Wed 120801 エディルネのこと オトガル またカドキョイ(イスタンブール紀行23)
5月27日、イスタンブール滞在もいよいよ終盤戦になった。今日を入れても残り3日しかない。「10日もいったい何をしてたんだ?」という自責の念は強いが、その分ますます残り3日を満喫しなければならない。
まず、どこまでも意地汚く、「まだ行ってないのは?」とガイドブックから何からゴシゴシ洗い出しをする。ところが、さすがのイスタンブールも滞在10日を超えると、横綱大関クラスはおろか、関脇も小結もほとんど残っていない。
(マルマラ海 1)
今回の旅は、リスボンやマドリードやバルセロナの時と趣向を変えて、「近郊への小旅行」を控えてきた。滞在地から片道3~4時間の小旅行を繰り返すのが今井君のスタイル。ベルリンなら、ドレスデンやライプチヒへ。パリなら、ルーアンやアミアンやランスへ。そういう小旅行である。
ところが、今回はちょっとコワかったせいもあって、イスタンブールからちっとも動いていない。今あえて考えれば、エディルネへの小旅行が考えられる。イスタンブールからバスで2時間程度。朝早く出て、世界遺産のエディルネを3時間ぐらい歩き回って帰ってくる。なかなか楽しそうである。
(マルマラ海 2)
「エディルネ」と書いても、その長い歴史はハッキリ分からないが、この街のもともとの名称は「ハドリアーノポリス」だ。ハドリアーノポリス→アドリアノープル→アドリアノーポリ→エディルネ。オスマントルコによる征服後、アドリアノーポリヘ、さらにトルコ語化が進んで「エディルネ」になったのは、近代以降のことである。
イスタンブールに旅立つ前日、今井君は渋谷パルコ劇場で「ハンドダウンキッチン」を観た。そのあと時間つぶしのつもりで映画館にはいり、「テルマエ・ロマエ」で爆笑。ローマ帝国屈指の賢帝ハドリアヌスも、21世紀極東の娯楽映画では、何のタメライもなく「暴君の代表者」にされてしまうのである。
(マルマラ海 3)
もしハドリアヌスがローマ市民に不人気だったとすれば、「皇帝のクセにほとんど首都ローマにいなかった」せいである。広大なローマ帝国で、その地方自治をコツコツ一カ所ずつ巡って確認しようとすれば、のんびり首都に留まってなんかいられない。黒海沿岸の町も、小アジアの町も、ブリタニアやゲルマニアやイスパニアの町も、くまなく訪問しなければならない。
「日々旅にして、旅を住処とす」「笠の緒つけかえて、サンリに灸すうるより」「松島の月まず心にかかりて」の松尾芭蕉どんなら暢気でいいが、ハドリアヌスの旅は、毎日毎日が地方政庁の役人たちとの会見で費やされる。
それでも彼の旅はキチンキチンと成果を出し、ハドリアヌスを記念した道路や橋や町の名前が、地中海世界に無数に残されていく。ハドリアヌスの町→ハドリアーノポリスがその一つであり、長年この地域の首都として君臨することになる。
「H」の文字は地中海世界では発音されないから、やがてHの発音が無視されて、ハドリアーノはアドリアーノに変わる。そこからアドリアノーポリ、やがてアディルネへ、近代になってエディルネに変化する。「ハドリアヌスの海」だからアドリア海、それと同じことである。
(アクサライ→オトガル間の地下鉄)
さて、5月27日の今井君は、ホテル近くのカバタシュからトラムに乗り、カラキョイ→シルケジ→スルタンアフメットと延々と乗車して、ひたすらアクサライを目指した。アクサライまで50分。ここで地下鉄に乗り換えて、20分ほどでエディルネへのバスターミナルに着く。
ただし、アクサライはイスタンブール有数の治安の悪い街。トラムから地下鉄への乗り換えは、そういうオッカナイ街を10分ほど歩かなかればならない。エディルネにたどり着こうとすれば、ホテルからバスターミナルまでだけでも、1時間半もの道のりになる。
(オトガル風景)
たどり着いたのは「オトガル」。ガイドブックの著者が相当な変わり者なので、意地でも「オドガル」で通そうとするが、Auto「=バスの」+Gare「=駅(フランス語)」であって、何もそんなにがんばって「オトガル」を貫こうとしなくとも、擁するにバスターミナルである。
