2014年05月18日(日)

Thu 140424 高校生20万人が科目削減に反対 マルセイユ脱出(ヨーロッパ40日の旅32)

テーマ:ブログ
 あの日マルセイユを襲った大規模デモの様子を思い出すたびに、今でも「あれは危機一髪だったな」と、一瞬の戦慄が走る。アビニョンからマルセイユまで、半暴徒と化した若者たちが占拠した電車に閉じ込められた1時間は、長いクマ蔵の人生の中でも最もアブナイ状況の1つであった。
 その後、アテネの国会議事堂前での暴動にも立ち会ったし、イスタンブールでは、中心街イスティクラール通りを占拠したデモ隊の間を縫って進んだ。サンパウロでは、ヘリコプターからサーチライトを浴び、警官隊に追われて逃げ惑う群衆の姿をすぐ間近にみた。しかし、あの電車の中の騒乱と狂乱ほど、「こりゃピンチだな」と実感したことはなかった。
サントヴィクトワール
(パリ行きTGVガマルセイユを発車してすぐ、車窓にサント・ヴィクトワール山を発見。セザンヌどんがいくらでも繰り返して描いた、お気に入りのお山である)

 しかも、半暴動の主体になっていたのが高校生たちだったのだというから、恐れ入る。当時、日本では朝日新聞と赤旗が、フランスで起こった高校生主体の大規模デモについて報道したようだ。
 2005年3月10日付けの「しんぶん赤旗」は、「フランス高校生、全土でデモ 不平等を広げる教育改革の撤回迫る」の見出しで、あの混乱の詳細を伝えている。記事によると、参加者はフランス全土で20万人。今井君が命の危険を感じたのも当然の数である。
 背景にあったのは、フランス・フィヨン国民教育大臣が推進していたバカロレア改革。日本で言えばセンター試験改革と同じことであるが、政府案としては
「現在の入学試験制度では、受験生の負担が大きすぎる。負担軽減のため、バカロレアの科目を12科目から6科目に削減しよう」
「紙切れ1枚のブッツケ本番じゃ可哀そう。平常点や実習成績に基づいた総合評価を合否判定基準に加え、人間を評価する方法に変えていこう」
というのが趣旨。おお、「バカロレア」を「センター試験」と言い換えれば、2014年の段階で日本の文部科学省が考えていることと、ピッタリ重なるぐらいソックリだ。
 高校生たちは、最初のうちこの制度改革に賛成していた。フランスのメディアも改革にはおおむね賛成。確かに、
「テストの点数だけじゃ人間は測れない」
「紙切れ1枚で受験生の人間を判断するなんて間違いだ」
「もっと総合的な判断が必要」
と並べてみると、日本のメディアの論調とほぼ一致する。というか、涙目で飛びついてきそうだ。
田園風景
(マルセイユからパリまで、車窓はほとんど同じような農業地帯の風景である)

 ところが諸君、やがてフランス全土の高校生から、この改革に「待った」をかける声が噴出する。2月初旬、猛反対する高校生を中心に最初の大規模デモが組織され、この時のデモ参加者は10万人に膨らんだ。
「点数という客観的基準以外のものを導入すると、『進学校か落ちこぼれ校か』といった歪んだフィルターをかけられかねない」
「いわゆる『総合評価』では、問題校や移民・貧困層が多い高校でいくら良い平常点を取っても、富裕層の多い高校や進学校より低く見なされ、就職などで不利に扱われる」
というのが反対の理由である。
 2005年2月12日の朝日新聞は、ちょっとした驚きのニュアンスをこめて、この10万人デモについて伝えている。まさか高校生たちが、自分たちの負担を減らしてくれる試験科目削減に反対するとは、メディアの想像の及ぶところではないのかもしれない。
 しかしフランスの高校生は
「この改革は教育を損なう」
「自由主義の学校=不平等な学校」
「教育を企業に売り渡すな」
などのプラカードや横断幕を掲げて、3月8日、再び大規模デモに突入した。これに教職員組合のや公務員団体のストライキが重なって、参加者20万。クマ蔵が命の危機さえ感じたマルセイユの事態に発展した。
 これを受けてフランス政府は、教育改革案の事実上の先送りを余儀なくされた。労働組合なら交渉もしやすいが、相手が高校生というのでは、誰を相手にどんな交渉に臨めばいいか分からない、ひとまず先送りを決めて事態収拾を図ろうというわけだ。
夕陽
(とうとうパリのホテルに到着。素晴らしい夕陽を堪能した)

