大学入試センター試験 国語 2014年 古文の現代語訳
・解答・簡易解説を作成しました。

“三条殿、「限りなめり」と……”から始まる、源氏物語「夕霧」の内容です。文脈理解を優先しており、問題と関係のないところでは、助動詞・古文単語の逐語訳を少し崩しているところがあります。

※自身で作成した訳に、『日本古典文学全集(旧全集)』を参照して修正を加えております。






三条殿(雲居雁)は「私たち夫婦はこれで終わりのようだ」と思い、「『まさか私たちが終わってしまうことがあるだろうか、いや、ないに決まっている』と信頼していたのだけれど、『まじめな人が心変わりをしたら、すっかりもとの女性への気持ちはなくなってしまうものである』と噂に聞いていたのは、本当のことであったよ」と、夫婦仲の真実というものを見届けてしまった感じがして、「何としてでも夫によるこの侮辱を味わっていたくないものだ」とお思いになったので、父・大殿邸へ、「方違えをしようと思います」ということでお移りになったところ、ちょうど女御(三条殿の姉)が内裏から里帰りしていらっしゃるときでもあったので、彼女などにお会いなさって、ここなら少しは悩みが晴れるように感じられ、いつものように、急いで夕霧との家にお帰りになる、ということもない。

大将殿(夕霧)も、三条殿が出て行ったのをお聞きになって、「やはりか、三条殿ときたら、実に急に本性があらわにおなりになったことよ。このお父上の大殿もやはりまた、年輩者らしい落ち着いた貫禄をお持ちでなく、二人とも、実にせっかちで派手に振る舞って事を荒立てる方々だから、『大将殿は気にくわない。顔も見たくない、声も聞きたくない』などと、不都合なことをおっしゃり出すかもしれない」と、驚きにならずにはいらっしゃれなくて、夫婦の家にお帰りになると、子どもたちも、半分は屋敷に残っていらっしゃって(姫君たち、それに、とても幼い男の子とを連れて出て行きなさったのだろう)、残った子どもたちは、大将殿を見つけて喜んで纏わりつき、ある子はお母さんを恋い慕い申し上げて、悲しんで泣いていらっしゃるのを、「かわいそうに」とお思いになる。

手紙を頻繁に差し上げて、お迎えに人を派遣なさるけれど、三条殿はお返事すらよこしなさらない。「こんなふうに、融通が利かず、軽率で……」と、大将殿は不快にお思いになるけれど、三条殿の父(大殿)が見たり聞いたりなさるようなことも懸念されて、日が暮れるまで待ってから、大将自身で大殿邸に参上なさった。「寝殿にいらっしゃる」とのことで、いつも実家帰りのときに使う部屋は、女房たちだけがお控えしている。若君たちは、乳母と一緒にいらっしゃった。

「今さらになって若い恋人同士のような付き合い方をなさるとは。このような子たちを、あちらやこちらに放って置きなさって。どうして寝殿で女御(姉妹)とのおしゃべりに興じていらっしゃるのですか。あなたは私と不似合いなご性格であることは、長年分かっていたけれど、そうなるべき宿命だったのだろうか、昔より離れがたいようにお慕い申し上げて、今ではこのように、多すぎるくらいの子どもたちも大勢かわいらしくていらっしゃるのを、『お互いに相手のことを見捨てられようか、いや、できない』と、あなたのことを頼りにし申し上げているのです。ちょっとした一件で、こんなふうに振る舞いなさってよいものでしょうか、いえ、よくありません」
と、ひどく軽蔑し、お恨み申し上げなさると、三条殿は、
「すっかり、『もういいよ』とあなたが見飽きてしまわれた身ですので、今さらまたそうした認識が直るものではないのに、『どうして自分の振る舞いを改めようか、いや改めない』と思いまして。見苦しい子たちかもしれませんが、子どもたちのことは、お忘れにならなかったら嬉しく思いましょうよ」
とお答え申し上げなさった。

大将殿は「ずいぶん穏やかなお返事ですけども。このまま言い続けていったら、いったい誰が悪く言われるのでしょうね」と言って、強引に「私と暮らす家へお帰りになりなさい」とも言うことなしに、大将殿はその夜、独りでお休みになった。

「変に中途半端なこのごろだ(落葉の宮には疎まれるし、妻には家出されるし)」と思いながら、子どもたちを前に休ませなさって、あちら(落葉の宮)も一方で、どれほどお悩みになっていらっしゃるだろうというご様子をご想像申し上げ、悩みの尽きない心地なので、「いったいどのような人が、このようなこと(色恋沙汰)を面白く思うのだろう」などと、色恋沙汰には懲り懲りになってしまいそうな感じがしなさる。

夜が明けてしまったので、大将殿が「人が見聞きしても大人げなくみっともないですから、『もう私たちの夫婦関係は終わりだ』とあなたがおっしゃるならば、そのようにしてみましょう。2人の家に残された年長の子たちも、かわいらしい様子であなたのことを恋い慕い申し上げているようでしたが、選び残しなさったのには、『何か事情があるのだろう』と思いながらも、見棄てがたいものですが、子どもたちのことはどうなりともしましょう」と脅し申し上げなさるので、三条殿は「大将殿はいかにもさっぱりしたご性格なので、こちらの子どもたちまで、どこか知らないところへお連れなさるのだろうか」と心配になる。

大将殿は、姫君に「さあ、いらっしゃい。あなたを拝見しに、このようにお母様のご実家に参上するのも決まりが悪いので、いつもは参上できないでしょう。あちら(もとの家)にも子どもたちがかわいくいらっしゃるので、せめて同じところでお世話申し上げたいのだ」と声をおかけ申し上げなさる。まだとても幼く、かわいらしくいらっしゃるのを、「とてもかわいい」と拝見なさって、「母君のお言葉にお従いになってはなりませんよ。とても情けなく、物事の分別がつかない心をお持ちであることは、とてもだめなものです」と、お教え申し上げなさる。



設問解答・一言コメント

問1
(ア)⑤
「なめげさ」の意味が重要。「じ」は一人称なので打消意志。意志・願望系の言葉が下に来たとき、「いかさまにして(=いかに)」はどういう意味になるか?
(イ)①
「らうたげに」 意味+「聞こゆ」=謙譲 補助動詞。
(ウ)④
「いざ給へ」自体、覚えておいてよい。文脈でも。

問2⑤
a「なるめり」撥音便省略。
b思考・感情系統の下は?
c「のたまひ果つ」の未然形活用語尾
d文脈で使役。

問3③
注を読み、人名としての三条殿と建物としての三条殿を区別すること。三条殿(夫妻の邸宅)に戻ってきたのは大将殿であろう。④の「扱いに差」は後で出る論点。

問4②
「中空」の注+「もの懲りしぬべう」(強意+推量(今にも~しそうである))から。

問5①
訳で確認を。⑤Bに関しては、敬語の有無で、動作主体を判断。「お好きになされば」にあたる部分はない。

問6④
①語ったのは姉妹。②大将殿が三条殿に手紙。③「暮らして(暮れるのを待って)」。すぐではない。(前に「迎へ奉れ給へど」とあるが、「奉る」の下二段は特殊な意味(覚えなくて良い)で、「派遣する」の意味。)⑤連れ帰ろうとしている。



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