Thu 180329  一話完結の小旅行/モーリアック/すみれ色の涙(フランスすみずみ 7) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba
2018年04月21日(土)

Thu 180329  一話完結の小旅行/モーリアック/すみれ色の涙(フランスすみずみ 7)

テーマ:ブログ

 外国の小さな町を「すみずみ」「もっとすみずみ」「徹底的にすみずみ」まで旅するには、今井君が15年続けている旅の形式が一番いいように思う。地方中核都市に10日とか15日とか、ある程度の長期間にわたって滞在し、そこから放射状に「すみずみ」な小旅行を繰り返すのである。

 

 例えば諸君、ボローニャに2週間ほど滞在する。するとそこからパルマ・クレモナ・マントヴァ・ラヴェンナ・ビアチェンツァ・フェラーラその他、イタリア中世からルネサンスに至る歴史物語の中で、それこそ「キラボシ」みたいにチカチカ輝く小都市にナンボでも旅ができる。

 

 ミラノに2週間なんてのもいい。トリノ・ジェノバ・コモ・ストレーザ・ベルガモ・ブレーシャ。普通の旅ならおそらくパスするような町に1日ずつ小旅行を繰り返せるし、場合によっては国境を超えてジュネーブとかローザンヌまで足を伸ばしてもいい。

19870 庭園

(アルビ大聖堂。庭園も広大である)

 

 そういう旅を15年、1年に3回か4回ずつ繰り返して今日に至る。数えてみれば、そのカテゴリーでの海外滞在は約1000日。「それって、どこですか?」と尋ねかえされるような町にも、数えきれないほど旅してきた。

 

 ボルドーに2週間滞在したのは、ホンの2年前のことである。バイヨンヌ・カルカソンヌ・ナルボンヌ・サルラ・アルカション・ビアリッツ。そういうビスケー湾沿いの「すみずみ」を旅した後で、例えばモーリアックの小説を読むとする。

 

 すると、出てくるは&出てくるは。たったいま旅したばかりの町の名前がホントに次々と登場する。もちろん小説というのは仮の世界であって、実際の地名と一致したとしても、それはあくまで虚構にすぎない。実際の地名と虚構の世界を重ね合わせて読むのは邪道だとしても、それでもやっぱり嬉しくてたまらない。

19871 アルビ1

(アルビ大聖堂の庭園からタルン川の濁流を望む)

 

 モーリアックは、フランスの小説家。70年も前にノーベル文学賞を受けた。京都大学でフランス文学を研究していた高橋たか子は、モーリアックの翻訳で有名。後に彼女自身も作家になるのであるが、あくまで本職は研究と翻訳。彼女の訳した「テレーズ・デスケールー」は、今もなお一読に値する。

 

「テレーズ・デスケールー」の舞台は、ボルドーとバイヨンヌとトゥールーズ、フランスの3つの中都会に囲まれた「ランドの森」である。一帯は広大な砂地であって、豪雨が降っても一晩で乾いてしまう。

 

 そういう土地に平気で根を下ろすのが松の木であって、短い方の3角定規をフランス西海岸にあてがったような形の「ランドの森」は、行けども行けども松の木の森が続く。

19872 アルビ2

(夕暮れ近くなっても、タルン川の濁流はおさまらなかった 1)

 

 小説では、この鬱蒼とした松の森の奥の邸宅で、妻による夫の毒殺未遂事件が起こる。冒頭、夫の側からの起訴取り下げを受け、「美しくはないが誰でも見とれずにはいられない異様な魅力をたたえた」若妻テレーズが、拘置所の出口で父に迎えられる。

 

 夕暮れから深夜にかけて、テレーズは夫の家に帰っていくのである。海からの潮風が吹き荒れる鬱蒼とした松の森を、夜汽車から馬車に乗り換えて、約6時間。カミュの小説では「太陽がまぶしかったから」ということになるが、テレーズは「松の森の空気が重たすぎたから」なのである。

19873 アルビ3

(夕暮れ近くなっても、タルン川の濁流はおさまらなかった 2)

 

 まあ諸君、それ以上はネタバレになるから、実際に手に入れて読んでみてくれたまえ。今井君なんかはケーハクの権化みたいなヤツであるから、「あ、アルカションだ。ここ行ったぜ」「お、ビアリッツだ。ここも行った」と叫び続けた。

 

 小説の終わり近く、疲れ果てた夫とテレーズはパリ・オペラ座を間近にした高級ホテルのカフェ「カフェ・ド・ラペ」で、最後の十数分を過ごす。いやはや、たいへんなシーンであるが、やっぱりワタクシは「おお、ここで生牡蠣を30個も貪った経験がある」と快哉を叫んだ。

 

 でも、そんなんでいいじゃないか。たった80年か90年の人生を、何もそんなに気難しく生きなくていいのだ。小説を読みながら、「おお、ここ行ったぜ」「ゲロ、ここにも行ったことがある」、そう叫びながら本一冊を一気に読み上げる。それで十分に素晴らしい人生じゃないか。