 事の正否はどうあれ、フランスの高校生たちの行動力は大したもんじゃないか。「負担が多くて可哀そう」なんてのは、オトナの側の勝手な判断であって「高校生の意見もキチンと聞いて反映させてほしい」という意思表示があれほど強烈なら、この国はまだ当分は大丈夫そうである。
 日本はどうか。「センター試験の負担が大きすぎるから、もっと人間を見ることにしようじゃないか」「科目ごとの試験は古くさい。科目横断型で問題解決能力を見ようじゃないか」。オトナたちの議論はどこまでも勝手に進み、肝腎の高校生自身の意見はほとんど聞かれない。
 「君たちは可哀そうなんだ。もっと楽をさせてやろう」という発想にマスメディアが諸手をあげて賛成し、制度改革は一方的に進んでいく。どうなんでしょうかね、「科目横断型の問題解決能力」ってのは。選ぶ側の主観的判断をほぼ無限に許容する方向性は。高校生の意見を、もっとキチンと聞くべきなんじゃないんだろうか。
 デモに参加したフランスの高校生たちは、こんなふうに答えたそうだ。
「もちろん制度改革はもっとずっと将来のこと。でも、弟たちや妹たち、10年後20年後の後輩たちが、不公平なバカロレアに苦しめられることになるなら、いま高校生である我々がキチンと意見を示さなければいけないと思います」
 うーん、太鼓を打ち、笛を吹き鳴らし、狂騒状態を煽った一部の参加者の行動については、クマ蔵は決して賛成できない。しかしこうしたキチンとした意見表明なら、オトナとしてもチャンと耳を貸す必要があるんじゃないか。
 ついでに、今井君は現行のセンター試験スタイルがキライではない。これを廃止していきなり「受験生の人間を評価する」なんてのは、評価する側のオトナがもっともっと成熟してから言うべきことであって、カンタンに言えば「100年早いぜ」「500年早いぐね?」な感がある。
ダイヤモンドフラッシュ
(ホテル近くからのエッフェル塔。足許の明かりの列は、メトロ6号線である)

 翌々日の3月10日には、労働者団体が「週35時間労働法の擁護」を求めてゼネストや大規模デモを実施。こういう騒ぎが連日続く中、今井君はマルセイユを出発して、今回の旅の最終目的地パリに向かうことになった。
 しかし朝のマルセイユ駅は予想通りの大混乱。騒然とした駅構内の雰囲気を見て、「こりゃダメだ」「こりゃ無理だ」とすぐに分かるほどだった。案の定、電光掲示板を振り仰ぐと、パリ行きのTGVにはすべて「運休」の文字が。予想したことだったから茫然とはしなかったが、途方に暮れることは変わりなかった。
 この場合、考えられるのはヒコーキである。TGVがみんな止まっているんじゃ、ヒコーキは全便満席の可能性が高いが、騒然とした駅で途方に暮れている暇があったら、一応ヒコーキにチャレンジしてみたほうがいい。
 ところが、タクシー乗り場に行ってみると、タクシーは1台もいない。マルセイユ入りしたあの日、1人の運転手をみんなでからかっていた感じの悪い運転手さんたちは、今日は自主的ストライキに入ったのかもしれない。または、多くの人が今井君を同じ判断をして、「TGVが止まった☞即タクシーで空港へ!!」と方針を決めた可能性もある。
エッフェル塔
(エフェッル近景。ま、無事にパリに到着できた)

 おやおや、これじゃどうすることも出来ない。この混乱のマルセイユにもう1泊してストライキの終結を待つか。動いているローカル列車を乗り継いで、15時間以上かけてパリまで移動する覚悟を固めるか。残された選択肢はそのぐらいである。いや、「パリまでの長距離バス」という手も残っているが…
 こういう切羽詰まった状況の中、幸運の女神はまだ今井君を見捨ててはいなかった。パリ行きTGVがたった1本だけ動くというのである。朝10時発、これが最終便で、今日はもう1本も動かない。そういう前提で「とにかくパリに行く人はみんな乗ってくれ」という、何だかノアの箱船みたいなTGVだ。フランスのヒトビトもホントにギリギリの表情を浮かべて、大急ぎでノアの箱船に乗り込んだ。
 こうして、今井君は見事に危機一髪を脱出し、無事にパリにたどり着いたのである。幸運の女神にはその後もずっと感謝をささげ、もしまたマルセイユに行くことがあったら、懐かしいあの駅にきっと立ち寄って、何かキチンとお供え物でもしなければならないと思っている。

1E(Cd) Tomomi Nishimoto:TCHAIKOVSKY/THE NUTCRACKER(1)
2E(Cd) Tomomi Nishimoto:TCHAIKOVSKY/THE NUTCRACKER(2)
3E(Cd) Pešek & Czech:SCRIABIN/LE POÈME DE L’EXTASE + PIANO CONCERTO
4E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
5E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
total m117 y583 d13513
最近の画像つき記事
 もっと見る >>

Ameba芸能人・有名人ブログ

芸能ブログニュース

    ブログをはじめる

    たくさんの芸能人・有名人が
    書いているAmebaブログを
    無料で簡単にはじめることができます。

    公式トップブロガーへ応募

    多くの方にご紹介したいブログを
    執筆する方を「公式トップブロガー」
    として認定しております。

    芸能人・有名人ブログを開設

    Amebaブログでは、芸能人・有名人ブログを
    ご希望される著名人の方/事務所様を
    随時募集しております。

    Ameba芸能人・有名人ブログ 健全運営のための取り組み
    芸能ブログニュース