少し前の話ですが、内閣府が職員を対象に「賃上げのためのアイデアコンテスト」を実施しました。

その中で、「残業から副業へ。すべての会社員を個人事業主にする」という斬新な(?)提案が優勝アイデアの一つに選ばれ、大臣から表彰されたのですが、これが「脱法行為を認めるのか」と大炎上してしまったのです。

なぜ炎上したの?

提案の詳細は内閣府のホームページから削除されてしまいましたが、報道などによると、定時以降の残業を個人事業主として受託すれば、会社も社員も得をする、というアイデアだったようです。

 

でも、これって一体どういうことなのでしょうか?そして、なぜ炎上してしまったのでしょうか?

会社も社員も得をする? 魔法のような仕組み

この提案のキモは、税金と社会保険料の負担を減らすことにあります。

 

社員が残業する代わりに、個人事業主として会社から仕事を受託すると、会社は給料の支払いが減り、社会保険料の負担も軽くなります。

 

社員も、社会保険料の支払いが減る分、手取りが増えるというわけです。

 

まるで魔法のような話ですが、これって本当に実現可能なのでしょうか?そして、もし可能だとしたら、一体何が問題なのでしょうか?

問題点は「偽装請負」?

この提案は、労働者かどうかは働き方の実態で判断するべきだという原則に反しているとして、多くの批判を浴びました。

 

仕事の内容も働き方も同じなのに、時間で区切って個人事業主と見なすのは、「偽装請負」と同じで労働法を無視しているというわけです。

 

たしかに、この指摘はもっともです。

 

しかし、怒りの拳を振り上げる前に、なぜこれで収入が増えるのか、その仕組みについて考えてみましょう。

税金と社会保険料、あなたはいくら払ってる?

まず、社会保険料についておさらいしましょう。

 

会社員は、健康保険、厚生年金保険、介護保険などの社会保険に加入しています。

 

保険料は、給料やボーナスなどをもとに計算され、会社と社員で半分ずつ負担します。

 

一方、個人事業主は、国民健康保険と国民年金に加入します。

 

これらの保険料は、所得をもとに計算され、全額自己負担となります。

副業のメリット、実はこんなにたくさん!

所得税についても見てみましょう。

 

個人事業主の場合、事業に必要な経費を収入から差し引くことができます。

 

例えば、自宅を仕事場にする場合は家賃や光熱費の一部を経費にできますし、パソコンやスマホなどの通信費、書籍代なども経費にできる場合があります。

 

さらに、青色申告という制度を利用すれば、65万円の控除を受けることも可能です。

 

これらの経費と控除を合わせると、所得税が大幅に安くなる可能性があります。

魔法のカラクリ、それは…

ここまで見てきたように、「残業を副業にする」という提案は、税金と社会保険料の仕組みを利用して、会社と社員の負担を減らすというものです。

 

しかし、この「魔法」は、国が税金や社会保険料を取りっぱぐれることで成り立っているという点に問題があります。

国家をハックせよ? 大臣も表彰した斬新な提案

そう考えると、この提案は「国家をハックせよ」と勧めるようなもので、それを経済再生担当大臣が表彰したというのは、実はなかなか興味深い話ではないでしょうか。

 

この提案は、私たちの働き方や社会保障制度について、改めて考えさせられるきっかけを与えてくれたと言えるでしょう。