ビデオ 中編④ | 稲野川ジョン子の身も毛もよだる心霊話

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「ふん。なるほど。同じだな」
「どうしてそんなに落ち着いてられるんです。凄いことですよこれは」
身を乗り出した俺を制するように手を広げた師匠は、ノートを手に取って頭を掻いた。
「ここ……、昭和四十五年のやつ。これ、サトウイチロウって文字が出てこないけど、わざわざメモってあるのは」
「ええ、吉田さんが遭遇した事件だからです。年代も駅名も合ってますから、間違いないはずです。どうして名前が出てこないのか分かりませんが。他にも、名前が出てこないけどそれっぽいのがいくつかあります」
「まあ、それはそれとして。てことは、ここ、『列車に轢かれて』としか書いてないけど、吉田さんの記憶によればこれは特急の通過列車のはずだな」
なにが言いたいのか分からなかったが、頷いた。
ふんふんと師匠はしきりに納得しながらノートを持ったまま立ち上がり、部屋の中を歩き回り始めた。
「どうして誰も気づかないんだろう」
考えながら、俺は独り言のように口にした。同じ人物が何度も死ぬなんて不可解な事件なのだ。警察だって調査してるはずなのに。
「実はな、昨日第一報を聞いてからちょっと気になって調べてみたんだが、前原駅とその両隣の駅では警察の所轄が違うんだよ。ええと、どれだっけ、これか。
俺たちがビデオで見た前原駅の事件のイッコ前、高遠駅の事件。この二つは距離的には近いけど年数もかなり離れているし所轄が違うんだ。関連性には気づきにくいだろうな。
高遠駅の方はサトウイチロウの文字が出ていない。実際は財布に書かれていたのかも知れないが、身元を表すものとしては重要視されていなかったのは間違いない。
警察としても二つの事件を絡めて考え、同一人物の可能性があるなんてバカなことは思っていなかったはずだ」
「でも、この官報の記事を書くのは警察じゃないですよ」
「あ。おっと、そうか。自治体だったな。すまん」
師匠は立ち止まって自分の頭を叩く。
その時俺は重要なことを思いついた。

「待って下さい。遺骨は自治体が保管するっていうのがテンプレートになってますが、遺品はどうなんです。コートは。マスクは、帽子は。ネーム入りの財布は」
「ん。書いてないか。ないな。でも確か、遺品も自治体が保管するって聞いたことがあるよ。最初そう言ったろ。ひょっとすると火葬のとき一緒に焼くこともあるかも知れないけど。
いや、でも本人確認のための証拠品だからな、官報を見て問い合わせがあった時にないとまずいだろう」
「じゃあ、そのネーム入り財布は自治体の金庫だかどこだかにあるはずなんですよね」
「そういうことになるね」
もし、サトウイチロウが同一人物で、死んだ後再びこの世に戻って来るのだとすると、所持品はどうなる? 金庫の底で眠っているものを、もう一度その手に取るのだろうか。俺と師匠は手分けして、ノートに出てくる市町村役場に電話をした。
「あの、古い官報を見たんですが、そちらが遺骨を保管されている人が、もしかして自分の身内かも知れないと思いまして……」
そんな嘘を並べて情報を聞き出し、こちらの連絡先を、という話になるといきなり電話を切るという実に迷惑な戦法で俺たちは気になる部分を調べ上げた。
小一時間経って分かったこと。
1.役所は引継ぎが下手
2.公務員はめんどくさがり
この二点だ。
とにかく、前の担当から行旅死亡人の仕事をまともに引き継いでいない。それが三代前四代前と、古くなって行くにつれ何がどこにあるのかさっぱりだ。
「遺品ですか。古い倉庫のどこかにあると思いますが、なにぶん昔の話で……」って、そんなセリフは聞き飽きたから。いいから探せよ、と言いたくなるが「調べて折り返し電話しますからそちらの連絡先を……」ガチャン。
連絡先を知られるのはまずい。なにせ身内なんて嘘だからだ。確かめてみたら間違いでした、っていうのでも問題ないとは思うが、こういう嘘で乗り切るのは苦手だった。

