ワガンディアの呪いを解く方法を見つけるとも言っているから、さらに先になりそうね。」

 

「そうですか。でもクロワ先生が遺してくれたもの。一番いい形で使って、魔法の素晴らしさを広めていく責務がありますわね。」

ダイアナはダイアナらしく責任感を強調して真剣に取り組む姿勢を見せる。

皆にもその重要性が伝わったようだ。楽しいけど真剣にやる。いいパレードになりそうだ。

 

◆ハッピータイム計画

 

「じゃあ、みなさん、実はチラシをもう作っていたの。これをイメージしてパレードの構成を考えてくださいね。」

 

差し出されたチラシに書かれていたものは・・・

 

「魔法仕掛けのパレード」(*4)

ルーナノヴァの魔女達がお届けするハッピータイム!

 

◆光魔法(*5)

 

「アーシュラ先生は杖を使わない光魔法について知っているのですよね。ぜひとも教えてください。今度の魔女パレードで使いたいんです!」

アッコがアーシュラ先生に真剣な面持ちで尋ねる。

 

アッコはシャイニィロッドを失ってから、魔法そのものの研究を熱心に行うようになっていた。魔法の力はどこからくるのか?杖や魔法神器の役割とは? 以前の勉強嫌いのアッコとは思えない熱心さだった。

 

アーシュラ先生は、あのシャリオの失踪事件以来、同様の疑問を持ち、不幸な出来事を2度と起こさないためにも魔法の研究を密かに進めていた。人の魔力を勝手に奪うなど許されない。けれどもイグドラシルは人々の信じる心を魔力に変えていた。そして集めていた。魔法とは何なのか?魔力はどこから来るのか、正しい魔力の集め方とは?

 

その中で最も原始的な魔力の使い方として、杖などに頼らない、純粋に人間の力だけで魔力を創り出し、魔法に変える方法があることを突き止めていた。指先から光を出す魔法。便宜上、光魔法と呼んでいた。

 

その最も根源的な魔法をアッコも会得したいと思っていたのである。

 

「ええ、私も勉強中なの、一緒にやりましょう!!💗」

 

◆シナリオ作り

 

「ロッテ、シナリオの進み具合はどう?」 アッコが尋ねる。

 

「うーん、もう少し。」

 

「うん? これは何?「魔法を使えない魔女が世界を救うまで」??」

 

「あーーっ、それは見ちゃダメ!!」 慌てるロッテ。

 

「あー、あやしい、シナリオ以外にそんなものまで書いていたんだ。」

 

「シナリオは見てもいいけど、それはダメ!」 アッコの前からあわてて取り戻すロッテ。代わりに書きかけのシナリオを渡す。

 

アッコがまず目にしたのは、文章で書かれたシナリオではなく、パレード行進のメンバー配置図だ。

自分が目立つところに居るかどうかが最大の関心事だった。

 

「えーと、先頭は? え、ハンナ? 」

 

「そう、ハンナが率先して船が進む前方の安全確認を行いたいって。前の出来事には参加できていなかったでしょう。今回は積極的に大事な役割を担いたいっての申し出があったの。ちなみにバーバラは後方安全確認よ。」と、ロッテ。

「でも、船の穂先はアッコだから目立つよ。マストの一番上はダイアナだけど。全体を見てコントロールするのはやっぱりダイアナが適任だということで。そして、リラちゃんがダイアナの補佐としてブリッジに居るわ。」と続ける。

 

「リラちゃんがダイアナの補佐!?」 驚くアッコ。

 

「そう、ダイアナによるとリラちゃんはすごいらしいよ。要求事項を論理的に分解して、実行するのに最適な体制や実行手順を理路整然と提案してきたそうよ。さすがフィネラン先生の娘さんという感じ。でも、8才でそんなことができる子はそうそう居ないと思うけど。まあ、アッコには無理ね。アハハ。」

 

「えーーっ、何よそれ。 でも、リラちゃんってそんなにすごいんだ。可愛い上に・・。こりゃダイアナのライバルになって行きそうだな。いや、ダイアナ以上になったりして・・・」

 

「アッコが穂先に居るのは、トマト攻撃の恰好の標的という意味もあるんだけど・・・」と笑うロッテ。

そう、最初はこれまでのパレードと同じく、迫害される魔女を表現して伝統?のトマト攻撃が行われる。

トマト攻撃は悪ガキたちの役割だ。彼らの標的としてアッコは最適との判断だ。

 

「えーーっ、何よそれ。」 再度の抗議の声を上げるアッコ。

 

