Wed 110810 東の果てから西の果ての旅路 なぜリシュボアか(リシュボア紀行第3回) | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Wed 110810 東の果てから西の果ての旅路 なぜリシュボアか(リシュボア紀行第3回)

 リスボンは遠い。何しろユーラシア大陸の西の端だ。日本は同じユーラシア大陸の東の果て、その付属品みたいにくっついているが、ポルトガルは東西を逆にしてほぼ同じ立場である。
 大震災の直後1ヶ月「このままでは日本は東洋のポルトガルになってしまう」「それもまた、何だかヌルくて悪くないじゃないか」と、ポルトガルから見たら何とも失礼な議論があったけれども、あれから半年、その議論さえも忘却の彼方である。
 ポルトガルは、日本人から見て遥かな彼方であるけれども、ヨーロッパの人々にとっても、おそらく同じように遥かな彼方なのである。ロンドン経由でポルトガルに入ろうと考えた今井君は、ロンドン・ヒースロー空港からTAP(ポルトガル航空)に乗り換えて、まだ3時間もかかることに愕然とした。
 あんまり遠いから、ナポレオンは「ピレネー山脈から向こうはアフリカ」と激しい発言をしたけれども、そのナポレオンだって、あんまり遠くて呆れたのはスペインであって、ポルトガルはそのまた西の端っこに、西を向いた男の長い横顔のような形で貼り付いている。
 「リスボン物語」という映画もあるが、これは同じユーロ圏になって近いはずのリスボンに、主人公の男がなかなかたどり着けない物語。物理的にたどり着いた後も、彼は街に入り込めない。やっとのことで入り込んでも、今度はその深部にはどうしても潜り込めない。「たどり着けない焦り」をテーマにした小説や映画は少なくないが、そのテーマにつかわれてしまうぐらい、リスボンは遠いのである。
西の果てと東の果て
(西の果てと東の果て、な感じ)

 リスボンのスペルはLisboaであって、発音はリシュボアである。ブログのサブタイトルを「リシュボア紀行」にしているのはそのためであって、お隣のスペインでも、リスボンはリシュボアと発音する。英語だとそれが訛ってリスボンになってしまうが、これもおそらくリスボンが、物理的にも精神的にも遥か彼方の異国であるせいである。
 リスボンと発音すると、今井君なんかはネコぐらいのおっきなリスがボンッと飛び出してくる語感を感じて、どうしてもイヤなのだ。だって、「リスがボンッ」じゃ、危ないじゃないか。
 ドラマ「SEX and the CITY」の中で、主人公キャリーが「リスなんて、可愛らしく正体をゴマカしたネズミに過ぎない」と発言するが、そんな不気味なモノがボンッだなんて、リスボンのヒトから見たら迷惑千万な話に違いない。だから当分の間、このブログの中では、リスボンをリシュボアと書くことにする。
 ホントはリシュボアなのに、英語帝国主義者がかってにリスボンと言い換えるのは、当事者にとっては迷惑な話である。それは、東京なのにトハキョンとか、京都なのにキョンチョとか、大阪なのにデカハンとか、そういう話だ。
 ニッポンなのにジャパン。これもまた迷惑。マルコ・ポーロのせいにされることがあるが、中国語で日本を発音すればジーペンになるんだから、ここでもまた西の果てリシュボアの運命は、東の果て日本とそっくりなのだ。
東の果て
(東の果てな感じの、なでしこシッポ)

