岩波文庫から『入木道三部集』という本が出ている。その中の『入木抄』に「あしく習候人は、文字のすがたを似せんとし候へば、そのすがたは似候へども、筆勢をうつしえず候へば、精靈なきがごとくに候也」(27頁)と。

 入木道という名称は、王羲之の故事から来ているらしい。この『入木道三部集』は100頁ほどの薄い本だ。山岡鉄舟の書の理解に資するところもあろうと思って読んでいる。

〈以下、抜粋〉
■古賢能書の、筆のつかひやうは、いづくにも精靈ありて、よわき所なし。筆をたてはじめより、引はつる處、點ごとに心を入て、あだなる所なくかくべき也。(28頁)

■一點もあだなる所あれば、一字みなわろく見ゆ。まして一字を心をとめずば、さながらいたづら物なり。ひろくこれを申候はゞ、浮雲瀧泉の勢、龍蛇の宛轉たるすがた、寒松の屈曲せる木だち、此等しかしながら手本也(28頁)
 (注)・・・「寒松」の右に、小さく「老イ」と記されている。

■弘法大師は、大唐にて左右ノ手足、ならびに口に筆をさしはさみて、五行の字を一度に書て、五筆和尚の名を得たり。(30頁)
山岡鉄舟の書。墨をたっぷりつけて一気に。

『山岡鐵舟 書の師匠 岩佐一亭』より