「いや、でも最初から目立つよ。」とメリットを掲げるロッテ。

 

「そして、私は歌担当で、皆を穏やかな気持ちにさせるの。まずは精霊を出して、そこから魔法の良さを徐々にアピールしていくの。」

 

「いや、なんだかロッテもいいところを取って行くな~。」

 

「アマンダが空中ショーを行い、ヤスミンカがお菓子をばら撒き、スーシィは皆の気分を良くする薬物を撒くわ。」

 

「いや、なんか、一つヤバイこと言ってない?」 アッコが疑問を呈する。

 

「そして、コンスタンツェが船をレディシャリオンに変化させるわ。ホウキに乗る大きな魔女が出現してパレードはクライマックスを迎えるの!!」

「その時は皆、空を飛ぶことになるけど。アッコは飛べないから、コンスと一緒に操縦席ね。」

 

「えーーーっ、クライマックスで私、いないじゃん。

 

◆台湾から来た宝石

 

「パール、はしゃぐんじゃないの。」

イギリスにやってきた一家。どうも台湾からのようだ。

 

この子はパール。パールは英語名で、正式名は潘明珠(パン・ミンチュー)と言う。年齢は7才。明るい珠ということで真珠を意味するパールを英語名にしている。

一見すると幼少期のアッコにとても似ている。

魔法に憧れている点も同じだ。

 

約1年前、ブライトンベリーの空の花の奇跡の日、その星降る夜をパールも体験していた。

それは台湾でも大きく報じられ、魔法を見直す動きはその地でも高まっていく。

魔法を題材にしたアニメも作られるようになり、パールは純粋にそれに魅せられた。

主役の魔法少女だけでなく、ちょっとワルぶった少年にも惹かれていた。

そして、ついに本場イギリスに来ることができたのである。

ブライトンベリー魔女パレードに合わせて。

はしゃぎたくなるのも無理はない。

 

「私も大きくなったらルーナノヴァに入れるかな?」

 

「ええ、パールなら大丈夫よ。あの空の花の奇跡を起こしたのは魔女家系じゃない子だって噂もあるし。」と、答える母。

 

「そうなんだ。あんな奇跡、私も起こしたいなー。あー、楽しみだなー、魔女パレード!! どんな魔女さんがやってくるのかな。」

 

「パレードは明日の夜だから、まずは町を観て回って気分を高めましょ。魔道具屋さんなるものもあるそうよ。」と母。

 

「ここね。魔道具カフェ「LAST WEDNESDAY SOCIETY」」

 

「いらっしゃいー、お、観光客さんね。昨年末の出来事以来、増えてきましたよ。観光客の皆さまが。なので、うちも外国の方が気楽に入れる様にしました。」

 

「私も何か魔道具が欲しい。」

 

「魔女パレードの見学時にあると楽しい魔道具とかはありますか?」母が尋ねる。

 

「そうだな~~、これなんかどうかな?」 店員が差し出しものは魔法のオペラグラス。魔力でどこまでも拡大して見れるものだ。

 

「それにしても、お嬢さん、可愛いですね。こんな子に似た子が前に良く来ていましたよ。ルーナノヴァの生徒なので、もっと大きい子ですが。日本人で顔立ちも良く似ていました。ただ、お嬢さんの方が可愛いかな? 」

 

「あ、ありがとうございます。初の日本人の入学生の方ですよね。1年前と言えば・・。」

 

「そう、実はブライトンベリーの奇跡を起こした子ね。あまり言うなとは言われているのですが、つい・・、よく似たお嬢さんだったので、紹介してもいいかな?と。。」

 

「そのおねえちゃんに会えたりするの。ここに居たら!!」と嬉しくなって聞くパール。

 

「最近は来ていないけど、明日のパレードにも出るらしいから、そこで思いっきり応援したら気づいてくれると思うよ。そうだ、そのために相応しい魔道具を紹介しよう。これなら絶対気づくよ。」

 

 

◆魔女パレード開幕

 

「さあて、いよいよ、皆さまお待ちかねのブライトンベリー魔女パレードが始まりますーーー!!! ナレーションは、ルーナノヴァ魔法学校の魔法天文学担当教師のアーシュラ・カリスティスが務めさせていただきます。」

 

アーシュラ先生の魅力的な声が響き渡る。

いよいよ、魔女パレードの開始だ。

 

緊張する10人。だが、ルーナノヴァで行っていた練習を再現するだけだ。落ち着いて取り組むみんな。

ただ、学内とは違い、魔力は似非シャイニィロッドから得る。うまく行くかどうか。

「スタンシップ浮上!」スタンボットが告げる。うまく浮上したようだ。

 

