防風通聖散2例目 ~アトピー性皮膚炎~ | 大阪弁天町の漢方薬局「廣田漢方堂薬局」のブログ

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防風通聖散は非常に有名な方剤であるが、実際の臨床では実に出番が少ない。

 

やせ薬として市場に出回っている関係もあって、全然使う気になれなかった方剤である。

 

しかし、過去に1例だけアトピー性皮膚炎に用いて好転したことから、この方剤に対する認識はやや変化し、何を使っても変化の乏しいアトピー性皮膚炎に対して有効に作用する可能性を秘めていると感じた。

 

ただし、運用するためのポイントは必ず守るべきである。

 

今回、毎年夏になると急激に悪化するアトピー性皮膚炎に対し、防風通聖散を使ったところ、この症例でもやはり一気に好転し始めたことで運用上のポイントに共通性を見出すことができた。

 

防風通聖散をアトピー性皮膚炎に応用する場合の理論展開として、三焦・血脈間(気分と血分の境目)を構成する腠理が湿痰・湿熱などで目詰まりを起こし、血分の熱が気分に持ち上げられなくなった結果、血熱が蓄積して炎症を引き起こし、皮膚の状態が非常に悪く、汚くなる。

 

この場合、腠理に沈着している湿痰・湿熱を駆逐するために茵陳蒿湯や竜胆瀉肝湯(一貫堂)などを使っても、全く症状がかわらない、もしくは逆に悪化する。これは気分の湿熱を清利湿熱する際に、気分が冷えることで、腠理が閉じてしまい血熱の放出がさらに低下してしまうことによって起こる。また蓄積した血分の熱を清熱する三物黄芩湯などを使っても腠理がその寒性によって閉じてしまい気血津液の出入りができなくなる結果、症状が悪化してしまうのではないかと愚考している。

 

実際にこれまで散々色々な方面から思考を巡らせて方剤を使ったが、どれも手ごたえがなかった。しかし防風通聖散は明らかに切れ味鋭く効果を発揮した。したがって防風通聖散の役割は、三焦・血分間を繋いでいる腠理に湿痰・湿熱がその粘着力で強力にへばりつき、気分・血分における気血津液、また老廃物などの循環を妨げ、気分と血分が分離してしまった状態に対し、石膏・芒消・滑石の鉱石類とその他の生薬にてへばりついた邪を汗・尿・便からガバっと抜く方剤であると推測することができる。

 

では、防風通聖散がフィットする条件は何か?

それは・・・

 

① 患部は全体的に赤黒く、熱を持ち、肌は汁が出たり、乾燥したりして汚い。

② 痒みが強く、入浴後に症状が悪化したり、寝ている間に無意識に掻いたりしている。

③ 脈は滑大で有力(そこに数脈が混じることもある)

④ 舌診では舌表は強度な粘膩苔で舌色は白っぽく見える。一方、舌裏は真っ赤で舌表と舌裏の色調が全く異なる。舌質は老舌で硬い。

 

このような所見が共通していた。

 

また防風通聖散を使うと腹痛下痢に襲われて、とてもじゃないが続けることができないこともあるが、この2例ではもともと便秘症などはないものの、服用しても下痢をすることはなく、あっても軟便程度であった。(上述の所見があったとしても服用して強い下痢症となる場合にはフィットしない可能性も否定できない)

 

効果は2週間以内に出て、完全によくなるのではなく、明らかに皮膚の赤み、熱感、肌汁、痒みが軽減し、肌の調子が良くなっているのが目に見えてわかる。しかし脈滑大、舌の状態はあまり変化がみられない。

 

現状では、実際の症例の共通性などから、以上のように考察している。防風通聖散をアトピー性皮膚炎に使う例は非常に少ないと思うが、でも必要な場面で用いると明らかに効果的に作用するので、ぜひ参考にしていただきたい。(もちろんこの2つの症例ともに防風通聖散だけで対処したわけではなく、その他の中草薬を併用しているが、主薬は本方剤であることを付け加えておく。)