正義と悪を描いた作品はたくさんあって、私も昔は正義の側に感情移入して作品に触れていました。

ところがしばらく前から、正義側(主人公側)に全然共感できなくなってきました。

ポジションが違うだけで、お互いにやってることは一緒なんですよね。

 

武力と暴力で自分が悪いと思う相手を制圧する。

 

違いがあるとしたら、正義側はあんまり殺さない、悪党側は割とすぐ殺す。

殺そうとしてくる相手を殺さずに無力化するというのはとても難しいのですが、なぜか正義サイドはよくこれをこなしてます。

実力差が相当ないと厳しいと思うんだけど、もしかして正義側の辛勝って演技なのかしら、と思ってしまう。

 

この正義と悪のことを考えると最近浮かぶのがヒロアカです。

私はヒロアカそのものは嫌いじゃないです、おもしろい。

おもしろいけど、ヒーロー側に毛ほども感情移入できない。

私がヒロアカで一番応援してるのは、↑の画像のステインです。

他者が承認するかどうかはどうでもよくて、自分が思う正しさのために動くっていうのは、狂っているようでいて意外と筋が通ってます。

タイバニでいうところのルナティックのポジションだと思うのですが、タイバニだと私はルナティックが一番好きなので、こういう「世間一般が良しとするものを良しとせず、独自の価値観で自分の思う正義を執行するキャラ」が好きなのかもですね。

 

独自の価値観で、というのがヒーロー側と違うところです。

ヒーロー側の正義というのは、自分の頭で考えたことではなく「多数派の総意」にすぎません。

そして多数派の総意というのは99.9999%エゴと偽善でできています。

 

・自分の手は汚したくないが、自分を脅かす存在は誰かに手を汚してもらってでも排除してほしい

・でも殺すのは良くないから殺さないでほしいけど自分たちの安全は保障してほしい

 

漫画の中でも現実の世界でも大半の人がこう思ってるハズです。

これが普通です。

この枠から逸脱してるのが「悪党」と「正義のヒーロー」です。

どちらも本質的には同じだと私は思ってます。

 

大抵の悪党は自分の行いが自分のエゴに起因していて、それが多数派に受け入れられないだろうことをわかっててやってる気がします。

ところがどっこい正義のヒーローは、暴力で他者を制圧する行為を「無害な民の総意を体現する正義」と思ってやってるんですよ、しかも仕事として。

タイバニみたいにお金のためってことならまだわかります。

まぁ某虎のおじさんは理解できないですけども。でもなんとなく「結局は自分(自己満足)のため」ってのが見えるのでそこまで嫌悪感はない。

 

ただ、ヒロアカのヒーローたちは気色悪い。

あれは正義ではなく「ヒーロー教の狂信者」だと思ってます。

 

私がそう思ったエピソードがあります。ちょっとネタバレになります。

 

ヒロアカの林間学校のときに、マスキュラーという快楽殺人者が出てきます。

これはもう完全に自己満足のみを追求して社会性を捨てたクズだと思ってます。

ある意味では筋が通ってますが、私は快楽殺人の気持ちが理解できないので、こいつ嫌いです。

なんやかんやバトルしてヒーロー側はマスキュラーを倒して捕縛、個性(能力)持ちが収監される監獄へぶちこみました。

 

そして物語後半、この監獄が崩壊します。

収監されていた個性持ちの犯罪者たちが野に放たれて世は無法地帯。

 

これを見た私は、純粋に単純に思いました。

 

「殺しておけばこんなことにならなかったのに、なぜ殺さなかったんだ?」

 

どうやらヒロアカの世界には死刑というものがないようです。

いやいやいやいや、こんなハイリスクな連中を生かしておいて「市民の平和を守る正義のヒーロー」とか、冗談でも笑えないのに真顔で主張してるんですよ。

死刑の良し悪しに関しては調べてないし、私は死刑に反対してないのでそこはどうでもいいのですが、単純な結果の話をします。

 

快楽のために殺人を繰り返したマスキュラーを、捕縛したときに殺しておけば、監獄が崩壊したあとにマスキュラーに殺される人はいなかった。

 

これは事実ですよね。

殺さずにおいたのが「どこの意思」かはわかりません。

これが市民の総意なら、監獄崩壊後にマスキュラーに殺された人が殺される手助けをしたのは、市民自身ということになります。

ヒーローは警察ではないから犯罪者を捕縛することしかできないとかだったと思うんですが、冒頭にも書いたように、殺しにきてる相手を殺さずに無力化ってのはとても難しいことです。

でもヒーローはそれを「当たり前」として受け入れて、しかもこの役割を子供に憧れさせて社会のエリートみたいに扱ってます。

 

え? じゃぁ警察はなにやってんの? 事務処理なの?

ヒーローが警察やれいいんじゃないの?

おまえらが殺されそうになっても犯罪者は殺さずに無力化してね、市民のために☆ って、ヒーローって安い奴隷なの?

ヒロアカのヒーローたち、ヒーロー哲学みたいなものがまったく理解できない。

 

殺戮者を生かしておくことが善で、自分の身に危険が及んだとしても殺戮者を殺すのが悪って、私の考える正義と悪の真逆なんですが。

殺戮者というリスクを生かしておくのが正義なのだとしたら、正義を担う側も殺戮者とほぼ同じか、正義を標榜している分更にタチが悪いと思うんですよね。

守りたいなら脅威は殺せよ、白血球だってそうしてるだろ、って思っちゃうんですよねぇ。

殺したくない理由があるとか、殺さないっていうのがポリシーだっていうならそれはそれでいい、ただし正義の味方を標榜するな、と思うんですよねぇ。

 

とはいえこれは舞台の上の、矢面に立っている人達の話です。

一番卑怯でずる賢くて強かで汚れているのは、舞台の外から「殺せ」「殺すな」「とにかく私たちを守れ」と言っている私たちなんですけどね。