古き良き昭和の一場面
名画座番外地 川原テツ
新宿になった映画館である新宿昭和館に閉館まで勤めた作者によるとても映画館の物語とは思えぬある種の修羅場の記録(笑)
この映画館には俺も思い入れがある。この映画館の側にあるボロボロのスタジオに入ってたからである。
この頃の新宿南口は本当に怪しげな街で物騒で怖かった。変な映画のアンケートと称した体の良いカツアゲや口に手を当てて目印にしてトルエンを売る売人がウロウロしてた。その中でも異彩を放っていた映画館がこの映画館。
とにかく一年中ヤクザ映画をやっている。だから残念ながら入った事は無い。そんな怖いイメージの映画館の内幕がまともであろう筈が無い。
観に来る客も本職の人もホームレスも地下のポルノ館に男との出会いを探すゲイの人も……そしてそれを捌く作者も作者の周りの従業員も並大抵では無いのだ。
注意しながらも殴り合いに発展したり本職と仲良くなってしまったり……余りにも濃いエピソードの連続。
でも劇場従業員達の中に流れる不思議な家族の様な絆には心をうたれる。後半まではゲラゲラ笑って読んでいたものの後半の閉館が決まってからの描写は本当に切ない。自然に泣けてくる。
この本は昭和~平成と時代がめまぐるしく変わりずっと続く筈だった素晴らしい時間が唐突に終わってしまう青い記録である。こういう青い感傷は堪らなくなる。
本でありながらニューシネマパラダイスの様な感覚。
しかしこの本を読むと今のシネコンの仕組みが益々 納得いかなくなる。
あの時代の映画館に間に合ったのは俺達世代にとってとても幸せな事だったなーと痛感する。