一度だけ、天国の父に会いました/ 気遣ってくれたぼくの体調 | 一度だけ、天国の父に会いました

一度だけ、天国の父に会いました

そして、不思議なことや不思議なものを、たくさん見せていただきました。

 40年以上にも及ぶ喫煙が肺の姿を真っ白に映すほどに自分の身体をむしばんでいた事実を、目の前にいる医師の口から聴かされたことで、とてつもなく大きな衝撃を受けたのです。

 

 事務所に戻るや否や、封を開けたラークメンソールの箱やストックしておいたハイライトを見ん吾ごみ箱にねじ込み、ライターから灰皿まで目に触れるすべての喫煙関連hんを、目の届かないところに仕舞い込んだんです。

 

 そんなぼくの行動を奇妙な目で見ていた妻が「どうしたの」と聞いてきたので「おれ、今日限りでタバコを吸わないことにした」と伝えると、「何度聞いたセリフかしら」なんて薄笑いを浮かべていたんです。

                            

 そんな妻の薄笑いとは裏腹に、それ以来ぼくは、たった一本のたばこすら口にすることがなかった、というよりも、口にすることができなくなってしまったんです。吸いたいという気持ちがなくなってしまったんです。

 

 いいえ、それだけでないんです。たばこの箱や灰皿に手を触れることさえもできないほど、たばこというものに嫌悪感を抱くように変わってしまったんです。突然に、なんです。

 

 「何を馬鹿なことを言ってるんだ」と思うかもしれませんが、本当なんです。世にいう禁断症状なんてまるでないまま、それ以来ずっと、たばこを口にすることも、吸いたいと思ったこと も、あのいい香りを思い出すことも、まったくなくなってしまったんです。

 自分でも「どうかしちゃったのか」と信じられないんです。

 

 そんな経緯(いきさつ)を知らない妻は「あーら、よくタバコを止められたわね、偉いわね」なんて半分茶かしながら云うけれど、ぼくは他人から「偉いわね」なんて言われるほど努力をしたわけではないのです。

 

 早い話が「あなたの肺がまっ白ですよ」と告げられたら、その言葉が「この先、永く生きられないよ」という脅し文句に聞こえたんでしょう。あのたばこの虜(とりこ)状態から一瞬にして、たばこ大嫌い人間に180度変わってしまったんです。 

 

 でも、よく考えてみると、それはこの世における眼に見える世界での話だと思います。確かにsの先生は「あなたの肺がまっ白だよ」といって、ぼくの今の状態を説明してくれたことは間違いありません。

 

 でも、肋骨の一部が痛いと受診した患者に向けてそんなことを言うでしょうか。余談として「ちょっとたばこを控えた方がいいですね」くらいならまだしも、少し唐突過ぎたんです。なぜなら、少し前に診てもらった成田整形の先生は、何も言ってくれませんでしたからね。

 

 つまり、この先生にそれを言わせた人が別にいたのではないか、と思うのです。というのは「肺がまっ白だよ」と言われてわき目も振らずにたばこの空き箱や灰皿を目に触れないところに仕舞い込んだのですが、やれやれと一息ついたとき、あれほど痛かった肋骨の痛みがすっかり消え伏せていたからなんです。

 

 いくら立派な医者と言っても、言葉一つで痛みを亡くしたり、たばこを吸えなくしたりするなんてことは、魔法使いじゃあるまいし、あり得ないことです。

大方の人は、「もう少し様子を見て」とか、痛みが引くのをまったりして「少し、禁煙の努力もしてみようか」というような過程を経て、たばこへの依存が消えていくんだと思います。

 

 ところが、ぼくの場合は即刻に、一瞬にしてタバコを吸えなくなってしまったんだよなあ、と思ったら、あのアイスピックで突いたような肋骨の痛みも突然に消えてしまっていたのです。

 

 つまり、肋骨の強い痛みの原因を探っている中で、喫煙による身体へのダメージというものをいやというほど教えてくれて、それによってたばこ吸いの悪習から抜け出させてくれた、ということではないのかなあ、と気付いたのです。

 

 そんな事実を目の当たりにすると「あなたの肺は真っ白だよ」という一言は、先生自身の気持ちで発した、というよりも、きっと、あのご霊さまが超能力をつっ買ってこの医師に言わせたに違いない、と思えてきたんです。そうとしか考えようがないんです。

 

 「たばこを吸う」という行為は、それほど人の身体にとって有害なことなのだ、と思い知らされました。そんな風に考えると、喫煙とかアスベストといった物質を体内に取り込むことは、この大宇宙の法(のり)に背いた逆事(さかごと,通常とはさかさまなこと)なのでしょう。

 

 人の肉体に留まらず、霊体という魂(たましい)の部分まで傷つけて天賦の聡明さ(天から与えられた賢さ)までも影響を与えてしまうのではないか、と思います。わざわざお出ましになったご霊さまが、先生の口を借りてぼくの喫煙癖を強引に、止めさせてくれたのだと思いました。

 

 ああ、何とありがたいことでしょう。あの若かりし頃、たばこ談議に花を咲かせた多くの職場の同僚や知人が僕と同じように官益あるいは古希を迎えるようになり、肺がんや咽頭がんといった喫煙が原因と思われる疾病により生命を落とした人たちを多く見聞きするようになりました。

 

 このぼくでさえも、その後に受けてきた胸部X線の検査でがんの疑いがある、ということで精密検査を指示されたことが何回かあったからなんです。けれど、幸いにもその結果は問題なし、ということで胸をなでおろしてきたからなんです。

 

 その現実を振りけるたびに、喫煙指数が800にも担っていたのに、たばこを吸い続けていたあの若かりし頃の無謀さに、無知というか若気の至りに、というか、そんな無頓着さに恐ろしさを感じるこの頃です。

 

 そんな病災からご霊さまがぼくのことを護(まも)ってくれたのか、と思うと、「ご霊さまに生かされている」と強く感じます。「お前には、やらなければならないことがまだまだあるよ」と言われているようです。