ただし、さすがにトルコのオトガルだけあって、欧米や日本のバスターミナルとは完全に趣を異にしている。どちらかと言えば、「中規模バス会社の支店や営業所の集合体」と言ったほうが正確。ズラリと並んだ営業所の窓口の向こうに、それぞれのバスの停留所がヒッソリ佇んでいる。
(カドキョイ埠頭)
こういうふうで、ここへたどり着くだけでクマ蔵はすっかり疲れ果ててしまった。気がつけば、すでに時計は3時に近い。
そもそも、「明日エディルネに行くなら、今日のうちにチケットを手に入れておいたほうがよさそうだ」と思っただけのことである。ここまでの長旅ですっかり疲労したクマどんは、バスのチケットを手に入れるのも面倒になって、一路イスタンブールの中心街に戻ることに決めた。
(カドキョイの街と、トラム)
おお、面倒だ。ハドリアヌスなんか、もうどうでもいい。それより、ビアだ、ワインだ。イワシだ、イカだ、ヒツジだ。何しろ、昨日カドキョイで「運命の店」に出会ったばかり。新しい遠い町をウロウロするより、運命の店に入り浸ったほうがいい。
演歌や映画の世界の不良中年になぞらえて言えば、「新しい人を求めて街をうろつくより、運命の人のところに入り浸っていたい」ということである。ならば、お船に乗ってカドキョイヘ。疲れ果てたこの日の今井君には、もうそれ以外のことは考えられなかった。
(BALIKCIMから、お隣のお店を眺める)
こうして、脇目もふらず「運命の店」=カドキョイ・BALIKCIMに到着。今日ももまたビアと白ワインとイワシ料理を注文。辛い辛いエズメももちろんだが、今日はイカの料理も注文してみた。イワシ同様イカもやっぱりマズいけれども、マズくても、旨くなくとも、「入り浸る」という本質さえ違わなければ、ちっとも構わない。
(イカ料理も、またまた平凡である)
2時間近くノンビリして、もうワインで店のヒトが慌てることもないのを確認。イカもイワシもエズメもペロリと平らげた。さすがに今日は店の人も嬉しそうで、「サービスだから」とフルーツ盛り合わせが登場。今井君は、いいね。この程度ですっかり有頂天になれるのである。
(帰り道、チップスをいろいろ買ってみた)
夕暮れ、またお船に乗って、美しい夕陽を満喫しながらエミノミュ経由でカバタシュに帰る。ホテル近くのサッカー場では、地元ベシクタシュの出場する試合があるらしい。おお、こりゃ、前に進めないほどの混雑であって、ベシクタシュファンの老若男女が後から後から押し寄せている。
(サッカー場は大混雑だった)
何しろ、ここは人気チーム・ベシクタシュの本拠。頭の毛の薄いオジサンも、スカーフで頭を隠した信心深いお姉さんも、もちろん無邪気なコドモたちも、みんな心からウキウキしながら、ベシクタシュの応援に駆けつけたようである。
この盛り上がりに乗じて、今井君も路上でいろいろ食べ物を購入。サバサンドほど臭くはないが、まあその手のファストフード。ついでにガソリンスタンドで缶ビール。さらについでにチップスにナチョス類も購入した。
(サッカー場近くの店。繁盛していた)
こういうものは、ホントはサッカー場に入ってスタンドで観戦しながらのほうが旨いのだが、余りの混雑ぶりに恐れをなしたクマ蔵は「ホテルの部屋でゆっくり」ということにした。この夜はサッカー場の上空でたくさんの花火が炸裂。夜遅くまで観客が大騒ぎだったようである。
(サッカー場、遠景)
1E(Cd) Festival International de Sofia:PROKOFIEV/IVAN LE TERRIBLE
2E(Cd) Schüchter:ROSSINI/DER BARBIER VON SEVILLA
3E(Cd) Cohen:L’HOMME ARMÉ
4E(Cd) Vellard:DUFAY/MISSA ECCE ANCILLA DOMINI
