Fri 180406  文字さん/トゥールーズ、歩きまくって大正解(フランスすみずみ15) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 180406  文字さん/トゥールーズ、歩きまくって大正解(フランスすみずみ15)

 帰国早々、様々な人々の訃報を耳にして愕然とする。衣笠祥雄の急逝はフランス滞在時にネットのニュースを読んで両腕がワナワナ震えるほどだったけれども、昨日は竹本住太夫(敬称は全て略といたします)の急死のニュース。粛然とせざるを得ない。

 

 ワタクシが文楽を初めて観た時から、すでに40年。あの頃はまだ「竹本文字大夫」であって、竹本越路大夫と竹本津大夫の東西両横綱が健在だったから、文字大夫はまだ大関格。他にも大関格がたくさん存在する人形浄瑠璃の言わば最盛期であったが、文字大夫はその中でも「強い大関」「もうすぐ横綱」の風格であった。

 

 当時はさすがにオコヅカイはわずかだから、大阪まで文楽を観に通うなんてのは夢の夢だった。大阪に比べれば格段に大人しい東京のお客に混じって、「若き」と言うよりむしろまだ「幼い」段階の今井君も、竹本文字大夫の語りに酔った。

19928 住太夫

(3月3日、公開授業先の大阪池田市民文化ホールにて。竹本住太夫の講演会が、同じ場所でその20日後に開催される予定だった)

 

 大阪の文楽なら、観客席から太夫や三味線に大きな声がかかる。「織太夫!!」「呂太夫!!」「待ってました!!」「大あたり!!」。上品な着物姿のオトナ女子が、平気でハッキリ大きな声をかけるのだ。

 

 東京・国立劇場の観客は、大阪に比較すると遥かにおとなしい。拍手喝采はしても、なかなか声はかからない。40年の人形浄瑠璃歴を誇るワタクシが、この5〜6年ヒコーキ代もホテル代も気にせずに大阪の文楽に通っているのは、そういう大阪の観客が大好きだからである。

 

 もちろん諸君、ヒコーキ代は貯まったマイルで0円、ホテル代も貯まったポイントで0円。ついでにホテルのミニバーの中身まで0円、「これで通わなきゃ損&損」であって、今井君は阿波踊りみたいな文楽ファンなのである。

19929 大聖堂1

(トゥールーズ、ジャコバン修道院 1)

 

 ところが諸君、その大人しい東京の文楽で、幼い今井君は1度だけ大きな声がかかるのを聞いたことがある。言わずと知れた竹本文字大夫が登場した瞬間であって、「文字さん!!」「待ってました!!」という熟年男性の声は、今もハッキリこの脳裏に残っている。

 

 横綱格の越路大夫や津大夫ではなく、強い大関・文字大夫への歓声だったからこそ、忘れられないのである。当時今井君の文楽の師匠格だった人間は、越路大夫のファン。文字大夫についての評価は余り高くなくて、「文字さんのどこがいいんだい?」と不思議そうな顔をしたものだった。

 

 しかしそれからしばらく経って、文字さんは早稲田大学の大隈講堂に文楽に関する講演会に来てくれた。大好きになった文字さんの講演を聴きに、若き今井君もわざわざ大隈講堂の3列目に席を占めた。授業なんか出席しなくても、文字さんの講演なら意地でも早起きしたのである。

19930 大聖堂2

(トゥールーズ、ジャコバン修道院 2)

 

 あのカンペキな大阪弁、今も忘れがたいのである。場所は早稲田大学大隈講堂。「もう少し遠慮して、東京弁ぐらい交じえたらどうなんだい?」と思うほど、一般の大阪の人々よりも遥かに強烈な大阪弁であった。

 

 江戸期から明治にかけての大阪コトバは、きっとこんなふうだったに違いない。「曽根崎心中」や「心中天網島」に登場する男女は、間違いなくこんな響きの言葉を交わしていたに違いない。「夏祭浪花鑑」の人々も、「現れいでたる武智光秀」も、みんな文字さんみたいな言葉をつかっていたはずだ。

 

 津大夫も越路大夫も次々と舞台を去った後、住大夫を襲名した文字さんが文楽を支え続けた。しかしどんなに偉くなっても、ワタクシの中での住大夫は、永遠に「文字さん!!」なのである。

19931 内部1

(トゥールーズ、ジャコバン修道院 3)

 

「フランスすみずみ」の旅に出る直前、新講座「E組」の収録を終え、フランス出発まで残り3日しかなかったのに、それでも大阪に文楽を観に行ったのも、やっぱり遥か大昔の「文字さん」の影響である。

 

 文字さんは、3月下旬に大阪・池田の市民文化会館で「竹本住大夫 文楽の魅力を語る」という講演会を行った。すでに表舞台から引退された人であるし、大昔の思い出とポスターの写真を比較すれば、「さすがにお年をめされたな」の感は拭えない。

 

 実際に講演会が実施されたのかどうかはわからない。しかし今井君はその予定日より20日前の3月3日、同じ大阪池田市民文化会館で、公開授業を実施。掲示されていた文字さんのポスターを発見して、あまりの光栄に涙ぐんだものである。

