黄色い自転車

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 幼馴染の家に行ってくるって言って家を出てきた 玄関まで母親と姪が手を振りに来てくれた そんなのを見れば正直家に居たかったけどそんなことは黙ったまま 自転車の鍵をポケットに入れてエレベーターを降りた

 黄色い自転車があるって聞いたけど それは私が高校生の時にずっと使っていたボロボロのママチャリだった
 籠は両サイド穴が空いていて鍵の部分は錆びて動きにくい 空気なんて前も後ろも全然なかったから前も後ろもしっかり入れた 横に転がっていた誰の空気入れかも分からないそれで入れた

 漕げば漕ぐほど思い出せた
 橋を渡って 畑の横を過ぎて 踏切を渡った あの時は地獄だと思っていたあの通学路を思い出した 今じゃ少し恋しい 友達なんていらないって思ってたけど彼女らのおかげで一人じゃできないこともたくさんできた 嫌で仕方がなかった学校には大好きな部室があったからがんばれた 近所の細い道には珍しい花がよく咲いていた なんてことない出来事を少しずつだけど全て思い出していた

 街灯がない細い道 犬の鳴き声もしない夜十時  君のことも綺麗に忘れた 母ちゃんの背中を思い出した
 何もしなくていいよ そんな言葉が聞こえてきそうだ

 ここは夏の匂いがした

 このままずっと、ずっと、いれたらいいのに。




 もうすぐしたら高速バスにまた乗り込む 都会に向かって優しく揺れる 涙で滲む窓の外の世界は
 私が大好きだった景色




 大阪に帰ります
 そこはもう 私の帰る場所です

 惜しくない 強くなれる あの時あの優しさにちゃんと触れたから もう大丈夫

 相席にならなくて良かった

 少しうたができた

 私は、 シンガーソングライターだ。





 稲垣 稀