5E(Cd) Oortmerssen:HISTORICAL ORGAN AT THE WAALSE KERK IN AMSTERDAM
total m5 y1275 d9170
まず、どこまでも意地汚く、「まだ行ってないのは?」とガイドブックから何からゴシゴシ洗い出しをする。ところが、さすがのイスタンブールも滞在10日を超えると、横綱大関クラスはおろか、関脇も小結もほとんど残っていない。
(マルマラ海 1)
今回の旅は、リスボンやマドリードやバルセロナの時と趣向を変えて、「近郊への小旅行」を控えてきた。滞在地から片道3~4時間の小旅行を繰り返すのが今井君のスタイル。ベルリンなら、ドレスデンやライプチヒへ。パリなら、ルーアンやアミアンやランスへ。そういう小旅行である。
ところが、今回はちょっとコワかったせいもあって、イスタンブールからちっとも動いていない。今あえて考えれば、エディルネへの小旅行が考えられる。イスタンブールからバスで2時間程度。朝早く出て、世界遺産のエディルネを3時間ぐらい歩き回って帰ってくる。なかなか楽しそうである。
(マルマラ海 2)
「エディルネ」と書いても、その長い歴史はハッキリ分からないが、この街のもともとの名称は「ハドリアーノポリス」だ。ハドリアーノポリス→アドリアノープル→アドリアノーポリ→エディルネ。オスマントルコによる征服後、アドリアノーポリヘ、さらにトルコ語化が進んで「エディルネ」になったのは、近代以降のことである。
イスタンブールに旅立つ前日、今井君は渋谷パルコ劇場で「ハンドダウンキッチン」を観た。そのあと時間つぶしのつもりで映画館にはいり、「テルマエ・ロマエ」で爆笑。ローマ帝国屈指の賢帝ハドリアヌスも、21世紀極東の娯楽映画では、何のタメライもなく「暴君の代表者」にされてしまうのである。
(マルマラ海 3)
もしハドリアヌスがローマ市民に不人気だったとすれば、「皇帝のクセにほとんど首都ローマにいなかった」せいである。広大なローマ帝国で、その地方自治をコツコツ一カ所ずつ巡って確認しようとすれば、のんびり首都に留まってなんかいられない。黒海沿岸の町も、小アジアの町も、ブリタニアやゲルマニアやイスパニアの町も、くまなく訪問しなければならない。
「日々旅にして、旅を住処とす」「笠の緒つけかえて、サンリに灸すうるより」「松島の月まず心にかかりて」の松尾芭蕉どんなら暢気でいいが、ハドリアヌスの旅は、毎日毎日が地方政庁の役人たちとの会見で費やされる。
それでも彼の旅はキチンキチンと成果を出し、ハドリアヌスを記念した道路や橋や町の名前が、地中海世界に無数に残されていく。ハドリアヌスの町→ハドリアーノポリスがその一つであり、長年この地域の首都として君臨することになる。
「H」の文字は地中海世界では発音されないから、やがてHの発音が無視されて、ハドリアーノはアドリアーノに変わる。そこからアドリアノーポリ、やがてアディルネへ、近代になってエディルネに変化する。「ハドリアヌスの海」だからアドリア海、それと同じことである。
(アクサライ→オトガル間の地下鉄)
さて、5月27日の今井君は、ホテル近くのカバタシュからトラムに乗り、カラキョイ→シルケジ→スルタンアフメットと延々と乗車して、ひたすらアクサライを目指した。アクサライまで50分。ここで地下鉄に乗り換えて、20分ほどでエディルネへのバスターミナルに着く。
ただし、アクサライはイスタンブール有数の治安の悪い街。トラムから地下鉄への乗り換えは、そういうオッカナイ街を10分ほど歩かなかればならない。エディルネにたどり着こうとすれば、ホテルからバスターミナルまでだけでも、1時間半もの道のりになる。
(オトガル風景)
たどり着いたのは「オトガル」。ガイドブックの著者が相当な変わり者なので、意地でも「オドガル」で通そうとするが、Auto「=バスの」+Gare「=駅(フランス語)」であって、何もそんなにがんばって「オトガル」を貫こうとしなくとも、擁するにバスターミナルである。