観客から歓声が上がる。

音楽も鳴り響き、いかにもパレード然とした雰囲気になる。

 

「いよいよ、スタートです。魔女達にこれから何が待ち構えているのでしょうか?」

 

すると、ほどなくスタンシップの穂先に居るアッコ目がけて多数のトマトが飛んできた。トマトの直撃を受けたアッコはトマトまみれになっていく。

 

「おーっと、魔女がトマトをぶつけられています。どうしてこんなことを・・ 魔女はトマトまみれになって可哀そうな姿になっています。」

 

魔女迫害再現ショーだ。観客の中にはいくらか可哀そうと思ってくれている人がいることだろう。

パールも「あのおねえちゃん、可哀そう」とちょっと泣きそうになる。

 

「おーい、そこの魔女、魔法くらい見せろよ!!」と大きな声で叫ぶ一人の少年がいた。トーマスだ。

 

アッコはとりあえず可哀そうな魔女の演技をしていたが、その声を聞いて、ついつい闘争心が出てしまう。

「なによ、魔法のすばらしさを見せてあげるわ!!」

「メタモールフィーフォシエス!」

アッコが変身魔法を唱える。すると飛んでくるトマトが蝶々に変わった。

これを見て、またもや歓声が上がる。

「おお、ちょっとはやるじゃないか。」ニンマリするトーマス。

 

「魔女が攻撃を楽しいものに変えていきます。これを皆さんは以前にも見たことがあるかもしれません。これが私たちの願いです。」

アーシュラ先生がうまく、伝えたいことを言葉にして行く。

 

続いてロッテが歌を歌い始めた。

「♪ La-La,La-LaLa,La-LaLa,La-La-La-La,LaーLaLa~~♬ ♫  La-La,La-LaLa,La-LaLa- ~~・・・・  」

すると、町の色々な所に宿っていた精霊たちが姿を見せ始めた。

 

「みなさん、魔女の歌で出てきた精霊たち、そう、このような精霊が全てのモノに宿っているのです。全てのものに命があることを感じて大切にしていきましょう。」

アーシュラ先生はさすがだ。いい話を紡いでいく。

 

今度はアマンダが飛び出す。空を縦横無尽に飛び回るアマンダ。飛びながら空に絵を描いていく。

 

「魔女と言えば、ホウキで飛ぶ姿。しばらくは空のショーをご覧ください。」

 

ヤスミンカとスーシィも飛び出した。ヤスミンカはお菓子をばら撒いて飛び回る。喜ぶ子供たち。

スーシィは薬物を撒く・・・のはやめて、パレードの道沿いに花のようなきのこを生えさせていた。ぎりぎりカワイイと言えそうなものだ。いくぶん前衛アートっぽくもある。

 

自然との共生も大切です。それにアートも大切です。これらを見て味わって豊かな心を育みましょう。美味しいものを頂きながら。」

アーシュラ先生は何でも素晴らしいことの様に表現する。

 

◆襲来

 

「トーマス!トーマス!聞こえる?」

「だれ?」トーマスは突然、頭の中に響いてきた声に戸惑う。

 

「そこから、船の前に出るように走って。前方に最大限の警戒を!」

「え、お前はだれなんだ? なんのことかさっぱりわからない?」

 

「今は君にしか伝えられない。先頭の魔女さんに警戒するように伝えて。」

 

トーマスは、訳が判らないなりに従わねばならない気がしていた。

全力で走って、ゆっくり進む船の前に出る。

マストの上から全体状況の把握に努めるダイアナがそれに気付いた。

「ハンナ、船の前方に子供が駆け出してきたわ。注意して!」

 

ハンナがトーマスに気付いた。

「そこの坊や、危ないよ。観客席に戻って!」

ハンナが近づき、船の進路からはずれるように指示をする。

 

「魔女のおねえさん、何か危ないことが近づいているようなんだ。警戒して。」と叫ぶトーマス。

 

「え、警戒? 危ないこと? どういうこと。」

子供の言うことだが、顔が真剣だったので、ハンナは一応警戒魔法を展開する。

 

すると、前方から微かに、だが、徐々に大きくなってくる魔力を感知したのである。

 

「ダイアナ、前方に正体不明の魔力が発生しているわ。ちょっと調べるから一旦進むのを止めて。」とダイアナに伝える。

 

「ハンナ、一人で大丈夫なの。私も行くわ。」

「ダイアナは全体を見ないといけない。私で大丈夫よ。」

 

船の前方をホウキで飛ばすハンナ。正体不明の魔力の発生地点に近づく。

 

