Fri 151009 わびしい秋のわびしい話 ナマ牡蠣屋のナマステーキ(また夏マルセイユ31) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 151009 わびしい秋のわびしい話 ナマ牡蠣屋のナマステーキ(また夏マルセイユ31)

 チェーホフの小説の中に、「わびしい話」というマコトにわびしいタイトルの中編があって、「そうか、きっとわびしい話なんだな」と思いながら読み進めると、ホントに心の底までわびしくなって、ふと涙しながら秋の空を見上げることになる。

 諸君も、「自分は今あんまり元気すぎるな」「これは少し自重しないといかんな」と感じ、「元気すぎると、他者を傷つけかねないぞ」と危惧したら、ぜひ一度チェーホフを手に取りたまえ。

 チェーホフなら、何でもかまわない。日本の本屋さんで「わびしい話」を手に入れるのは困難をきわめるから、ならば「かもめ」「ワーニャおじさん」「三人姉妹」「桜の園」、彼の4大戯曲のどれでも大丈夫。わびしさを味わうには十分だ。

 何しろ今井君は、すでにオヒゲがゴマ塩状態に変わりつつある中年グマだ。中年になったら、あんまり元気なのはみっともない。少しはわびしさぐらい演出しなきゃ、なんとなくカッコ悪いじゃないか。

「食欲は控えめに」「ケーキも少なめに」「公開授業もおとなしめに」と自重に自重を重ねているし、「クマにケーキを与えないでください」とブログで懇願までしてみている。

 ところが諸君、いくら抑えても、暴発を防ぐことは困難である。目の前においしそうなケーキが2つ出てくれば、1コを3口で、2コを6口で、ゴクリと飲み込んでしまう。

 2日前の藤沢では、流れ出るヨダレを抑えつつ、
「せっかく準備していただいたのに、ホントにスミマセン。1コだけにしておきます」
「もう1コのほうは、若い皆さんで食べてください」
と平謝りに謝って、フルーツ&ババロアのほうを選択。生クリームのたっぷりかかったもう1コは下げていただいた。
荒れる海
(9月5日、初秋のマルセイユでは、そろそろ海が荒れはじめた)

 そういう無理をやったせいかねえ。まず直後の公開授業は「クマ大爆発」。止めどない大爆笑の連続になり、思わず「誰か、止めてくれ!!」と叫んだものだった。

 しかも諸君、それだけでは終わらない。藤沢の翌日、世間がハロウィーンの慣れないわびしい仮装で盛り上がっている中、クマ助は下北沢に「とんかつ」を貪りに出かけた。

 この暴発行動はいったい何事だ? これは間違いなく諸君、反動である。ケーキの反動であるとともに、「首都圏の公開授業後は祝勝会なし」の反動でもあって、東海道線に1時間も揺られてわびしく帰った前夜の反動が、一気にとんかつに向かったわけだ。

 秋のクマの侵入があったのは、下北沢「かつ良」。昔よく通った店だが、何故かこの15年、ピタッと足が途絶えていた。何のハズミでいきなり「かつ良」を思い出したのかといえば、やっぱりこれは反動であるに違いない。

 注文したのは、まず「若鶏の唐揚げ」。大きな唐揚げを5個も6個もワシワシやりながら、まず生ビールをグイッとやり、ついでに日本酒300mlを痛飲する。うぇ、こりゃイカン。旨すぎる。

 そこで諸君、ここでいよいよ本番であって、「特ヒレかつ定食」を追加注文。デカいヒレカツに、タップリのキャベツ。丼メシに夢のようにデカい赤出汁。19歳のラグビー部員が狂喜乱舞しそうな世界だが、晩秋・冬眠間近なクマにもまたこれは絶好の晩メシである。

 これをカンタンにワシワシ飲み込んだ後は、「せっかくだから」「どうせなら」「中途半端はよくないよ」「ガマンの反動がくるといけないから」など、マコトにいい加減な言い訳を並べた上で「特ヒレ、単品で」「日本酒ももう1本」という行動が続く。
ランチ
(レストランも、外のオープンテラスを閉鎖。みんな暖かいオウチの中でおとなしくランチを楽しんだ)

 以上を、約30分でポンポンに収めるわけだから、事情を知らない人が目撃すれば「大丈夫かい?」であるが、Mac君が「大丈夫会」と変換してくれた通り、今井君は「大丈夫会理事」みたいな存在。デロデロなアブラ肉でない限り、ヒレカツ2枚ぐらい朝飯前だ。

 早食い名人であることについても、ヒトコト申し上げておかねばならない。サンマ1匹 ☞ 1分。生牡蠣30個 ☞ 10分。好きなものならナンボでもチュルチュル飲み込んでしまうので、それはとんかつでも変わらない。

 とんかつ屋で6000円も7000円も浪費して、すっかりポンポンはパンパンだ。こうして秋のわびしさを振り払っておいたのにはわけがあって、翌11月1日には、今年のわびしさの絶頂、大学ラグビー「早稲田 vs 帝京」戦が控えていた。

 予想していたこととは言え、早稲田を心から愛する今井君にとって、92-15というスコアもさることながら、「失トライ14」というボコボコぶりには、思わず暴飲暴食でもしたくなるじゃないか。

