黒髪、黒い瞳、色の白いその華奢な少年は、その新しい使用人にも、まったく怖じることなく明瞭な声で挨拶した。次期伯爵の位を約束された少年は、その高貴な身分を驕りもせず――小間使いとして雇われたアルベルトにも、まるで友人の様に接した。
その少年、ルドルフは、いつも明るく、活発で、毎日屋敷中を駆け回っていた。周りが肝を潰すような悪戯も平気でやってのけた。

だけど、彼に関わる誰もがーー彼を愛して止まなくなってしまう。そんな太陽の様な少年だった。

アルベルトもまた、やがてルドルフとは主従の垣根を越え、同年代の親友の様になっていた。グレマー伯は、聡明なアルベルトにも相応な教育を受けさせてくれた。アルベルトは仕事の合間に、本を読んだ。深夜、仕事が終わったアルベルトはルドルフの部屋で、同じ机につく日もしばしばだった。
ルドルフとアルベルトーー傍目から見た人間には、二人を親友の様に映っていただろう。誰よりも、ルドルフの近くにいるのはアルベルトだと思っていたに違いない。


アルベルトも、そう思っていた。


あの女(ひと)が現れる前までは。