兼ねてからの悩みだった右肘の粉瘤が突然破れ、仕事前にクリニックで処置をしてもらう。
麻酔を打っての切開掻き出しだったが、注射針のチクリとした感覚からメスが肌を切り裂く感覚まで、どれもリアルな痛みが痛覚を刺激する。
麻酔が一切効かなかった。
身体中から滲み出す汗を拭い、クリニックを後にした。
クリニックの近所には、長屋が軒を列ねたような昭和の風情漂う一画があるのだが、その中に民家を改築したカフェがある。
一階はテイクアウトのケーキショップ、二階がカフェ。
仕事まで充分な時間があり、コーヒーとケーキを楽しむゆとりがあった。
小さな階段を上がると、テーブルが5つ。
女性客が二組先に居て、二人組の客は4人まで座れる席に、一人客は、一人客用の席に座っていた。
私は二人用のテーブルに座り、コーヒーとプリンを注文した。
私の後に二人組客が訪れ、空いているもう一つの4人席に通された。
店に入ってようやく時間を確認したらちょうどランチタイムで、お店の空間にはカレーの匂いが漂い始めていた。
“カフェめし”らしい上品な香りだった。
コーヒーとプリンが運ばれてきて、ゆったりと味わおうとしたところにもう一組、女性二人組の客が入ってくるなり、一番大きな席に着こうとする。
店主の女性が何やら説明する。
女性二人組が着こうとした店は予約席で30分後には予約客が来るということらしい。
その直後、二人席に座っていた私のほうを一瞥した。
このカフェにおいて、ランチタイムにも関わらず、単価の低いコーヒーとプリンを注文した私は、切り捨てられるべき客だった。
3分とかからずプリンを平らげ(上に乗ったホイップの生クリームの臭みが鼻につく味だ)、ぬるめのコーヒー(この時はぬるめで良かったと思った)をすすり、慌てて会計を済ます。
店主が「気を遣って下さったんでしょ?」と尋ねる。いかにもホッとしたような言い方だ。
「助かったわ、どいてくれて」
店主の心の中の声が聞こえたような気がした。
あのう…、おたくが非言語的な態度で帰るよう促したんですよ?
心の中でそう思っていたがもちろんそれは言わなかった。
カフェはケーキとドリンクの他に、ランチメニューも充実していた。
だが、どれもプレート様の皿に、メインディッシュと彩り「だけ」を意識したように葉もの野菜中心のサラダが乗った“カフェめし”の定番といった感じのもの。
ビジネス街のお得なランチを見慣れている自分には、値段の割高感が際立って見えてしまった。
まあ、そもそも店を出す時には、ゆったりした雰囲気も併せて味わって貰おうという意図もあったのだろう。
だが、慌ただしくお茶を済ませ、追われるように背にしたカフェは、ゆとりという名の絵にかいた餅を纏ったはりぼてのような虚しさ漂う空間でしかなかった…
麻酔を打っての切開掻き出しだったが、注射針のチクリとした感覚からメスが肌を切り裂く感覚まで、どれもリアルな痛みが痛覚を刺激する。
麻酔が一切効かなかった。
身体中から滲み出す汗を拭い、クリニックを後にした。
クリニックの近所には、長屋が軒を列ねたような昭和の風情漂う一画があるのだが、その中に民家を改築したカフェがある。
一階はテイクアウトのケーキショップ、二階がカフェ。
仕事まで充分な時間があり、コーヒーとケーキを楽しむゆとりがあった。
小さな階段を上がると、テーブルが5つ。
女性客が二組先に居て、二人組の客は4人まで座れる席に、一人客は、一人客用の席に座っていた。
私は二人用のテーブルに座り、コーヒーとプリンを注文した。
私の後に二人組客が訪れ、空いているもう一つの4人席に通された。
店に入ってようやく時間を確認したらちょうどランチタイムで、お店の空間にはカレーの匂いが漂い始めていた。
“カフェめし”らしい上品な香りだった。
コーヒーとプリンが運ばれてきて、ゆったりと味わおうとしたところにもう一組、女性二人組の客が入ってくるなり、一番大きな席に着こうとする。
店主の女性が何やら説明する。
女性二人組が着こうとした店は予約席で30分後には予約客が来るということらしい。
その直後、二人席に座っていた私のほうを一瞥した。
このカフェにおいて、ランチタイムにも関わらず、単価の低いコーヒーとプリンを注文した私は、切り捨てられるべき客だった。
3分とかからずプリンを平らげ(上に乗ったホイップの生クリームの臭みが鼻につく味だ)、ぬるめのコーヒー(この時はぬるめで良かったと思った)をすすり、慌てて会計を済ます。
店主が「気を遣って下さったんでしょ?」と尋ねる。いかにもホッとしたような言い方だ。
「助かったわ、どいてくれて」
店主の心の中の声が聞こえたような気がした。
あのう…、おたくが非言語的な態度で帰るよう促したんですよ?
心の中でそう思っていたがもちろんそれは言わなかった。
カフェはケーキとドリンクの他に、ランチメニューも充実していた。
だが、どれもプレート様の皿に、メインディッシュと彩り「だけ」を意識したように葉もの野菜中心のサラダが乗った“カフェめし”の定番といった感じのもの。
ビジネス街のお得なランチを見慣れている自分には、値段の割高感が際立って見えてしまった。
まあ、そもそも店を出す時には、ゆったりした雰囲気も併せて味わって貰おうという意図もあったのだろう。
だが、慌ただしくお茶を済ませ、追われるように背にしたカフェは、ゆとりという名の絵にかいた餅を纏ったはりぼてのような虚しさ漂う空間でしかなかった…