アーシュラ先生がアナウンスする。

「ちょっとトラブルが発生したようです。少しの間、停止させます。すぐに原因はわかると思いますので、ちょっとの間だけお待ちください。」

 

魔力の発生地点に近づいたハンナ。

「あれは?・・なに? 空気が揺らいでいる?景色が歪んで見えるわ。」不可解な現象に戸惑うハンナ。

 

揺らぐ空気が徐々に形を持ち始める。子供の様な形だ。だが、姿が明確になるつれ、かわいいではなく、恐ろしいと形容した方がいいものになっていった。

全身が炎のようなものに包まれ、髪の毛が逆立った子供の様な姿をした得体の知れない魔物。そう、魔物と呼ぶべきものだった。それが時間が経つにつれ増殖していった。

 

恐怖を感じ、後退しようとするハンナ。

だが、次の瞬間、魔物が火の玉の様なものをハンナに向けて発射してきた。

 

とっさに避けようとするハンナ、だが、足のあたりに命中した。

「きゃあああ、」

足に熱さと痛みを感じ、ホウキから転落するハンナ。

だが、アマンダが抱きかかえるようにキャッチした。アマンダは上空からハンナを追っていたのだ。

 

「なんだ、こいつらは!?」

 

増殖してきたその他の魔物たちからも一斉に火の玉が発射された。

ハンナを抱えたままではアマンダでも避けきれない。

「くっそー 」

 

火の玉に囲まれ、それらが命中しようとした瞬間、空から波紋の様な炎が降ってきた。それはカーテンの様になって火の玉の前に立ち塞がり、全てを燃やし尽くした。

 

「な・・なに!?」驚くアマンダ。

 

ダイアナも傍まで駆けつけてきていた。

アッコはホウキでは自由に飛べないので、鳥に変身して、遅れながらもやってきていた。

皆、波紋の発生場所を探して空を見上げる。

すると、かなりの高いところに赤く輝く鳥の様なものが飛んでいるのを確認した。

 

この様子は観客からも見えており、ただならぬ事態に不安が広がっていた。

 

「きゃーーー、大変、魔物が出現したみたいです!! でも、ご安心ください。魔女たちがしっかりと対処します。空からは魔女たちの味方、聖なる鳥・・がやってきたようです!!」

と、アーシュラ先生は咄嗟にこれもショーの一部であるかのように解説を届ける。

 

「トーマス、僕だよ、ジョニィだよ。どうやら遂に仲間を見つけたみたいなんだ。でも、みんな怒っている、これはどういうことなんだろう。」

トーマスは謎の声の正体を知った。懐かしい声だ。

 

だが、同時にこの声はアッコの頭の中にも届いていたのである。

「え、だれ?なんなの?」アッコが声の主に向かって問い質す様に心の中で声を発する。

 

「あれ、君はだれ?トーマスとしか話ができないと思っていたけど、君は子供?」とまた声が聞こえてきた。

 

「失敬な、私はもう17よ。子供じゃないわ。」ちょっと憤慨しながら答えるアッコ。

 

「子供としか話せないと思っていたけど、不思議だね。でもよかった。魔法を使える人と話せて。」応える声。

 

「僕は仲間と交信を試みるから、攻撃してきたら、防いで。」

 

「え、仲間って何なの。こいつらは何?」アッコは疑問だらけだ。

 

「わからない。というか自分が何なのかもわからない。でも、同じ仲間と感じるんだ。」

 

「なにそれ? 自分もわからないなんて、こんなわからないことだらけで、どうしようというのよ。」あまりにカオスな回答にイライラするアッコ。

 

「おーい、アッコ、なにしているんだ。さっきから?」アマンダがアッコの妙な挙動を気にして問いかけてくる。

 

「この上にいる鳥みたいな奴と話をしているの。」

 

その答えにアマンダも混乱する。「え、どういうこと? 話せるの? 何者だ?そいつ。」

 

と、そんな余裕もない、また炎の塊のような、いわば鬼火のような、でも少年の様な形をした奇妙な魔物から火の玉が発射され、アマンダに向かってきたのである。

 

「ベルガヴィーダ!!」ダイアナが反撃魔法を展開する。

しかし、光線魔法に対して作用する場合と異なり、火は放った敵に反射させるのは難しい。基本的に防御にしか使えない。

 

「アマンダはハンナを連れて避難して!」ダイアナが指示する。

 

