Fri 120309 カエルがいない 神のお告げは →「います!!」(サンティアゴ巡礼予行記8) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Fri 120309 カエルがいない 神のお告げは →「います!!」(サンティアゴ巡礼予行記8)

 たとえ世界を代表するような名門大学を訪れても、こういう日にはどうしても荒んだ気持ちになるものである(スミマセン、昨日の続きです)。サラマンカ大学でルネサンス期のプラネタリウムを見たあと、有名なファサードを見上げたが、「髑髏の上のカエル」がなかなか見当たらない。
 ファサードの複雑きわまりない浮き彫りの中にいくつかの髑髏があり、髑髏のうちの1つにカエルが1匹乗っかっている。「そのカエルを見つけることが出来れば、学業が成就するか、またはサラマンカ大学に合格できる」という言い伝えがあるという。
ファサード
(サラマンカ大学、ファサード。この中にカエルさんがいます)

 遠足の小学生集団も、雨と強風の中で懸命にカエルさんを探している。今井君はもうオジサマだから、いまさら学業が成就したり大学に合格できたりしなくてもいいが、まあせっかくだから探してみることにした。
 ところが、どうしても見つからないのである。さすがに学業なんかちっとも成就しなかった今井君だ。こんな西の果ての田舎町まで来て、1匹のカエルさんさえ見つけられないんじゃ、そりゃ東大に2回も落ちるさ。そりゃ忍耐力も継続性もないさ。ふん、だ。ふん、だ。いいもん。ふん、だ!!
ファサード拡大図
(ファサード拡大図。この中にカエルさんがいます)

 しかし、そりゃ見つからないのも道理、今井君はカエルとカメをどこかで取り違え、ひたすらカメさんを探し続けていたのである。髑髏の上に乗っかっているのはカエルさん。しかし今井君が探し求めていたのはカメさん。それで万が一カメさんが見つかったとすれば、クマ蔵どんはほとんど天才と言っていい。
 見かねたスペインのジモティおじさんが寄ってきて、「カエルはあそこだ」と教えてくれた。それでもカメは見つからない。オジサマは呆れて今井君の手からカメラを受け取り、カメラにカエルを写して見せてくれた。「ほら、ここにいるじゃないか」というのである。
サラマンカ碑文
(サラマンカ大学の碑文)

 そんなこと言ったって、カメさんはどこにも見当たらないじゃないか。カメラには確かに髑髏に乗っかったカエルが写っているけれども、ボクチンが探しているのはカメさん。カエルなんか見つかったって、学業は成就しないんじゃないの? 今井君は雨と強風の中でいつまでもムクれていたのである。
 どうだい。この物語のあまりにも見事な象徴性に、ふと今井君の天才を感じ、人生の悲喜劇を見ないかね。カエルを探さなければならないとき、カメを求めて必死であがくクマ蔵。努力の方向性が誤っていれば、夢中で努力をすればするほど本来の目標から遠ざかってしまう。
髑髏とカエル
(土産物屋で。カエルはこんなふうに髑髏に乗っている)

 「ははあ、カメじゃなくて、カエルだ」と気づいたのは、その10分後。そこいら中の店にカエルのディスプレイがあり、土産物もどこもかしこもカエルだらけで、「何で、こんなにカエルだらけなの?」と自問し、「なんだ、カエルだったんだ」と自答する。何と見事に人生を象徴するエピソードだったことだろう。こうして今井君は、少し惨めに肩をすくめる気分に落ち込んだ。
カエル1
(土産物屋で。そこいら中にカエルさんがいます 1)

 しかし、クリスマス間近のスペインの田舎町でフテくされて苦笑しているのも考えものである。こういう時にはとにかくメシに限る。温かいスープと、豪快な肉のカタマリと、もちろんワインをボトル1本。不健康な苦笑いなんかは、その3つを大急ぎでお腹に流し込んだだけでカンタンに解消するものである。
カエル2
(土産物屋で。そこいら中にカエルさんがいます 2)