19874 アルビ4

(夕暮れ近くなっても、タルン川の濁流はおさまらなかった 3)

 

 この種の旅のやり方には、「一話完結」という楽しみもある。朝8時、張り切ってホテルを出る。鼻歌を歌いながら駅で列車を待つ。ガラガラの列車内で歯の折れそうなほど硬いサンドイッチをワシワシやりながら2時間、午前10時には目的地に着く。

 

 今回のアルビの旅は、まさにそういう小旅行のスタンダードだった。そこから午後4時まで小さな町をほっつき歩き、予想もしなかった雪解けの濁流に見とれ、濁流のそばで起こった中世100年の惨劇に思いを馳せ、教会の身の毛もよだつ宗教画を眺めてしょんぼり、でもネコに誘われて入った小さなレストランで癒される。

 

 レストランを出たところで午後2時過ぎ。小さな教会に入ったり、大聖堂の広大な庭園を世話している10人余りの庭師の仕事ぶりを眺めたり、再び濁流を眺めに行って歓声をあげたりすれば、午後の日は急速に傾いていく。

19875 キャンディ

(さすがフランス、キャンディの並べ方もカワイイじゃないか)

 

 旧市街から駅前に戻って、花壇のスミレの花に見とれるのもいい。何しろトゥールーズとその周辺はスミレとパステルの本場である。濃い色のスミレから、ほとんど水色と言っていいスミレまで、濃淡もさまざまである。

 

 小学生のころ植物採集に夢中だったワタクシは、「これはツボスミレ」「これはタチツボスミレ」と呟きつつ、年甲斐もなくスミレの花の写真を十数枚も撮っていたりする。

 

 すると諸君、当然のように口をついて出てくるのが、名曲「すみれ色の涙」である。1981年、岩崎宏美というオカタがカバーしてヒットさせたが、もともとは1968年、「ブルーコメッツ」という名の男子5名がレコードのB面として発表した曲である。

19876 花壇

(さすがフランスだ、花壇のスミレもカワイイじゃないか)

 

 万里村ゆき子作詞、小田啓義作曲。「すみれって すみれって ブルーな恋人どうしが キスしてキスして 生まれた花だと思うの」。うぉ、こりゃたいへんだ。今井君はコムラガエシを起こしそうになり、続いて出てくる歌詞を喉の奥にギュッと抑え込むのであった。

 

 しかし諸君、いったん口をついて出てきた歌を、口の中に押し戻すのは困難を極める。「淋しかったから あなたを愛して」「淋しかったから あなたを憎んだ」「淋しかったから あなたにサヨナラを」。うにゃにゃ、なかなか激しく行くじゃないか。

 

「さびしい」に「寂」ではなく「淋」の字をつかうのも、おそらく当時の流行である。そしてついに、お歌は最高潮に達する。「そして ひとつぶ すみれ色の涙」。うにゃにゃ、アルビの町の真ん中で、スミレの写真なんか撮っていたら、そういう世界の人と間違われそうである。

 

 別に間違われても悪くはないが、諸君、ここは恐ろしい「ランドの森」の間近である。気の遠くなるほど長くつないだ貨車に、たったいま伐採されたばかりの松材を大量に積んで、陰鬱な貨物列車が不承不承に走りすぎていく。やっぱりワタクシは、モーリアックの世界の方がいい。

19877 線路

(一話完結、アルビの町ともしばらくのお別れだ)

 

 こうして諸君、小都会への一話完結の旅は、今日もまた夕暮れとともに終わりを告げるのである。16時すぎ、ALBI VILLEの駅を出た4両編成のローカル列車は、トゥールーズまで約1時間、ひたすら緩やかな山道を下り続ける。

 

 沿線は、ちょうど桜が満開だ。とは言っても、日本のように桜の木をギュッと密生させて花見の名所を作り、ヒトビトがその下に集まって飲めや歌えの大宴会を催したりすることはない。桜はあくまで1本単独、他の木々に混じってひっそりと花を咲かせている。

 

 17時すぎ、トゥールーズに到着。地下鉄で2駅のキャピトル広場に戻ってきた。「今日の一話完結もマコトにたのしゅーございました」であって、翌日早朝からのルルド訪問に向け、もう今井君の頭はギュッと方向転換しているのであった。

 

1E(Cd) Kubelik & Berliner:DVOŘÁK/THE 9 SYMPHONIES 4/6

2E(Cd) Kubelik & Berliner:DVOŘÁK/THE 9 SYMPHONIES 5/6

3E(Cd) Kubelik & Berliner:DVOŘÁK/THE 9 SYMPHONIES 6/6

4E(Cd) Avner Arad:THE PIANO WORKS OF LEOŠ JANÁĈEK

5E(Cd) Akiko Suwanai:INTERMEZZO

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