「みなさん、聞いてください。カガリさん、トーマスさん、ジョニィさん、私も全部聞いていました。」

リラちゃんの声だ。リラちゃんにも聞こえていたんだ。アッコは驚くとともにリラちゃんの落ち着いた声に安心感も覚える。

(そう言えば、子供となら会話ができるようなことをあのジョニィとかは言っていた)アッコは子供が鍵になると直感した。

 

「正体不明の魔力の位置関係を良く見ると、その後方に全体を操っている人が居るようなの。その人と交信できないかしら。誰かと関係ありそうな気がするの。」ロジカルに分析し、対策案まで提案する8才の子供。普通なら驚くが、リラちゃんならそんなこともできるだろうと既に皆は思っていた。

 

「え、父さんなのか? やはり、これが父さんがしていること?」

トーマスは混乱しながらも、魔女のおねえさんの中に負傷者が出たことを目の当たりに見て、パレードを潰すと言っていた父さんに怖さを感じ始めていた。

 

「ジョニィ、俺を父さんのところに連れて行ってくれ!

 

「オッケー!! また一緒に飛ぶよ!! 」

鳥が急降下してきた。

はっきりと姿がわかると、こちらも炎に包まれているような姿だ。

「え、火の鳥!!!」 アッコが驚く。確かに得体の知れない魔物と共通点がありそうだ。

それと、なぜ会話ができるのか、わかった気がしていた。

(そうそう、魚に変身した時は魚と会話ができたわ(*6)。それと同じ、きっと鳥に変身したからだわ。)そう考えるアッコ。偶然がもたらした結果。運がいいのもアッコの実力のうち?

 

火の鳥が地上付近まで降りてきた。そして、トーマスを乗せて飛び立つ。

 

「火の鳥が地上に降りてきました。観客の少年を乗せて飛び立ちます。そう、今回はトマトをぶつける役だけではない、飛行体験もできる観客参加型のショーになっていましたー!」 想定外の事態にも、シナリオ通りで問題ないとのアナウンスをするアーシュラ先生。

 

「火の上に乗って大丈夫なのかしら?」アッコが心配するが、

「これは魔法の火だからね。熱くないのさ。」とトーマスが答える。

「君はさっきトマトぶつけた子ね。」と答えるアッコ。

「そうか、あの魔女のおねえちゃんなんだ。なかなかやるね。」

「なかなか、じゃないよ。アンタたちだけじゃ信用ならないから、私も行くわね。」

 

魔物たちの中央突破を図るジョニィとアッコ。

それを見てダイアナがあきれる。「アッコ、何しているの?この状況不明の中、バカの一つ覚えみたいに突撃とはあまりにも無謀ですわ。」

 

魔物たちの攻撃をジョニィが波紋を出して消滅させていく。

アッコはそれを見て、今まで出会った妖精や魔法動物とは根本的に何かが違う気がすると感じていた。魔力が大きすぎる。魔力の源この世界ではないんじゃないか?そんな荒唐無稽な考えも頭に上ってきたくらいだ。

 

しばらくすると、前方のビルに黒い光を出す人物を発見した。黒い光とは妙な言い方だが、確かにそう表現するのが相応しいものだった。

 

◆異世界の者

 

「父さん、父さんなんだろ? これはやりすぎなんじゃない? 怪我人まで出ているよ。」トーマスが声をかける。

だが、反応はない。

 

ジョニィが何かに気付いた。

「これは父さんの意思じゃないよ。これは僕の仲間の意思だ。あまりにも多くの意思が入り込み君の父さんの意識が支配されている。君の父さんはその意思を集めるハブにみたいなものになっている。」

 

「ど、どういうこと?」トーマス、そしてアッコも同時に声に出す。

 

「黒い光は異世界から出ている、僕の仲間はきっと異世界から来たんだ。こちらに取り残されて何か迫害でもされて恨みが残っている。そんな感じがとてもする。」

 

「よく、そこまでわかるね。それでアンタもその異世界から来たの?」アッコが尋ねる。

 

「わからないけど、きっとそうだと思う。僕は別に恨みなど持っていないけど。それはおじいさんのおかげかもしれない。」

 

「ということは、彼らをその異世界に帰せばいいってことかしら?」アッコが解決法を見出した気になって確認する。

 

「わからない、けど、彼らにはそれが幸せかもしれない。トーマスのお父さんにその通り道があるようだ。問題はどうやって、そこに彼らを誘導するか?だ。」ジョニィが一つ問題を挙げる。

 

「こちらへおいで、と奴らを連れて行く人が要るのね。」

 

「異世界に行くのは僕がやるしかないだろう。でも、彼らの標的は人間だ。囮となる人間も要る。」とジョニィ。

 