19932 内部2

(トゥールーズ、ジャコバン修道院 4)

 

 以上、読者層は受験生やその周囲にいらっしゃる世代が中心と考えると、文楽だの人形浄瑠璃の話を長々と書くのは、あんまりワタクシにとってお得ではなさそうだから、まあこの辺にしておこう。

 

「そこで」と言って、やおら始めるのが「トゥールーズ散策記」なのが、いかにも今井君の不器用な人生を象徴している。本来なら「ディズニー満喫してきました」「USJ、楽しかったー♡」「うちのモフモフちゃんでーす♡」という方向性であるべきなのだが、ななんと諸君、よりによって「トゥールーズ」と来たもんだ。

 

「それって、どこよ」もいいところ。写真もまたマコトに地味であって、地味な話題に、地味な地名、バースデーケーキも「クッキー焼いてみました」も、一切ナシ。トゥールーズなんだから意地でもトゥールーズ、アルビにポーにルルドにディジョン、どこまでも正直に旅行記を書き続ける。

19933 ガロンヌ河1

(トゥールーズ、ガロンヌ河夕景 1)

 

 やっぱりルルドのベルナデットが言う通り、「せんせー、ウソはいけましねえだ」であって、文楽の太夫の死去に涙し、鉄人♨︎衣笠の急逝に暗澹とし、思わず気持ちも暗くなり、パリ・モンマルトル墓地で丸1日、ドガやベルリオーズやデュマのお墓参りをしたのなら、やっぱり正直にそのことを書かなきゃならねえだ。

 

 ただし、その「モンマルトル墓地で墓参り」については、おそらく一週間か10日後に詳細を写真入りで記すことになる。今日はあくまでトゥールーズ散策の記録に止めよう。

 

 思えばすでに半月も前のこと、ルルド1泊旅行からトゥールーズに帰って来た。4月15日のワタクシは、丸1日をトゥールーズ散策に費やした。時の経つのはマコトに速いものである。

 

 前日が「トゥールーズ♡カマキリ祭」。街中に積もるほど大量の紙吹雪が撒きちらされた。紙吹雪に足が滑るのに注意しながら、サンセルナン大聖堂を訪ね、ホテル前のブラッスリーでピザとサンテミリオンの赤ワインを満喫した後、煉瓦色の街を横切って「ジャコバン修道院」を訪れた。

19934 ガロンヌ河2

(トゥールーズ、ガロンヌ河夕景 2)

 

 修道院の始まりは、1275年から1292年にかけて。八角系の鐘楼の建築は、1298年。うぉ、鎌倉時代後半の話じゃないか。「ヤシの木」と呼ばれる天井の構造が目を引く。1本の柱から22本ずつ枝分かれして、マコトに見事に天井を支えている。今日の写真4枚目&5枚目を見てくれたまえ。

 

 ジャコバン修道院の向こうには、ガロンヌ河が流れている。3日前に雪解け水の濁流に感激したのは、アルビの町の「タルン川」であるが、ピレネー山脈に源を発し、途中タルン川やロット川の水をあわせてボルドーに至る。

 

 ボルドーにしばらく滞在した2年前の4月、連日トラムの窓から眺めていたのがガロンヌ河の河口風景であるが、トゥールーズはその中流域にあたる。夕暮れ、川岸には多くの人々が集まり、フランスパンにチーズにハム、赤ワインに白ワインのボトルをバスケットに入れて、ピクニックを楽しんでいる。

19935 病院

(トゥールーズ、オテル・デュー)

 

 しかしワタクシは、ランチのピザとワインでまだ満腹であったから、付和雷同はヨシにして、そのまま対岸の「オテル・デュー」まで散策を続けた。

 

 考えてみれば、トゥールーズでもルルドでも、アルビでもパリでも、ディジョンやサンマロでも、ひたすら歩き続けた旅だった。計算してみると18日の旅でラーメン2回、カレーうどん5回、ピザ3枚、ホテトチップス4袋。炭水化物てんこもりの旅だったが、帰ってみると体重は1kg減っている。

 

 これも1日平均3時間、徹底して歩き続けたおかげのようだ。下手に炭水化物カットだの糖質制限だの言っていないで、諸君、歩いて歩いて&歩き回りたまえ。そのためにズンボが擦り切れ、靴のカカトが擦りへったって、もしもより健康体になれる旅なら、そんなのどうだっていいじゃないか。

 

1E(Rc) Collegium Aureum:MOZART/EINE KLEINE NACHTMUSIK & SYMPHONY No.40

2E(Rc) Rubinstein:THE CHOPIN I LOVE

3E(Rc) Solti & Chicago:DEBUSSY/LA MER・PRÉLUDE A L’APRE MIDI D’UN FAUNE & RAVEL/BOLERO

4E(Rc) チューリッヒ・リチェルカーレ:中世・ルネサンスの舞曲集

5E(Rc) Bernstein & New York:/SHOSTAKOVITCH SYMPHONY No.5

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