2009年09月10日(木)

Mon 090831 ニューヨーク滞在記14 125丁目 雨の街角にどこまでも居並んでいた男たち

テーマ:アーカイブ
 ハーレムを訪れたのは、冷たい雨が降って、吐く息が真っ白になるほど冷え込んでいて、道路のあちこちから正体不明の真っ白な湯気が猛然と上がっている、典型的なニューヨークの冬の朝である。ものすごい勢いで闊歩する背の高いニューヨーカーたちは、みんな片手でスタバのコーヒーをかかげ、飲み口から湯気とともにいい香りが漂い、おお、これこそニューヨーク、むかしむかしのWASPの雰囲気である。目の前にはグランドセントラル駅、クライスラービル、旧パンナム本社。金融危機の前触れに凍えるニューヨークだったはずだが、観光客の目にはそんなオッカナイ話は全く感じられなかった。
 で、ひたすら地下鉄4号線は北上したのである。125丁目まで各駅停車に乗って北上すると、最初満員だった車両から、5人降り、6人降り、気がつくとどんどん空っぽになっていく。朝の北行き電車はもともと空いているのであるが、まずコーカサス系のヒトがいなくなり、インド系とラテンアメリカ系もいなくなり、最後に東アジア系も消えて、電車の中に残ったのはイカツイ体つきのアフリカ系のオジサンにお兄さんたち、あとは東洋の果てからやってきたクマゴロウ君、それだけになった。

            (地下鉄125丁目駅)

 みんな下を向いて、完全に沈黙して、コートやジャンパーから雨の匂いがして、お互いうさん臭そうに相手を睨んで、とにかく怪しいダンマリのままである。ブレーキが軋んで、大きく揺れて停車。ドアが開き、乗り降りするヒトもなく、ドアが閉まり、頑固なダンマリのまま電車は北上を続ける。車内放送で「ここから先はブロンクスだ」と注意があって、その放送を合図に一斉に客が降りるのが125丁目である。

          (雨のアポロシアター 1)

 ハーレム、その先はブロンクス、ほんの20年前までは危険きわまりないと言われた地域で、ガイドブックみたいなものにも「近寄らないほうが無難」「ご用心」「女性の一人歩きは避けよう」「避けて通るのがベター」と盛んに注意書きがしてあった地域である。2007年12月の段階で、日本で売られているどんなガイドブックにもハーレムは紹介されるようになっており、読み比べるとどれもみな「昔と比べて治安はよくなった」というスタンス。ただし、その他のランドマークに比較すると扱いは格段に小さく、見開き2ページ程度、「時間と勇気と行動力がある人は訪ねてみるのも悪くはない」という、あくまでコラム的な記事にとどまっている。

          (雨のアポロシアター 2)

 しかも、「治安は見違えるほどよくなった」とされているのは、5th AvenueとSt.Nocholas Avenueの間のほんの数ブロックにすぎない。私が地下鉄を降りたのはレキシントン通りだから「治安がよくなった」と特記される地区からは、遥か東にズレている。駅に到着して、ホームに降りる段階から、すでに雰囲気は異様なほどに濃く、冷たい空気の中でさえ汗臭さに淀んでいた。
 階段を昇って外に出ると、外は異様に明るい。ダウンタウンやミッドタウンは背の高いビル群が狭い道路の両側から覆いかぶさるように迫ってくるから、どこを歩いていても薄暗く、東京とは比較にならない強い圧迫感があるのだが、125丁目は全く様子が違うのである。見渡しても、3階建て以上の建物はまばら。濡れた道路もミッドタウンなどより遥かに道幅が広い。圧迫感がない分、圧倒的なのは白い空虚である。重く曇った空からはみぞれ模様の冷たい雨が降り続き、地面からは白い湯気が吹き上がり、空も空気も地面も全てが白く、白々とした空気を雨の音とクルマの走りすぎる音が支配する。

          (雨のアポロシアター 3)

 その街に、たくさんの失業者が立ち尽くしている。ほぼ例外なくアフリカ系で、その他の人種は見当たらない。冷たい雨を避け、クルマのしぶきを避けて、誰もが建物に寄り添い、見渡すかぎりの建物の入り口は、傘もささない寂しげな男たちの塊に塞がれてしまっている。見つけたマックも、彼らに完全に占拠されている。おそらくコーヒー1杯で2時間も3時間も粘る彼らで、中に入ることはまず不可能というほどである。
 「失業」というのは私の勘違いかもしれないが、こんな午前中に働き盛りの男たちが何もせずに雨に濡れながら立ち尽くしているとすれば、失業以外に考えられる理由は多くない。誰もが安い酒に酔い、目は血走り、足元にはタバコの吸い殻が溢れている。彼らが着ている服は、なぜか申し合わせたように上も下も黒い。黒いジャンパーを雨に濡らしながら、低い声でつまらなそうに何か語り合っている姿が、危機を予告しているようだった。
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