「それは俺がやるよ、ジョニィと一緒に異世界に行くのも楽しそうじゃん。」とトーマス。

 

「ちょ、ちょっと待った~~、子供にそんなことさせられないよ。ここは魔女の端くれの私の役目だわ!!それに魔法を使う人間、魔女が標的なんでしょ。」

 

この会話はリラが聞いており、実はそれをコンスタンツェが魔法界配信装置を使って全員で共有できるようになっていた。アーシュラ先生のブースにも届けられていた。

 

「な・な・な・・・なんてことを言っているの? アッコは!?」あきれるダイアナ。ロッテもめっちゃ心配顔だ。

 

そんな皆を尻目にリラちゃんが冷静な判断を下す。

「カガリさんの作戦は概ね正しいと思います。でも、全ての魔物をおびき寄せる囮としてはカガリさんだけでは足りないと思います。ここはスタンシップで全員で魔物を挑発して誘導して行くのが妥当の様に思います。いかがでしょうか。」

 

「ダメーー!! ダメよ、リラちゃん、リラちゃんにもしものことがあったら、フィネラン先生に殺されるわ。」

アーシュラ先生が絶叫する。

そして、アーシュラ先生もスタンシップに向かう。

アーシュラ先生は飛べないはずだが、リラちゃんを思うあまり、所謂火事場のクソ力か?ヨタヨタとしながらも飛行し、スタンシップに辿り着いた。

 

「はあ、はあ、」全力を出し切った様に憔悴しながらもスタンシップに乗り込んだアーシュラ先生は代替案を提案する。

「スタンシップはレディシャリオンになれると言ったわね。レディシャリオンなら大きな魔女になるのでしょう。目立つし、囮としては最高だと思うの。レディシャリオンを動かす最低メンバーで行くのが最善策よ。全員を危険な目に会わせられないわ。」

「操縦にコンスタンツェは必要だから、申し訳ないけどコンスは入ってもらって、あとは私で行くわ。」

 

「えーーー、でも、気持ち的に納得できないぜ、コンスだけ行かせるなんて私は反対だ。」とアマンダが抗議の声を上げる。

 

そこに妙な声が聞こえてきた。

「あーーー、私も行く。魔女さんについて行くーーー、」女の子の声だ。

 

「え、なに、だれ?? え? どういうこと? 大変、外から私たちの回線に誰かが入り込んでいる? 聞かれていた?」

 

魔道具カフェの店員がパールに渡したものは魔女の連絡用回線に侵入するための秘密の魔道具だった。

 

「アッコが何か言っています。」驚き動揺していた皆だが、ロッテがアッコが何か言っていることに気付いた。

 

「アーシュラ先生、異世界に行くのは私だけでいいの。先生には入口まで魔物たち全員を連れてきて欲しいの。だからみんなに異世界に行く危険は無いわ。全員で十分な防御魔法を展開して来る方が安全よ。」

 

「カガリさん、ありがとうございます! それがベストな作戦だと思います。」リラちゃんが応える。

 

「お母さん、安全と言っているよ。私も行くーーーーーー 」とまた女の子の声。

 

「え、それは誰?」アッコがびっくりして尋ねる。

 

「コンス、回線から強制切断していないのか?まだ。」とアマンダ。

 

「いや、急に切るのは失礼よ、ちゃんと言わなきゃ。」とアッコ。

 

「お嬢ちゃん、どうして私たちと会話できるのかな? あ、そうじゃなくて、話をしたいと思ったの? 」

 

「私はパール、魔女になりたいの!どうしてもなりたいの。奇跡を起こした日本の魔女さんみたいになりたいの。」パールは話せた喜びいっぱいに、伝えたいことを必死に言葉にした。

 

「え、・・・」 アッコは瞬時にかつての自分を思い出していた。シャリオのショーを見て魔女になることを決めた夜の自分。

 

「わかったわ!!パールちゃん。これから私達、素晴らしいマジカルショーをお見せするわ。その接続端末で映像を送るわ。」

パールの願いに精いっぱい応えるアッコ。

 

「あ、はい、えーと、魔法のオペラグラスも持ってるからそれでも見れると思うの。」

 

「それもあるのね。なら、端末と接続すれば、バーチャルリアリティみたいにここに居る様に見れるわ。安全な場所でお母さんと一緒に楽しんでね!」さらなる楽しみ方を提案するアッコ。

 

「ほー、そんなことができるんだ。アッコ、意外とマジトロニクスに詳しいな。」とアマンダ。

 

「コンスタンツェとちょくちょく怪しいことやっているからね。」とロッテ。

 

「みんな!もう時間がないわ。魔物たちは中央突破した私たちにはもう関心が薄れて、またスタンシップの方に向かっているわ。早く奴らをこちらに連れてきて!」

 

◆マジカルショー

 

「よっしゃー、やるか!! 我らがマジカルショー!!!」アマンダがえらく気合が入っている。

教護したハンナもダイアナの適切な応急医療魔法で歩けるまで回復したようだ。彼女はブースから応援することになる。

 

スタンボットが変形開始を告げる。

レッツメタモルフォーメーション、レディシャリオン・ローンチ!!

