Fri 180427  シードル痛飲/チーズは臭いほうがいい(フランスすみずみ35) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 180427  シードル痛飲/チーズは臭いほうがいい(フランスすみずみ35)

 読者諸君はすでにウンザリするほど知らせてあるが、ワタクシは生牡蠣の大ファンである。いったん食べ始めれば、ほぼ際限がない。限界もないんじゃないか。

 

 広島の牡蠣舟で40個を一気に飲み込んだ時には、驚く店のオバサマに「でも、もう40個は行けるんですけど」と呟いたものだった。マルセイユの牡蠣店でも、24個の大皿を10分もかからずに平らげた後で、24個をもう1皿注文して、驚異の目を向けられた。

 

「もしかして、食欲中枢がいかれているんじゃないか?」とホンキで悩むこともある。というのはもちろんウソで、サトイモたるもの、そんなことで悩んだりするほど、繊細華麗な精神をもってはいない。食いたかったら、好きなだけ食えばいいじゃないか。

 

 現代版のガルガンチュアとパンタグリュエルの世界と言ってもいい、話がフィレステーキと生牡蠣と天ぷらとお酒全般に関わるかぎり、おそらく今井君は誰にも負けることがない。

20086 シードル

(サン・マロのカフェでシードルを痛飲する。カップの名前はボル。一気に1リットルでも注文できる)

 

 それ以外のものだと大したことはないし、宴会の席でちっともお箸が進まずに「どうなさったんですか?」「召し上がりませんね」「お口に合いませんか?」と心配されることも少なくない。

 

「口に合う」「合わない」を論ずるほどのグルメ君でないのは明らかなので、そんなことを心配するには及ばないが、例えばその宴会が「接待」と呼ばれる類いのものだとすると、ホンキで心配してくれる人も多いのである。

 

 同じステーキでも「フィレ」ならナンボでもワシワシやるが、「サーロイン」となると、200グラムのステーキの半分も胃袋に送り込むと、もうその先はウンザリ、口に入れても咀嚼する気はほとんどなし。まして「嚥下」なんてのはもってのほかであって、噛んでいる段階で頭痛が始まる。

 

 そういう、マコトに難しい男である。好きとキライの境目が極端で、いったんキライとなると、もう見るのもイヤ。強烈に好きか、強烈にキライか、その違いを上手にナデナデして、キライでも好きと言ってごまかし、「好き嫌いのないいい子」を演じるのは苦手中の苦手である。

20087 ホテル

(1泊した「Grand Hôtel des Thermes」。海側の素晴らしい部屋だった)

 

 サン・マロは、かつては海賊の町だったが、海賊が存在するなら、当然そこには豊かな海があって、海産物ももちろん旨い。旨い魚と牡蠣とウニが並べば、海賊の宴会は際限なく盛り上がったに違いない。

 

 サトイモ海賊・今井君は、ムール貝も異様に好き。ブリュッセルに2週間滞在して「毎日60個 × 13日連続」なんてのもやった。今こうしてサン・マロに到着してみると、意地でも胃袋に流し込みたいのは、まずお酒、続いて生牡蠣である。

 

 お酒は、まずシードルを飲む。シードルはリンゴを材料に作った軽い発泡酒であって、アルコール度は3度から8度ぐらい。フランスなら何でもかんでもワインというわけでもない。

 

 ブルターニュとかノルマンディーとか、こんなに北のほうまで来ると、寒くてブドウがとれないから、お酒の原料はリンゴにかわる。リンゴの木に小さなリンゴがたくさん成っている光景は、なかなか楽しいものである。

 

 軽い発泡酒にすればシードルだが、これをギュッと濃厚に蒸留すると、カルヴァドスと言ふものになる。むかしむかしの流行作家レマルクが書いた「凱旋門」と言ふ名作があるが、その冒頭でそのカルヴァドスが活躍する。

 

 今では「レマルクって、誰?」と言われてしまうだろうが、昭和の昔には「レマルクの凱旋門」といえば、彼の「西部戦線異状なし」に並ぶ有名作。世界文学全集の定番にもなっていた。

 

 その冒頭、ヒーローの外科医ラヴィックと、ヒロインのジョアン・マヅーが出会う場面、パリのビストロで2人が味わうのがカルヴァドス。「マヅー」の「ヅ」がいかにも昭和のカホリに満ちているが、いやはや高1の春に通学列車の中で読んだ新潮文庫以来、今井君はビストロとカルヴァドスに憧れて育った。

20088 旧市街

(ホテルの部屋から城砦を望む。引き潮の時間帯には、こんなに海が遠くなる)

 

 しかし諸君、実際のカルヴァドスは極めて濃厚であるから、あんまり若いうちからカルヴァドスなんか飲んでいると、将来サトイモみたいな楕円形人間になりかねない。若いうちのお酒は、シードルのようなスカッと爽やかなものにとどめておくのが得策だ。

