Mon081006正統と異端の振り子に振り回されるな 大会戦は避けよ 小戦闘に勝利し続ける戦い方 | 今井宏オフィシャルブログ「風吹かば倒るの記」Powered by Ameba

Mon081006正統と異端の振り子に振り回されるな 大会戦は避けよ 小戦闘に勝利し続ける戦い方

 学校の英語の先生というものは、みんな昔は学校英語が得意だった人たちである。実際に英語がネイティブ並みに話せるかどうか、そのことはひとまず置くとして、とにかく「学校英語の達人」が高校生の時に英語の教師になろうと決意し、やがて英語を教えることを職業にする人々が歴史と伝統を積み重ねることで、実用英語とは一味違った学校英語というものが出来上がる。予備校の英語だって、事情はほとんど変わらない。


 5文型優先の学校英語が退屈でつらくて眠いのは、学校英語が得意だった人たちが、苦手な人たちの気持ちを知らずに、学校英語独特の考え方を振り回すからである。苦手な人たちは、その考え方がキライになり、何とかして5文型から逃れる道はないかとあちこちよそ見をし始め、その悩ましい戦いのさなかに、先日書いた「アメリカ人の赤ちゃん」が顔を出す。「アメリカ人の赤ちゃんは英文法を知らないのに英語ができる」「だから赤ちゃんになれ」と言われると、何だか「それもそうだなあ」と考えて、一気に「赤ちゃん志向」が高まったりするのだ。
 

 しかし実際には、赤ちゃんまで退行したのでは、先日書いた通り「話せるまで10年」「読めるまで15年」という現実に気づくから、再び5文型主義の学校英語に戻ってくる。こうして、まるで振り子のように「赤ちゃんvs学校英語」の行きつ戻りつが始まり、あっちに行ったりこっちに来たり、「赤ちゃん派」になったり「学校英語派」になったり、そうやってブランブランやっているうちにどんどん時間が無駄に過ぎていく。

 

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(写真上:ナデシコが寝ているうちに、こっそり食ってしまおうという戦術にでたニャゴ姉さん)

 こういう振り子現象は、1人の受験生の1年間にも起こるが、予備校という小さな世界でもたびたび起こっている現象である。「赤ちゃん派」が優勢になることもあれば「学校英語派」が優勢になることもある。概して「学校英語派」が優勢なのは、受験生にとっては1年が勝負なのであって、短期間に勝負が限定されているからである。「いつになるかはわからないが、多聴多読でいつかは伸びるよ。10年ぐらいかかるかもしれないけど」という赤ちゃん派につくほど勇気のある受験生は少ないだろう。さらに、結局は学校英語の土俵で戦われる試験の中では、優秀者はみんな学校英語派。優秀な人を見習えば、自然に学校英語派が多くなるに決まっている。

 

 こうして、受験の世界では、どうしても「赤ちゃん派」というのは怪しく見えるのであり、夢と希望に溢れていても「いつ」という保証がないのだから、当然「ダマされてはいけない」「ご用心を」といった及び腰の批判の対象になる。赤ちゃんになったあげく、1年という限られた期間に成果を出せずに終わる生徒が増えれば、「甘い言葉にダマされた人は数知れません」などという悪評が定着することになってしまう。勝ち誇った5文型崇拝者たちは、自ら「正統派」と称して、「赤ちゃん派」を異端視し、激しい言葉で排斥したり攻撃したりする。

 

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(写真上:正統は異端を食いつくす。ナデシコを食いつくす貪欲なニャゴ姉さん)


 ところが、異端の「赤ちゃん派」からも、時おり大スターが登場して10年に1度ぐらいは立場が逆転する。赤ちゃん派には、自らアメリカの赤ちゃんのたいへんな苦労を経験した人が多くて、「本当に英語ができる人」が多いのである。発音もネイティヴ並み、会話力も抜群、アメリカでの生活経験も豊富。それに加えて若者を魅了するようなルックスが加われば、突如大スター出現であって、それに引きずられて「正統と異端」の立場は逆転。振り子は大きく赤ちゃん派に振れて、予備校の英語講師は一斉に赤ちゃん派に向かい、発音もルックスも経験も大スターに遠く及ばない者までが、調子に乗って学校英語批判を始めたりする。


 ただ、大スターの亜流の中から怪しい人物が続出するのも世の常である。実際の英語能力は真似できなくても、ファッションだけは真似られるから、ジャニーズ並のファッションで予備校に現れ、女子生徒の熱い視線を浴びながら、乱暴な発言を繰り返す類いが続出し、それが元で「赤ちゃん派」の勢いは失墜。再び振り子は学校英語崇拝派に大きく振れる。


 一方、正統派を自称する人々には、「日本人的な発音」「実際に英語で会話している姿は見たこともなければ想像もしにくい」「欧米での生活経験もなし」という地味な人々が多くて、まあ生徒の目から見ればカッコわるいことが多い。ある程度のコンプレックスをかかえていたりして、それが大きいほど異端者への攻撃も激しくなる傾向があるかもしれない。カッコいい赤ちゃん派大スターが消えた後では、「長い間冷や飯を食わされた恨み骨髄」であって、赤ちゃん派を蛇蝎のごとく非難し冷笑してみせるのだが、逆にそのことで生徒の反発を買う。多くの生徒は5文型に飽き飽きし、お説教に飽き飽きして、振り子は向こう側に振れる寸前、「触れなば落ちん」というギリギリの状況で、再びハレー彗星よろしく大スターが出現するのを待つばかりになる。