 それにしてもこんな冷たい嵐の日に、こんな田舎の大学町をわざわざ訪れる観光客なんか、いるんだろうか。ガイドブックによれば、サラマンカのマジョール広場は「スペインで最も美しい広場」なのだが、ホントにそう思うヒトがいるんだろうか。
 広場の設計は「チュリゲラ様式を広めたチュリゲラ兄弟の末弟アルベルト」という、何ともメンドクサイ人物。雨の中、実際に広場の真ん中に立ち尽くしてみても、特に「スペインで一番」という感激も感動もない。ごく当たり前の寂れた広場であって、「美しい!!」と絶叫するヒトなんか、ホントにホントにいるんだろうか。
 今井君は自嘲気味にフテくされつつ、そうやって「いるんだろうか?」「いるんだろうか?」と同じ疑問形の反語表現をミルフィーユのように積み重ねていた。衝撃的な神の声が頭上から降ってきたのは、まさにその瞬間のことである。

「います!!」

神は一言のモトに、今井君の疑問形反語表現を打ち消した。「いるんだろうか?」の弱々しい連発に対し、これ以上明瞭で明確な発音はありえないほど、しっかり「います!!」と断言してくれたのだ。
 「います!!」。その断定こそ、凍えかけた日本のクマが心から求めていた神の声なのだ。あたかも「神はいるんだろうか?」という永遠の疑問に「います!!」という断定で答えてくれたようなもの。さすがに1218年創立、世界最古の大学町の1つだけあるじゃないか。。
広場
(サラマンカ、「スペインで一番美しい」はずの平凡な広場)

 しかし諸君、「神は存在するのだ」と感激しながら、思わず振り返った今井君の目には、ケータイを手に大声で喋り続ける、普通のスペインの中年オバサマしか見えない。神なんか、影も形もない。しかも一瞬前の啓示は、ハッキリ日本語で「います!!」と告げてくれたのだ。
 今井君の貧しいスペイン語の知識が、このとき稲妻のように頭脳を駆け巡った。「います!!」とは、どうやらスペイン語の「y mas」なのである。「そして、さらに」「それに付け加えて」は、普通なら「ademas」であるが、「y mas」も十分あり得るのだ。
 ケータイでのオバサマのやりとりの中で「それに、さあ」「言い足しておくけど」「もっと言いたいことがあるんだけど」の一言が、今井君の「いるんだろうか?」に対応して「イマス」。見事に神のお告げに聞こえたわけである。午後の奇跡の顛末は、結局その程度のことで結論が出てしまった。
ハポネサス
(こんな店を発見。「JAPONESAS Ai 2」。店の前にはベトナム風の笠、「マリア」と大書されたTシャツ、「鯛焼き」も緑茶も、決定的に中国南部の香りである)

 そして諸君、午後の奇跡さえこの程度だったいうことは、この日のクマ蔵は徹底的にツキがなかったのである。「スペインで一番美しい」はずの、この平凡きわまりない広場を2周もグルグル歩き回ったあげく、「めぼしい店は見つからない」という結論に至った。
 見つかったのは、カフェが数軒、それもすでに昼食の時間は終了という風情で、従業員たちがエスプレッソを啜りながら、暢気におしゃべりしているような店ばかりである。時刻はまだ2時であって、スペインのヒトの昼食は「まさにこれから」なはずであるが、どうもサラマンカだけは事情が違うらしい。
 こうして、12月16日のクマ蔵はピンチに立たされた。外は雨、冷たい風が吹き荒れて寒さはひとしお。大学のことやスピンアウトのことを何度も思い返して、ますます気分は自嘲的。メシと酒、温かいスープに助けを求めようとしたわけだが、それもダメ。「いるんだろうか?」「イマス!!」の神のお告げも、ニャンともツマラン話になった。
 もう、どこでもいい、温かいメシを食べさせる店を意地でも探すしかないが、その顛末は明日の記事に示すことにしよう。このフシギな中世の町で、もう1つフシギな事件が待っていたのである。

1E(Cd) J.S.BACH/SILVIA(Cantata Opera in 3 Acts)2/2
2E(Cd) Münchinger & Stuttgart Chamber:BACH/MUSICAL OFFERING
3E(Cd) Jochum & Concertgebouw:BACH/JOHANNES-PASSION 1/2
4E(Cd) Jochum & Concertgebouw:BACH/JOHANNES-PASSION 2/2
5E(Cd) Solti & Chicago:BEETHOVEN/SYMPHONIES④
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