ビデオ 前編① | 稲野川ジョン子の身も毛もよだる心霊話

稲野川ジョン子の身も毛もよだる心霊話

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大学二回生の初夏だった。
俺はオカルト道の師匠につれられて、山に向かっていた。
「面白そうなものが手に入りそうだ」と言われてノコノコついて行ったのであるが、彼の「面白い」は普通の人とは使い方が違うので俺は初めから身構えていたが、行き先がお寺だと知ってますます緊張してきた。
なんでも、知り合いの寺なのだとか。そちらから連絡が入ったらしい。
市内から一時間以上走っただろうか。師匠は「ここだ」と言いながら、道端に軽四を止めた。
周囲は畑に囲まれていて、山間に午後の爽やかな風が吹いている。
古ぼけた門をくぐり、地所に入るとささやかな杉木立の向こうに本堂があり、脇に設けられた庭園には澱んだような池が音もなく風紋を立たせていた。
「真宗の寺だよ」
と師匠は言った。
山鳩が鳴いて、緑の深い森に微かな羽ばたきが消えていく。右手に鐘楼堂が見えたが、屋根が傾き、肝心の鐘が見当たらない。打ち捨てられているようだ。
「あれは鐘が戦時中に供出されてからそのままらしい」
師匠の説明に顔をもう一度そちらに向けた瞬間、目の端になにか白いものが映った気がして、先へ進む師匠を追いかけながら首を捻ってあたりを見回したが何も見当たらなかった。
その白いものが服だったような気がして、少し気味悪くなった。境内には誰もいないと思っていたから。
師匠はズンズンと本堂から反れて平屋の建物の方へ向かっていった。
住職の住む家らしい。庫裏(くり)というのだったか。

玄関の方へ回ろうとすると「こっちこっち」という声がして裏手の方から手招きをしている人がいる。随分背の高い男性だ。俺と師匠は裏口から招き入れられ、居間らしき畳張りの部屋に通された。
「親父さんは?」
師匠の問いに「出てる。パチンコじゃねえか」と男性は答えて、「じゃあ、例の、持ってくる」と部屋を出て行った。
二人取り残されてから、俺は師匠をつついた。
「あの人は黒谷さんっていう、悪い人。親父ってのがこの寺の住職。やっぱり悪い」
なにせこの僕に、供養を頼まれた物品を売りつけようってんだから。
ニヤニヤと笑う。
俺は先日見せてもらった心霊写真の束を思い出した。あれも確か業者から買った横流し品だと言っていたはずだ。
「ああ、ここから直で買ったのもあるよ。まあ、一応ここは御焚き上げ供養の隠れた名寺ってことになってるから、そこそこ数が集まってくる」
でもまあ、本物は一割以下だね。
師匠はそう言いながら、部屋の中に無造作に飾られた市松人形や掛け軸などを勝手に弄りまわっている。
やがて黒谷と呼ばれた男性が戻ってきて、紙袋を師匠の前に置いた。
師匠が手を伸ばそうとすると、黒谷さんはスッと紙袋を引き下げて手の平を広げた。
五本の指を強調するようにウネウネと動かしている。
「五本は高い」
師匠が口を尖らせると、黒谷はボサボサの頭を掻きながら「あ、そ」と言って紙袋を持って立ち上がろうとする。

「持って来たのはどんな人ですか」
間髪いれずに師匠が問うと、中腰のまま「中年のご婦人。深い帽子にサングラス。住所不明。姓名不明。ブツの経緯も不明。でも供養料に足の指まで全部置いてった」と答える。
「二十本も?」
師匠が険しい顔をした。そして「わかりました」と言ってジーンズのポケットから出した財布を放り投げる。
黒谷は財布をキャッチして、紙袋をこちらによこした。
師匠は紙袋を覗き込み、小さく頷く。俺も思わず横から割り込むように覗いた。袋の中に、一本の黒いビデオテープが見えた。
「足りねえ」
黒谷の声に、師匠がばつの悪そうな顔をして「今度持って来ます」と言う。
「今度っていつだ」
気まずい雰囲気が部屋に流れる。
その雰囲気に耐え切れず、思わず「いくら足りないんですか」と言ってしまった。つくづく、師匠の思惑通りの行動をとってしまっていると我ながら思う。
結局俺はなけなしの七千円を財布から出して、黒谷に手渡した。
俺だって見たいのだ。ここまできて我慢できるわけがない。
「また何か入ったら、連絡する」
黒谷はそう言って立ち上がった。
帰る時、俺と師匠はまた裏口に回らされた。靴がそこにあるからとはいえ、なんだか悪いことをしているという気になってくる。いや、確かに悪いことなのだろう。供養して欲しいと持ち込まれたものを、こうして金で買って好奇心を満たそうというのだから。
これを持ってきたという女性は、いったいどんな気持ちで寺の門をくぐったのか。
いきなり、腕を掴まれた。ドキッとする。

「あいつの、弟子か」
凄い力だった。黒谷は俺を引き寄せてささやく。師匠はもう外に出ていて、家の中からでは見えない。
「オレのことは聞いたか」
掴まれた腕の痛みに顔をしかめながら、頷く。
「じゃあ浦井のことも聞いたか」
まだ全部は聞いてません。ようやくそう言うと、やっと手を離してくれた。
黒谷は何か考えごとをしているように視線を宙に彷徨わせていたが、ニッと口元を歪めると、「あのビデオ、やばいぜ」と言って"もう行け"とばかりに手を振った。
掴まれた肘の裏側が熱を持ったように痛む。俺は逃げるように靴を履いて外へ出た。
外では師匠が誰かに気づいた様子で、なにかを喋りながら本堂の方へ歩いていこうとしていた。俺は家の戸口を気にしながら慌ててそれを追いかける。
視線の先に白い服を着た少女が映った。ああ、さっきの、と思う。幻覚ではなかったようだ。
師匠は「アキちゃん」と呼んで近づいていった。
本堂の式台の端に腰掛けて足をぶらぶらとさせながら、師匠の呼びかけに軽い会釈で応えている。
中学生くらいに見える、ほっそりとした色の白い子だった。
久しぶりに会ったような挨拶を交わしたあと、師匠は「高校には上がれそうなのか」と聞いた。
そういえば今日は平日のはずだ。学校を休んでいるのか。
少女ははにかんで笑い、「たぶん、なんとか」と風鈴が鳴るような声で返した。
その後、参道を引き返す俺たちを見送りながら、彼女はずっと同じ格好で座っていた。振り返るたび、周囲の景色より小さくなっていくように見えた。


ビデオ 前編②へ続く...



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