その点師匠はずぶといのか、生き別れの甥っ子になりすまして遺品のありかを探し当てるのに成功していた。しかし。
「……ありましたよ倉庫に。でも変だなあ。一式入れてあるはずの袋が空なんですよね。別の場所に移したのかな。でも遺品の明細は入ってましたから、確認できますよ。もしもし、聞こえてますか。あれ? もしもし……」
ガチャリと受話器を置いた師匠が笑みを浮かべる。
「空っぽだってさ」
結局まともに確認できたのはこの一件だけだったが、何が起こっているのか理解するのには十分だった。
さすがに遺骨のある寺まで同じように調べるのは無理だったが、現地に忍び込んで納骨堂を暴くと骨壷は同じように空になっているのかも知れない。
薄ら寒くなってきた。ありえないと思っていたことが、次々と現実的な姿で現れてくる。
「とまあ、ここまで分かったところで、どうする」
師匠がぼんやりと言った。どうすればいいんだろう。怪談話の収集としては、もうここらで置いた方がいいような気がする。
でも俺たちはビデオを見てしまっていた。五年まえの前原駅の事件を。そしてそのビデオテープの持ち主が、寺に供養を頼みに来た。心霊写真等の供養で密かに有名な寺にだ。
なにがあったのか。ビデオに映っていた白い仮面の人物と、カメラマンに一体なにが。
師匠も同じことを考えていたのか、無造作に転がっていた例のビデオテープをデッキに入れようとした。
「待って下さい。いいです。もういいです」
あの晩に、何度も繰り返し見たそれを、今はもう一度見る勇気が無い。
「腹減ったんで、帰ります」そう言って立ち上がろうとした。師匠は「そうか」と口にするとノートを俺に返そうとした。

「持ってて下さい。あげますから。何か気がついたら教えてくれれば……」
俺が手を振った時だった。師匠はニヤリと笑うと、言った。
「じゃあ、さっそく気がついた点だ。ビデオの中の事故は、駅のホームで轢かれている。ノートによると下り特急列車が通過中に、とある。次の高遠駅も特急列車の通過中の事故だ。さっき確認したが、吉田さんの時も特急の通過した後に発見されている」
そう言えば師匠がしきりに頷いていた。
「その他のケースも、特急列車に轢かれているのがほとんどだ。確認できる最も古い越山駅のものも含め、通過列車とは明記されていないものも多いが、いずれも小さな町の小さな駅だ。まるでそういう場所ばかり狙ったように。
つまり、特急が停まらない駅ばかりなんだ。ということはほぼすべてのケースで通過列車に轢かれていることになる」
師匠がなにを言い出すのか、じっと聞いていると胸がドキドキしてきた。師匠が興味を持った部分、そこには大抵、不気味でグロテスクなものが潜んでいるから。
「北村さんが言ってたんだろ。『停車駅だと減速しているから、通過の時みたいにスパッといかないのよ』って」
なにが言いたい? 分からない。なにが言いたいんだ?
「どうして通過列車なのに、バラバラなんだ」
ピクリと来た。そうか。吉田さんの話を聞いていて微かな違和感があった気がしたが、そこだ。噂では、サトウイチロウの死体はいつも決まってバラバラだ。なのに、吉田さんの時もそうだが、通過列車でそうなったというのは少し変ではないか。
停車直前の列車に巻き込まれたというなら分かる。しかし通過列車では、跳ね飛ばされるか、車輪で轢断されるにしても北村さんに言うように、スパッと切れるのではないだろうか。素人考えだが、少なくともバラバラと言われるほど多くの肉片になるとは思えない。
慌ててノートを見返す。
官報には轢死と書いてあるばかりで、バラバラ死体なのかどうかははっきり分からない。だが、その年恰好の部分に目が釘付けになる。

前原駅の事故では、『年齢20歳から40歳の男性、身長160から170センチ位』とある。高遠駅のものは『年齢20~40歳位、身長165~170cm位』
その他を見ても、年齢や身長にかなりの振れ幅がある。最大のものは年齢で20~50歳位、身長で160~175センチ位となっている。死後何年も経過しているわけではないのだ。
すぐに検視したのなら、年齢はともかくとして、身長は正確な数字が分かっていいはずだ。たとえ胴体が真っ二つになっていようと。それが正確に測れないような死体の状態を暗に示しているのだとしたら……
バラバラ。
みんなバラバラなのだ。無数の肉片になって、線路に撒き散らされているのだ。
そうならないはずの、通過列車なのに!!
ごくりと喉が鳴る。目の前で師匠の瞳が妖しく輝いている。
「あの、コートの、下は、はじめから……」
師匠の唇がゆっくりと動く。頭の中で、ビデオで見たコートの男の姿が再生される。列車がホームに飛び込んでくる直前の、一瞬の映像。荒い画質の中で、コートの中がもぞもぞと動く。帽子とマスクに覆われた顔の、その奥は。
やめてくれ。聞きたくない。
耳を塞ぐ。
「帰ります」
そう言って師匠の部屋を飛び出した。


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