木曜の朝、いつものように南方週末紙を買うと何と3ページにも渡る「豚荒」(中国語:猪荒)特集。何も豚が不機嫌で荒れている(笑)わけではなく、中国語で何かが急に不足するときに「荒」という文字を使います(例えば電力不足は「電荒」、石炭不足は「煤荒」)ところ、最近価格が急騰する豚肉をそれに引っ掛けて「豚荒」と呼んでいるのです。そしてこの記事の触れる内容が、中国のいわゆる三農問題(農業・農村・農民)に広く関わる非常に包括的になっています。そこで、何度かに分けてこの記事を紹介しつつ、自分の学んだ近年の中国三農問題について記していきたいと思います。今日は「変わりゆく農業の担い手」に関してです。(以下、南方週末8月4日付記事より)

北京で考えたこと-buta
可愛い子ブタに罪は無いのですが…物価上昇の犯人のように言われることもしばしば
消費者物価指数(CPI)における豚肉の比率は4%とかなりの重要品目

 6月の豚肉価格が昨年同期比57%増と急騰する中、さぞ養豚農家はホクホクしているのだろうと思いきや、四川省広漢の羅おばさんは豚舎を取り壊していた。元々は皆伝統的に数頭、十数頭の豚を飼っていたこの地域でも養豚をやる農家は少なくなっている。こういった小規模養豚(統計的には50頭以下を指す)は2000年以降減少傾向だ。

 羅おばさんに養豚を止める理由を聞くと、「だって、うちのダンナが出稼ぎに行けば月に3000元も稼げるのよ」と。それだけあれば四川の農村での生活には十分だ。養豚は豚肉価格が上がったとしても、飼料、ワクチン、人を雇えば手間賃も高くなってるし、汚くて辛い仕事。それで数頭を一年育てたってご主人出稼ぎの一か月の稼ぎにも満たない。今では羅おばさんの生活も楽になった。「毎日マージャンやったり、適当に遊んでいるわ。」

 小規模養豚農家に変わり増えて来ているのは企業。まさに、農家世帯を単位とした伝統農業が、規模経営を基礎とする現代農業にとって代わられようとしているのだ。毎年5000万トンを超える豚肉を消費する中国、そこに儲けのチャンスが無いわけはない。最近2か月の間にも、新希望集団は5年の内に50億元を投じ養豚養鶏事業を遼寧省で、日本企業と組んで100億元単位の投資を予定している中糧集団(訳注:相手は三菱商事、伊藤ハム、米久の合同出資会社のようです)、更には不動産業界からも投資が入ってきそう。

 小規模農家が急速に退場していく中で、「超大規模」が入ってくる、中国が6000年にも渡って行ってきたビジネスモデルがついに生産力の限界にきているようだ。市場の力といい、政府の力といい、大規模養豚が伝統的小規模養豚を代替しようとしている。(以上、南方週末記事より)

【豚からみた三農…三農から「五農」へ】
 今回取り上げたのは、農業の担い手の変化。農民が農業を離れ、企業が農業に入っていく中国の農村における大きな変化です。中国統計年鑑2010では2009年の農村人口率が53.41%、7.1億人が農村人口となりますが、戸籍ベースのこの数字と、出稼ぎに来る人たちの人口の動きとは大きく離れています。畜産業でこれですから、耕種農業(特に穀物)でも状況は同じ、いやなおさら厳しいでしょう。穀物も今年は値上がりしてはいますが、同様に農業資材(化学肥料、農薬など)も値上がりする中、羅おばさんのように「もう止めたい!」と思っている人が多数かもしれません。以前ぶっちゃけ「怠け農業」のブログエントリーで紹介したような、「とりあえず一応農業やっているけどぉ~」というような離農予備軍も相当いるでしょう。

 KINBRICKS NOWの記事「繰り返されるプチバブルとその崩壊=ニンニクは暴落、豚肉はどうなる?―中国」でもあるように、最近の豚肉高騰でも「価格のちょっとの変動で短期的・盲目的に豚を売り買いする」と価格変動の要因とされる小規模養豚農家(2010年末で40%の農家が50頭以下の規模)も、この豚肉高騰の最中に実は着実に「退場」しつつあるというこの記事。そこには所謂「豚肉周期」と言われるような、周期的変化を大きく上回る、よりマクロな変化としての農業の担い手(ここでは養豚)の変化が起きているのではないかと推測させられます。7月4日付財経誌記事は農業科学院農業経済研究所の研究者の言を引いて「零細はささっと手を引いて、大手はまだゆっくり入って来ている」、この端境の時期が豚肉の供給不足につながっているとしていますが、まさにこうして農業の主役が入れ替わる過程が今回の豚荒なのかもしれません。

 南方週末記事でもインタビューをしている新希望集団の劉永好・董事長が「これからは三農ではなく、農業企業、そして農民専業合作社の「五農」の時代だ」と語る今後の中国農業。そして、それを促す方向でどかっとつぎ込まれる政府補助金。次回その二では豚荒から見る中国農業と政府補助金の関係について考えてみたいと思います。