2009年09月11日(金)

Tue 090901 ニューヨーク滞在記15 冬のハーレムと「白暗淵」 09年夏、135丁目まで

テーマ:アーカイブ
 今思えば(すみません、昨日の続きの「125丁目」です)、アメリカ経済は2007年冬の一番危機的な状態だったのだ。どんな危機でも、崩壊の直前が一番暗い。危機が、現実の崩壊に至れば、暗さとか悲惨さを感じている余裕はなくなってしまう。やがて近いうちに必ず襲ってくる破滅的崩壊におののきながら、125丁目とレキシントン通りの交差する四つ辻にどこまでも立ち尽くしていた彼らの様子、彼らを濡らす12月の雨、彼らを囲む白く冷たい風を、なかなか忘れることが出来ない。

           (ナデシコが覗いている)

 ちょうど古井由吉の「白暗淵(しろわだ)」を読んだ直後だったので、おそらく全くのバカな見当違いなのであるが、あのとき今井君の頭は「白暗淵」「しろわだ」という言葉の響きに埋め尽くされてしまった。翻訳家・鴻巣友季子の書評によると、古井由吉「白暗淵」については、次のようになる(1段落だけ引用します)。
「白い宙が己の太初となる。在と不在、生と滅を分かたぬ虚空。その混沌を聖書は『黒暗淵』と言い、古井由吉は『白暗淵』と言う。無限の闇と、はてなき白い覚醒は、似るのではないか。死後への恐怖とは、意識がくらく途切れることではなく、それが白々と永劫に続くことだと言ったのは、ポール・ボウルズ。文明社会の失明を『白の闇』という書に描いたのは、ポルトガルの作家サラマーゴだ」

              (豚の置物)

 ありゃりゃ、難しいねえ。まあ、難しすぎることはよくわからないにしても、雨の125丁目&レキシントン通りで見た白々とした12月の世界から、「しろわだ」の語感だけは理解したように思った。なお、若い人たちで古井由吉を知らないヒトがいたら、ぜひ一読をおススメする。私は20代前半でこの難しい作家に相当ハマってしまっていたのだが、年譜を読んでみると、1971年「杳子」で芥川賞、80年『栖』で日本文学大賞、83年『槿』で谷崎賞、87年「中山坂」で川端賞、90年『仮往生伝試文』で読売文学賞、97年『白髪の唄』で毎日芸術賞。おお。日本を代表する大作家の一人なのである。
 クマさんは、30代前半から仕事が忙しくなってしまい、ちょっとしたヒマでも居眠りして過ごさなければ時間を損した気分になり、そのころから古井由吉を開くたびに「10分で睡魔の餌食」というダラしない人間に変わってしまった。こんな大人になっては、絶対にいけないのだ。

           (GOING OUT OF BUSINESS)

 さて、2009年8月、再びハーレムを訪れてみると、1年前に感じた「白暗淵ぶり」がすっかり影を潜めていた。深い危機の接近に怯える静寂の街の、白々と濃縮された不安感はすでに存在しなかったのである。来るべきものが来て、去るべきものが去って、むしろどこかスッキリした感じ。危機の直前より、危機の真っただ中のほうが、不安の底は浅いのである。125丁目は、すでにすっかり明るい観光地に変貌し、そこを行き来する人々に生活の匂いはない。店のウィンドウも、Newsstandも、ストリートフードのトラックも、日用品店も、生活の場というより、100%観光客を目当てにしたものに姿をかえていた。

            (寂しげなカエルたち)

 2009年夏、ここからさらに北上して、135丁目を目指した。金融危機の直撃を受けた125丁目は、生活の場から観光地へと完全に変貌することで、危機を乗り越えた、あるいは危機に対応したのである。そういう変貌に寂しさを感じるとすれば、さらにハーレムを北上して彼らの生活の場に入り込んでみるべきである。

           (ま、ネコですかね?)

 北上するにしたがって、確かに観光の匂いは急激に消え、洗剤のボトルをズラリと並べた日用品店、散らばる新聞紙やファストフートのパッケージ、路上に座り込んで呆然とヒトの流れを眺めているだけの住民、そういう生活の場の情景が増えていくのだった。すでに125丁目は「ハーレムのパッチもの」、ディズニーランドに作った「ハーレムのむかしむかし」、そういうことなのかもしれない。
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