 

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(写真上:続・正統は異端を食いつくす。ナデシコのしっぽを捕らえて離さないニャゴ姉さん)


 さて、この「正統と異端」のせめぎ合いは、予備校の狭い世界にばかり存在するものではない。少なくとも、語学習得については古典的な二項対立であって、NHKのラジオ語学講座や大学教養課程の第2外国語の授業などでもよく問題になることである。赤ちゃん派は「とにかく、ワケがわからなくてもたくさん聞きなさい」といって文法的な説明を省略し、海外旅行や語学留学などでつかわれる表現を満載したテキストを準備し、現地で録音した音声をたくさん流して「習うより慣れろ」を強調する。極端な場合には「言葉のリズムとメロディを身体で感じ取ることが大切」などといって、テキストに文字を掲載しない、などという先生も登場する。それに対して学校文法派がどういう方法をとるかは、それは言わなくても分かるだろう。
 

 で、どちらが評判がいいかと言えば、「引き分け」というところか。スタート時は、赤ちゃん派が優勢。確かに「役に立ちそう」ということではとても学校文法派の太刀打ちできるものではないのだ。ホテルで、飛行機の中で、レストランで、タクシーで、観光地で、ホテルの部屋で困った時に、とにかくすぐに使える表現が満載である。私も「海外旅行に備えて1ヶ月だけ勉強」という時には完全に赤ちゃん派。例文を100コぐらい丸暗記していけば、それなりに現地の言葉で楽しめないことはない。一方の学校文法派は、最初のうち評判がすこぶる悪い。動詞の活用形だの、名詞の性別だの、それに合わせて形容詞にも性と数の区別があるだの、冠詞の変化だの、ちょっとした旅行では「全然役に立たない」情報満載。ラジオ講座の初期段階で膨大な脱落者が出るのは、まさに正統派である証拠なのかもしれない。

 

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(写真上:まてえ、食ってやる。ロート製薬編)


 しかし、やがて立場は逆転する。正統派が勢いを盛り返すのではなくて、異端の赤ちゃん派がダメになってくれるのである。最初は調子がよかったのだが、その調子が続かない。いくら役に立つ表現を並べて「習うより慣れよ」と言われても、学習を続けているうちにいろいろ分からないことが続出しはじめる。


 学習者というものは贅沢なものだから、ちょっとでも分からないことがあると、どこがわからないのか説明する手間と面倒はすべて放棄して「全然わからない」といい始める。確かに、例文を暗記するほど聞いただけでは、分からないことが多すぎる。「赤ちゃんは、マスターするのに15年かかるはずだ」と先日このブログに書いたはずだが、学習者は1ヶ月ぐらい経過したところでその事実に気づくのだ。


 「このままでは15年かかりそう」は「このままでは全然ダメだ」に直結して、早めの白旗、早めの撤退、まあ、そういうことになる。溜め息をつきながら「今回は諦めておこう。次にチャレンジするときは、正統派でしっかりやってみたい」と考えるわけだ。最後にちょっと正統派に有利になって、戦いは終わる。

 

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(写真上:まてえ、食ってやる。スバル編)


 この様子は、川中島の上杉謙信と武田信玄のようなものである。深夜に山の陣地を捨て、濃霧にまぎれて河をわたり、一気に敵の本陣をつく上杉謙信が「赤ちゃん派」。戦い方は退屈だがあくまで兵法通りの戦いを貫いて最後にちょっとだけ勝ったような気分になれる武田信玄が「学校文法派」。こうなると「どっちが好きか」の問題であって、好き嫌いは分かれるにしても「どちらを選ぶか」の基準にはならないように思われる。確かに、この2人はどちらも天下統一は出来なかったはずである。


 では、どうするか。別に天下を統一する必要などないのであるが、やっぱり戦いに勝ちたいことは間違いないから、信長なり秀吉なり家康なりを探さなければならないことになる。いま考えられるのは小さな戦いをたくさん仕掛けて、小さな戦いに次々に勝利を重ねて、気がついたら頂点に近づいているという戦い方である。まとめて大きな戦いに1つ勝つのは難しいが、8割勝てると判断できる戦いをキチンキチンと勝ち続けていくのは難しいことではない。しつこく繰り返させてもらえば、「英文法をオモチャに暗くなるまで遊びなさい」というアドバイスが出てくるのは、そういう議論の延長上にあるのだ。

1E(Cd) Hungarian Quartet:BRAHMS/CLARINET QUARTET・PIANO QUINTET
2E(Cd) Richter & Borodin Quartet:SCHUBERT/”TROUT” “WANDERER”
3E(Cd) Harnoncourt:BEETHOVEN/OVERTURES
4E(Cd) Bernstein:HAYDN/PAUKENMESSE
5E(Cd) Richter & Münchener:BACH/BRANDENBURGISCHE KONZERTE①
6E(Cd) Richter & Münchener:BACH/BRANDENBURGISCHE KONZERTE②
7E(Cd) Muti & Berlin:VERDI/FOUR SACRED PIECES
10D(DvMv) IN COLD BLOOD
total m71 y1460 d1460