 

スタンシップの新しい長いマストが下に降りてきた。船底を突き抜け、水平になっていく。これが魔女のホウキなのか。

元々あった側面の6基のホウキ型推進装置も一体となり多数の噴射口を持つロケットの様になった。

コックピットはベースのグランシャリオンと同じく複座だ。そこにコンスタンツェと元々はアッコが乗る予定だった席にアーシュラ先生がリラちゃんを抱えて乗り込んだ。アーシュラ先生はリラちゃんだけは何としても守ると強い決意だった。そんな思いをよそにリラちゃんはコンスが作ったメカに興味津々だった。「これが魔導力メーターね。」

 

その他のメンバーは全員で防御魔法を展開し、変形プロセスを守る。

変形が完了すると、そこに現れたのはまさに大きなシャリオ!!(*7)

 

観客からも歓声が上がる。パールもとても感激しているようだ。

 

グランシャリオンの武器はドリルだったが、レディシャリオンの武器は魔女らしいステッキ。

リラちゃんが何かに気付いたようだ。「パイロットの魔力で動かせるようになっているよ。私もやっちゃっていい?

「え、なに、え、そうなの!?」慌てるアーシュラ先生を尻目にリラちゃんは手を振り魔法を発動させていた。

 

すると大きなシャリオがステッキを振って魔物に魔法をかける。次々と浄化されていく魔物。怪しい炎が消え、コアと呼ぶべきか?クリオネにも似た姿の本体が現れた。

 

そして、巨大ホウキに点火、大きなシャリオは華麗に横座りして、黒い光を出している源に向かって進みだした。

 

「よっしゃー、来たね。私たちは異世界に飛び込むよ、ジョニィ君、よろしくーーー」アッコが号令する。

 

トーマスを乗せたジョニィがまずトーマス父の中に飛び込む。

「そんなところに飛び込めるの?」

「異次元だから入口の大きさは関係ない、気にせず突っ込んできて。」とジョニィ。

 

ジョニィは元々そこの出身だからだろう、スムーズに入っていく。

でもアッコは入った途端、すごい抵抗を感じた。「うーー、なんか進めない?」

「あー、でもいいか。入口で待って、奴らを誘い込むわ。」

 

そのアッコの前にレディシャリオンが迫って来た。

「うわーーー、すごい、これは大きなシャリオだあーーーー!!!」

 

その後ろには多数の魔物たち。

「アーシュラ先生、あとは私に任せて、アレをやります!!」

「アレって! ・・・例の光魔法!?」

「そう、射線からはずれて。」

 

アッコが鳥から人間に戻ってきた。でも変身解除漏れなのか、意図的なのか、背中から翼が生えたままだ。

それは意図せずともまるで天使の様だった。(*8)

 

「行くよーーーーー

ルルスス・ミラミス

アクディアス

シャイニィ・エナージアーーーーーーー!!!!!!」(*9)

 

アッコはこういうシチュエーションで高揚した時は信じられない集中力を見せる。

高難度の光魔法を見事に発動させた!

 

光に包まれる魔物たち。次々と浄化され、天使のようなクリオネのような姿に変わって行く。

放ったアッコも驚く威力だ。

「え、すごい! わたし!!」

(これはどうも異次元空間に足を踏み入れたことも関係している様だ。

 あとでジョニィからジョニィの世界の魔力の流れについて聞くことになるが。)

 

夜空いっぱいに出現したクリオネの集団!

