食糧確保は国家戦略問題、その点は最近の穀物高騰を見るまでもなく否定する人はいないでしょう。中国は他の国にも増して特にそれを強く打ち出している国の一つ。人口が多いのでその懸念は最もですが、食糧生産に対する焦りもやはり本音ではあるのではないでしょうか…なんてことを思わせる記事が一つ。

 経済参考報(新華社系)、そしてそれをフォローする形で南方週末がそれぞれ山東省で農業経営を行う「山東朝日緑源農業高新技術有限公司」あのアサヒビール出資の農業企業、朝日緑源を取り上げました。論拠の弱い書き振りのまま、論調はあれよあれよと「外資に中国の国土を使って農産品生産・輸出をさせる動きには警戒せよ」といったところにまで…。まずは経済参考報の記事を抜粋している形での南方週末サイトの記事要旨をご覧ください。(以下記事要旨)

北京で考えたこと-nainiu
朝日緑源の乳牛たち―牛糞から作る堆肥も使う循環農業を掲げています。

 世界トップ500の企業が三社も資本を連ねるこの山東朝日緑源(訳注:同社HPによればアサヒビール(株)、住友化学(株)、伊藤忠商事(株)が出資)は、山東省莱陽市に5年前進出し、農業生産を行っている。外資が農業生産のサイクルに入ってくることは、国内資本独占の局面を打破し、外資が「販売人」から「農場主」と姿を変えてきている。今後は生産拠点を3000ムー近くにし、またアサヒビールの瀬戸・最高顧問主席(訳注:原文「最高咨询主席」のママ。元アサヒビール会長)はこのようなモデルを中国国内20~30か所で行いたいとしている。

 契約の内容によると、農家は村を単位とした合作社を結成し、莱陽市と沐浴店鎮がアサヒと契約を結ぶ。土地利用契約は20年間、最初の5年間は800元/ムー(訳注:1ムー=1/15ha)、その後は5年毎に200元ずつ増やしていく。現在の実質占有面積は1500ムーにまで至り、将来は3000ムーにまで伸びる予定。同社では青島や上海のスーパーなど高所得層を対象に、高級牛乳、イチゴなどを生産。牛乳は18元/リットル以上、イチゴは140元/キロ以上にもなるが、まだ利益は出ておらず、会社は毎年220万米ドルを投入し損失を補てんしている。

 沐浴店鎮共産党委員会書記は「いまだに良く分からないんだ」と経済参考報記者にこう言う。「彼らは全然利益にこだわっていない様子だ、こんなに投資して、5年も経つのにまだ利益も出ていない。利益を追求するであろう世界500強企業が、利益率の低い農業生産に参入してくるのはいったい何でだろう?」

 秦慶武・山東省省情研究センター主任(元山東省社会科学院農村研究所所長)は、土地は我が国の希少な資源であり、外資参入が増え長期に土地を借り、日本などに農産品を輸出することになれば、我が国の資源を占有(訳注:原文「侵占」)することとなり、外国の農産品生産基地となってしまうと指摘。李昌平・河北大学中国郷村建設研究中心主任(訳注:この方の発言については「中国「ハイブリッドの父」袁隆平への嘆願書」でも書きました、有名なので影響力はありそう…)もハイテクなどを理由に外資を導入することは「外国に譲る」ことになってしまうと警告する。(以上記事要旨)

【考えたこと】
 自分自身も朝日緑源には何度かお邪魔させて頂きました(過去のブログ記事「循環農業による新しい中国農業への取組み」等をご覧ください)。もちろん課題は色々ありながらではありますが、非常にしっかり「循環農業」理念を追求しようと努力なされていました。異国で頑張っている日本の農業者に応援したくなる気持ちを抱いています。個人的には北京在住者として同社の牛乳は日頃飲ませてもらっています。

北京で考えたこと-niunai
朝日ブランドの牛乳。確かに高価ですが、中国ブランドの数々の問題もあり、北京で飲ませてもらってます。

 だから言うわけではありませんが、きちんと現地法にも基づき、高所得層には商品も中国国内で根付いている朝日緑源の経営を捉えて、突然「外資警戒せよ!」は論旨が飛んでいます。大体、どの程度朝日緑源が日本に農産品を輸出しているのか(今のところほとんど中国国内がマーケットと理解しています)も紹介しないまま、状況証拠だけでの攻撃はレベルの低いルポと言わざるを得ないかと。(まさかとは思うけど、愛読している南方週末の紙版ではこのままでは出ないで欲しいなあと願うところ。)省全体で日本への農産品輸出で多く外貨を稼いでいる山東省の経済を考えても不思議な論調です。

 ただ一方、こういう記事を生み出す空気と幾つかの要素は深読みしたくなります。先日温家宝総理の訪日の中で、少し緩和に傾きかけている日本製農産品の中国への輸出が議論されるタイミング、ナショナリスティックな雰囲気を醸し出せそうな日本企業という対象、そして同時にミルクなどでは特に海外企業に席巻されつつあり食品事故の問題など課題山積みの国内食品産業などなど…。地方省リーダーなどへの攻撃の意か、はたまた親日パフォーマンスの温総理へのあてつけか…なんて。「農地=土地を海外に明け渡す」といった見出しはやはりショッキングに映るようで、既に各種ネット上のコメントもヒートアップ気味(先日書いた五毛党もいるでしょうが)。この辺りが妙に相まってしまって、誤解に基づいた変な展開にならなければ良いなとは願いますが、今後の記事の転載のされ方などを注目する必要があるかもしれません。

 中国自身もアフリカを始め、国外で多く農業生産を行っていると報道されています。その意味ではやぶ蛇にもなりかねないこんな論旨の新聞記事。今は南方の降水不足が報道される中、物価高との関連もあり、十分で安全な食料品確保に過敏な最近のご時世を反映した記事と言うことかなあと感じます。