 

 ワタクシのシードル歴は、たいへんわずかなものであって、フランスのルアーブルで1回、マドリードで2回。たったそれだけである。

 

 マドリードはずっと南の暖かい町なんだから、シードルはあんまり似合わないが、プリンシペ駅前に鶏の丸焼きで有名な店が1軒あって、もう10年も前、クリスマスの頃に2回訪れた。店の名は、「Casa Mingo」。なぜかお酒は徹底してシードルであって、それ以外を注文すると変な顔をされた。

 

 サン・マロでは、冷たく冷やしたシードルを、グラスではなくて紅茶のカップみたいなカップで飲む。このカップを「ボル」と呼ぶ。我が理想とする形のカップであって、出来ればお土産にと思ったが、土産物屋で売っていたボルはどれも何だかプラスチックみたいな色合い。結局、諦めた。

20089 牡蠣

(夕食はホテル内のレストランで。もちろんまず牡蠣から入る)

 

 パリからサン・マロではさすがに日帰りは無理だから、パリのホテルに荷物を全て置いたままで、今夜はサン・マロに宿泊する。選んだのは、「Grand Hôtel des Thermes」。多くのホテルは城砦の中にあって騒音が気になるが、このホテルは城砦から徒歩15分ほど離れていて、マコトに静かな環境、海の正面の素晴らしい部屋がとれた。

 

 ただし市街地から離れていれば、飲食店も近くにはない。ちょっと高くつくけれども、ホテル内の高級レストランを予約した。予約は18時。100名近く収容するレストランはほぼ満員であって、従業員の応対もたいへん丁寧である。

 

 ただしやっぱり少し高級すぎて、今井君のレベルにピッタリこない。場所は高級リゾート地。盛夏のシーズンを大きく外して高級リゾートに集まり、あえて5つ星ホテルを選択し、1週間どころか1ヶ月も滞在していく高級ヨーロッパ人ばかりのようだ。

 

 すでウェイトレスやウェイターとすっかり親しくなっている。ツーカーで「いつもの白ワインから」と視線を交わすと、とっくにちょうどよく冷やされて待っていた白ワインちゃんが登場する。

20090 お肉

(フィレステーキも、まことにステキであった)

 

 そういう中に入り込んでしまった今井君は、何にも知らずに「シードル、ありますか?」と言っちゃった。さっき城砦の中のカフェで飲んできたシードルが、たいへん爽やかで旨かったのである。

 

 この瞬間、「あの日本人は、この店でシードルを注文する類いの闖入者」と、まあ店のサイドでの評価は決まってしまったようである。ただでさえ長期滞在が基本の高級リゾートを、たった1泊で訪れた表六玉なのだ。

 

 それでもさすがに今井君は旅のベテランだ。ここで一気に体勢を立て直す。一皿目にたっぷりの生牡蠣。おお、これは得点が高い。サン・マロの近くには「カンカル」という名の牡蠣の町があって、このあたりは世界で一番おいしい牡蠣がとれるのだ。

 

 2皿目は、当然のように一番お高いフィレステーキ。それも200グラム。ついでにシードルはほとんど1ボトル一気飲みして、「さあ本番だ」という気合いで赤ワイン。それも濃厚濃密なサンテミリオンを1本選択した。

20091 チーズ盛り合わせ

(〆は、チーズ。真ん中のコケむしたヤツと、上部左のヤギのチーズが最も旨かった)

 

 そして最後に、チーズの盛り合わせで〆るのであるが、さすが高級店、マコトに様々な珍しいチーズをカートに載せて運んできてくれる。好きなチーズを好きなだけその場で選んでいい。ここで威力を発揮するのが、「チーズは臭ければ臭いほど好き」というワタクシのおかしな嗜好である。

 

 本来ワタクシは、臭いのはほとんどが苦手。① 酢のニオイ ② 硫黄のニオイ ③ 夏場のナマがわきのゾーキンのニオイ。以上3点が金・銀・銅であるが、そんなにニオイのキライな今井君でも、どうしてもチーズは臭くなきゃイヤだ。

 

 そこで選んだのが、今日の最後の写真に示した1皿である。オネーサマがびっくりしながらお皿に切り分けてくれた。苔寺の境内みたいにコケむしたヤツに、臭さでは群を抜くヤギのチーズ。いやはや皆さま、どれもたいへんおいしゅーございました。

 

1E(Cd) Gregory Hines:GREGORY HINES

2E(Cd) Holly Cole Trio:BLAME IT ON MY YOUTH

3E(Cd) Earl Klugh:FINGER PAINTINGS

4E(Cd) Brian Bromberg:PORTRAIT OF JAKO

5E(Cd) John Coltrane:IMPRESSION

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