 80分で14失トライ。割り算が出来る人なら、約6分に1トライとられていることが分かるはず。そんなのもう「vs」の名に値しないのであって、大学生チームと高校生チームの対戦だって、こんなにヒドいことにはなかなかなりはしない。
生牡蠣
(生牡蠣30個。これを10分で平らげる)

 これでも去年や一昨年までは、10点差以内の好ゲームを展開していたのだし、豊田将万がキャプテンの年までは、早稲田がずっと勝っていたのだ。監督&コーチ陣の責任を問わずにはいられないじゃないか。

 帝京の選手たちが楽しそうにトライを重ね、早稲田側が監督&コーチまで含めてすっかり泣き顔になっているのを眺めながら、昨日のとんかつが煮えたぎる思い。監督の顔色は、「青い」を通り越してムラサキに近かったが、諸君、こんな泣き顔からはプラス要素は一切生まれない。

 仕方がないから話を明るいほうに向けることにして、「早慶戦勝利、おめでとう」である。野球部のほうは、東京六大学リーグ連続優勝を決めてくれた。神宮から早稲田まで優勝パレードをして、学生たちは新宿で飲み会。一日遅れのハロウィーンを満喫したことと思う。

 さてチェーホフであるが、「わびしくてもわびしくても、生きていくより仕方がない」「生きていけないぐらいわびしくても、やっぱり生きていきましょう」という展開が、彼の真骨頂である。

 ボコボコにされちゃったラグビーもここから立ち直って、2年後 or 3年後の勝利に向け、「長い道のりですが、がんばっていきましょう」である。立ち直ろうじゃないか。
ロゼワイン
(マルセイユでは、やっぱりカシスのロゼワインだ)

 ついでに「この記事のどこが旅行記なんだ?」であるが、まあ諸君、許してくれたまえ。今日はもともと、わびしい初秋のマルセイユで、わびしく生牡蠣30個を貪った記録を書こうと思ったのだ。

 9月5日、地中海のリゾートを満喫した人々はどんどん都会に戻っていく。9月2日ごろ、雲1つなかった青空に、薄い雲の膜がかかりはじめ、ブルーブラックの海も灰色に濁るようになった。朝晩は長袖でも寒いぐらい。海で泳ぐ人の数も急速に減っていく。

 パニエ地区の先、ジョリエットの牡蠣料理屋「LE ROY RENÉ」での牡蠣三昧はこの日が2回目だったが、強風のため、外のオープンテラスは閉鎖。ランチのお客はみんな暖かいお部屋の中で、おとなしく牡蠣を食べている。窓の向こうの海には盛んに白波が立って、「もうすっかり秋」の気分である。

 地中海は、荒れやすい。つい半年前の4月上旬、ナポリ沖のプローチダ島に出かけたクマ助は、命の危険さえ感じるほどの高波の中、ほうほうのていでナポリに戻った。窓の外の荒れようは、あの時に勝るとも劣らない。

 それでも諸君、やっぱりクマ助は暴発を続ける。牡蠣30個 ☞ 10分はいつも通りとしても、それだけでは終わらない。牡蠣はあくまで前菜であって、その後にキチンとステーキも食べなきゃ、チャンと元気が出ないのである。
ステーキ
(マルセイユ、ナマのまんまなステーキ)

 ただし、メインとして注文したステーキ君はわびしいかぎりのシロモノであって、やっぱり牡蠣屋では牡蠣、ステーキはステーキ屋で貪るほうがいい。実はつい3日前、この店のステーキを隣りのテーブルのダンナが半分以上も食べ残していたのだが、実際に食してみると「ムベなるかな」なのであった。

 まあ諸君、写真でその断面図を眺めてみてくんろ。これでもクマ助は「ミディアムで」お願いしたのである。ミディアムだろうとレアだろうと、要するにメンドーだからレア。中が冷たいほどのレアが運ばれてきて、これじゃマグロのタタキみたいなもんだ。

 ウルサイ人なら「焼き直してくんろ」と言うところであるが、諸君、まあそんなにカドを立てなくてもいいじゃないか。外はわびしい秋の海。わびしい秋の風にわびしい砂ボコリが舞い散っている。リゾートの季節が終わっていくわびしいお店の中で、徹底的にわびしいナマ肉をわびしく咀嚼する。

 わびしさも、徹底すればまた楽しいものである。92-15、失トライ14のわびしさも、3年後のリベンジを誓えばまた素晴しいじゃないか。そんなふうにさまざまな思いが交錯し、その結果が今日の記事だ。

「全く旅行記になってない」とか、怒り心頭には発するのはヤメたまえ。わびしさに徹したこういう記事も、噛みしめればまた味があって、アタリメやサキイカみたいなものだ。諸君、よーくかみしめ、よーく味わってくれたまえ。

1E(Cd) Bruns & Ishay:FAURÉ/L’ŒUVRE POUR VIOLONCELLE
2E(Cd) Collard:FAURÉ/NOCTURNES, THEME ET VARIATIONS, etc. 1/2
3E(Cd) Collard:FAURÉ/NOCTURNES, THEME ET VARIATIONS, etc. 2/2
4E(Cd) Cluytens & Société des Concerts du Conservatoire:BERLIOZ/SYMPHONIE FANTASTIQUE
5E(Cd) Lenius:DIE WALCKER - ORGEL IN DER WIENER VOTIVKIRCHE
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