 2010年5月、アイスランドの火山の噴火のせいで、ヨーロッパの航空網は大混乱に陥っていた。風の流れによって火山灰の流れも毎日のように変化し、「今日はローマ便が飛ばない」「昨日はウィーン便とミラノ便が欠航になった」という日々の連続だった。
 しかし、今井君が目指すのはリシュボアだ。アイスランドとリシュボアじゃ、イメージとしては北のバイキングと後ウマイヤ朝のイスラム文化。お互いどうし余りに遠くて、滅多なことでは関係なさそうである。
 ところが諸君、そういう油断が「甘いねえ、キミ」と言われるのだ。ヒースロー空港でたっぷり余裕をかましてビールなんかを楽しみ、やおらリスボン便のゲートを探していた今井君の目に入ったのは「LISBON DELAYED」の掲示である。
 ポルトガル航空のカウンターには長い問い合わせの列ができ、いかにもやる気のなさそうな職員が、やる気のなさそうな顔で、やる気のない対応に追われている。「やる気のない」などというのはそれこそ甘いので、問い合わせにつめかけたポルトガルの人々を、要するに「追い払っている」または「追い散らしている」「蹴散らしている」にすぎない。
そろそろ寝ませんか1
(疲れ果てる)

 火山灰のせいではクマ蔵としてもイカンともしがたいから、腹はいっぱいであったけれでも、イタリア料理屋に入ってロゼワイン1本を注文。注文したのが17時。それをチビチビやって、飲み干してしまったのが18時半。今井君の搭乗予定のリシュボア行きは17時の予定だが、掲示はDELAYEDとなったままビクともしない。
 ロビーには、すっかり疲れ果てたアフリカ系の男性が頭を抱えて座り込んでいた。彼が係員に質問しているのを聞いてみると、「午前9時のリスボン行きがまだ出発予定にならない、どうしたらいいんだ?」なのである。これはタイヘンだ。「今井君の17時便が出発しない」などというのはまだまだ序の口であって、朝9時の便からストップしているのだ。イヤな予感の中で時間が過ぎていった。
 ところが諸君、19時のリシュボア便は予定通りに飛んだのである。9時の便、17時の便、その2つの先輩を後回しにして、19時の飛行機は生意気にも時間通りに出発。後輩のクセに、先輩を押しのけて、何とも生意気で理不尽であるが、9時の便のヒトビトすら我慢に我慢を重ねているのに、17時のクセに文句を言うなんて、クレーマー扱いされるのが関の山だ。
そろそろ寝ませんか2
(そろそろ帰って寝ませんか)

 しかも、文句を言おうにも、カウンターにはもう誰もいない。さっきまで、クレームを言いにくるポルトガル人を「蹴散らす」という勢いで追い払っていた航空会社職員は、どうやら目出度く「定時で退社」ということにしちゃったらしい。
 おお、大いに御目出度い。しかし目出度くないのはこっちなので、時計はいつの間にか22時。ロビーの掲示板に残ったのは、9時のリシュボア行き、17時のリシュボア行き、21時のリシュボア行き、この3便だけになった。カイロ便も、ミラノ便も、モロッコ便やテルアビブ便も、もうみんな出発して、リシュボア行きの3便だけが掲示板に残ったのである。
 ついに23時。ロビーはすっかり閑散とし、空港内の店舗も次々とシャッターを下ろして、「さ、みんな帰りましょ」という雰囲気が濃厚。「どうしたらいいの?」も何もお構いなしで、掲示板には相変わらず3便のリシュボア行きが「DELAYED」のまま。もう入る店もなく、カウンターは無人、間もなくロビーも閉鎖になっちゃいそうだ。
 諸君、長くなりすぎたから、この続きは明日の記事で書くことにする。結論だけ先に書いておけば、今井君がリシュボアに到着するのは、翌日の午後3時すぎ。日本を出てから36時間が経過していた。東の果てから西の果てへの旅は、やはり遥かな遥かな旅路だったのである。

1E(Cd) David Sanborn:LOVE SONGS
2E(Cd) David Sanborn:INSIDE
3E(Cd) Joe Sample & David T. Walker:SWING STREET CAFE
4E(Cd) Larry Carlton:FIGERPRINTS
5E(Cd) Jandó(p) Ligeti & Hungarius:MOZART/Complete Piano Concertos③
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