ただし、さすがにトルコのオトガルだけあって、欧米や日本のバスターミナルとは完全に趣を異にしている。どちらかと言えば、「中規模バス会社の支店や営業所の集合体」と言ったほうが正確。ズラリと並んだ営業所の窓口の向こうに、それぞれのバスの停留所がヒッソリ佇んでいる。
(カドキョイ埠頭)
こういうふうで、ここへたどり着くだけでクマ蔵はすっかり疲れ果ててしまった。気がつけば、すでに時計は3時に近い。
そもそも、「明日エディルネに行くなら、今日のうちにチケットを手に入れておいたほうがよさそうだ」と思っただけのことである。ここまでの長旅ですっかり疲労したクマどんは、バスのチケットを手に入れるのも面倒になって、一路イスタンブールの中心街に戻ることに決めた。
(カドキョイの街と、トラム)
おお、面倒だ。ハドリアヌスなんか、もうどうでもいい。それより、ビアだ、ワインだ。イワシだ、イカだ、ヒツジだ。何しろ、昨日カドキョイで「運命の店」に出会ったばかり。新しい遠い町をウロウロするより、運命の店に入り浸ったほうがいい。
演歌や映画の世界の不良中年になぞらえて言えば、「新しい人を求めて街をうろつくより、運命の人のところに入り浸っていたい」ということである。ならば、お船に乗ってカドキョイヘ。疲れ果てたこの日の今井君には、もうそれ以外のことは考えられなかった。
(BALIKCIMから、お隣のお店を眺める)
こうして、脇目もふらず「運命の店」=カドキョイ・BALIKCIMに到着。今日ももまたビアと白ワインとイワシ料理を注文。辛い辛いエズメももちろんだが、今日はイカの料理も注文してみた。イワシ同様イカもやっぱりマズいけれども、マズくても、旨くなくとも、「入り浸る」という本質さえ違わなければ、ちっとも構わない。
(イカ料理も、またまた平凡である)
2時間近くノンビリして、もうワインで店のヒトが慌てることもないのを確認。イカもイワシもエズメもペロリと平らげた。さすがに今日は店の人も嬉しそうで、「サービスだから」とフルーツ盛り合わせが登場。今井君は、いいね。この程度ですっかり有頂天になれるのである。
(帰り道、チップスをいろいろ買ってみた)
夕暮れ、またお船に乗って、美しい夕陽を満喫しながらエミノミュ経由でカバタシュに帰る。ホテル近くのサッカー場では、地元ベシクタシュの出場する試合があるらしい。おお、こりゃ、前に進めないほどの混雑であって、ベシクタシュファンの老若男女が後から後から押し寄せている。
(サッカー場は大混雑だった)
何しろ、ここは人気チーム・ベシクタシュの本拠。頭の毛の薄いオジサンも、スカーフで頭を隠した信心深いお姉さんも、もちろん無邪気なコドモたちも、みんな心からウキウキしながら、ベシクタシュの応援に駆けつけたようである。
この盛り上がりに乗じて、今井君も路上でいろいろ食べ物を購入。サバサンドほど臭くはないが、まあその手のファストフード。ついでにガソリンスタンドで缶ビール。さらについでにチップスにナチョス類も購入した。
(サッカー場近くの店。繁盛していた)
こういうものは、ホントはサッカー場に入ってスタンドで観戦しながらのほうが旨いのだが、余りの混雑ぶりに恐れをなしたクマ蔵は「ホテルの部屋でゆっくり」ということにした。この夜はサッカー場の上空でたくさんの花火が炸裂。夜遅くまで観客が大騒ぎだったようである。
(サッカー場、遠景)
1E(Cd) Festival International de Sofia:PROKOFIEV/IVAN LE TERRIBLE
2E(Cd) Schüchter:ROSSINI/DER BARBIER VON SEVILLA
3E(Cd) Cohen:L’HOMME ARMÉ
4E(Cd) Vellard:DUFAY/MISSA ECCE ANCILLA DOMINI
5E(Cd) Oortmerssen:HISTORICAL ORGAN AT THE WAALSE KERK IN AMSTERDAM
total m5 y1275 d9170