これを見て観客席の興奮は最高潮に達していた。

「ブラボー!!!!」スタンディングオベーションが巻き起こる。

パールも父親に肩車されて、感激のあまり泣いていた。

 

そして、クリオネたちはアッコの居るトーマス父の異次元の口に次々と吸い込まれていく。

 

「うまく行ったわ、ジョニィ君、トーマス君、戻ってきて。」アッコが呼びかける。

「魔女のおねえちゃん、こちらもすごいぜ。宇宙がある。太陽がある!!」とトーマス。(*10)

「え、なにそれ、意味わからない。でも、早く戻ってきて、閉じたら大変よ。」

 

辺りを包んでいた光が収まり始めた。そして、その中心にはトーマス父ロバートとトーマスが向かい合っていた。

その後ろにはアッコとジョニィ。

そして、しばらくするとレディシャリオンからアーシュラ先生はじめ、みんなが降りてきた。

 

ロバートは何が起こったのかすぐには理解できない。しかし、心の中にあった怒りの感情が跡形もなく消えていたことに気付き、不思議な気持ちだった。

「私は何をしていたのだろう?」

「父さん、父さんは悪い夢をみていたんだよ。俺は今日、素晴らしい夢を見た。5年前と同じ様にね。この夢の実現のため、俺は魔法使いを目指すことにしたよ。

「そうなの・・か。父さんが諦めた夢をお前が実現してくれるのか・・・」

 

2人を囲むみんなから拍手が巻き起こる。アマンダがちょっと涙目だ。

 

コンスが持ってきたモニターにはパールちゃんの姿も。

「あの子は?」トーマスが気になって尋ねる。

「今日、私達の回線をハッキングしてメッセージを伝えてきた子なの。あの子も魔女になるわ。」アッコが答える。

 

「すごいな。ハッキングとは俺よりワルだな。」

おそらくトーマスの心に結構なウェイトで印象に残ったことだろう。

 

「さーて、帰るわよ。お客さんに全員の姿をお見せして安心してもらわないと。トーマス君も観客参加型イベントの代表として一緒に来てね。」

 

「え、俺はいいよ。そんな柄じゃない。観客のその他大勢としてフィナーレを見守るよ。父さんとも、もう少し話をしないといけないし。」

 

********

 

「みなさん、ルーナノヴァの魔女パレード、ハッピータイム! お楽しみいただけたでしょうか? 」アーシュラ先生の締めの挨拶が始まる。

沸き起こる歓声!!! 

「ありがとうございました。また、2年後にお会いしましょう!!! 」

 

アッコが鳥になって空を舞う。

そそくさと恥ずかしそうに会場を去ろうとする少年を見つけると、舞い降りて。

 

「どう!? これが魔法よ!!!  悪ガキさん 」
「でも・・・ありがとう!!!💗 」

 

 

◆次回予告

「ロッテカンパニー」

 

遂にやってきた卒業の日。学校としての卒業式が無い中(*11)

アッコは思い出の詰まった場所で、ささやかな旅立ちの会を催す。

居心地の良い場所で思い出話と今後の夢について語り合う仲間。

そこはロッテにとっては特に重要な場所だった。

そして、ロッテの想いは、遥か未来の後輩たちへの素敵なプレゼントとして

結実することになる。

~ドッキドキのワックワク~

 

 

◆注釈

(*1)これはTVアニメラストシーンのアニメーター半田修平さんの解説より。

(*2)リトルウィッチアカデミアVRでも前傾姿勢を取らないと進まない。

(*3)赤毛のアンシリーズの最後の本。第一次世界大戦中が舞台でアンシリーズではシリアスな話。

    リラの本名はマリラで、リラ・マイ・リラと詩的に呼ばれるところが素敵。

    なお、フィネラン先生のファーストネームがアンです。

(*4)これはリトアカシリーズではやはり最高傑作かと思う。

(*5)少女漫画(りぼん)版リトルウィッチアカデミア「月夜の王冠」でアッコが使う魔法。

    杖を使わず指先の感覚だけで制御する高等魔法とされていた。

(*6)TVアニメ第7話「オレンジサブマリナー」より。

(*7)「月夜の王冠」でも大きなシャリオが出てくる。アッコを試す存在としてだが。

(*8)「月夜の王冠」でも翼を付けたアッコが光魔法を放ちます。

(*9)光魔法の呪文。アニメミライ版および「魔法仕掛けのパレード」の

    「マクミル・ミクミル・メクトラル シャイニィアルクーーー」に相当する

    「月夜の王冠」での呪文。

    ちなみに「魔法仕掛けのパレード」と「月夜の王冠」はほぼ同時期なので、

    この2つを結び付けるのは悪くないと思う。

(*10) 平行宇宙に存在する炎生命体の故郷。

      (元ネタはプロメア)

(*11) 通常イギリスの中等教育機関(中学~高校)には卒業と言う概念は希薄で

      式も無いところが多い。

      ルーナノヴァは高等教育機関(修士課程)もあり、在学期間は無期限。

      なお、トーマスは高校までは男子校だが、ルーナノヴァが共学化された

      タイミングで修士課程に入ってくることとなる。