278話 道中は暑かったですか |  荒磯に立つ一竿子

278話 道中は暑かったですか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たとえ泣いても笑っても、また、どんなに愚痴ってみてもどうにもならない。
秋の彼岸が過ぎたというのに、三宅島周辺の海水温はメジナやイサキが茹ってしまうくらい煮えたぎっている。昨日現在の海水温は、平年値を遥かに上回る28.5℃という異常値を示している。おまけに、ひんやり冷たい親潮が差す伊豆大島でさえ26℃という高水温になってしまった。これでは磯釣りなど如何ともしがたい。海水温が低下するまで釣りどころではない。恐らく、季節風が吹き始める晩秋まで水温は低下しないだろう。それまで釣行はお預けになってしまった。








                    








というわけで、良く晴れたカンカン照りのその日、わいが堤防沿いの農道をカフェCOMODOに向かって急いでいると、先週まで黄金色に展がっていた左手の田んぼが、ものの見事に刈り取られ、切り株だけの貧相な田んぼに変身していた。

ありゃ~、来週あたりが稲刈りかなと構えていたら、コンバインが稼働する今どきの農業は油断も隙もありゃしない。と感慨に打たれながら、麦わら帽子を被り直して行き過ぎたわいだったが、刈り取り後の景色がなんだかうら寂しくて物足らないことに気が付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そーだっ、10年くらい前まで、刈り取り後の田んぼには、刈り取った稲を天日で干す稲架掛け(はさかけ)という田園風景があったはずだ。うっかり忘れていたが、コンバインの普及とともに稲架掛け作業は省略されてしまったのだろうか。

確か、天日で干した米は一味違うと聞いたことがあるが、今どきの米はそんな手間暇掛けない分、一味まずくなっているのかもしれない。

ところで、あの稲架掛け風景はいつなくなったのだろう。まったく記憶にないほど、いつの間にかなくなっていた。そんなどうでもいいことで、ノスタルジアに浸けるなんてわいも齢とったもんだなあ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

               

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田んぼ道を暫く行くと、小さな橋の袂から堤防天端の小道に入るが、アスファルトの小道には両側から夏草が丈高く生い茂って小道を塞いでいた。夏草をかき分けるようにして踏み込むと、足元のアスファルトと両側の草藪から耐えがたいほどの熱気が湧き上がってきた。その刺激で首から顎そして目の粘膜がヒリヒリと痛んだ。それでも、ハワイマウイ島で起きた山火事の火災旋風よりはましだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

この炎熱地獄から早く抜け出したいと急ぎ足で歩を進めていると、その足元になにやら蠢いているものがあった。歩みを止めてよく見ると、それは毛むくじゃらのカラフルな毛虫だった。体長は7~8センチほど、太さは結構あって大人の親指ほどもあった。その毛虫は右側の草藪から左側の草藪に渡ろうとしていたが、渡る小道は焼き付いた鉄板のようにガンガンに熱せられているのだ。ワイから見れば自殺行為である。

まるで、サハラ砂漠を帽子も被らず歩いて横断しようとしている冒険者のようだ。毛虫とは言え無謀である。おいおい、やめとけよと声を掛けてやりたいけれど、わいには毛虫のことばが話せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

わい自身が熱気に音を上げているのに、毛虫の面倒までは見切れない。それでも熱気に耐えながら見ていると、その毛虫は、なんと1分足らずで焼き付いた小道を渡り切ってしまった。毛虫とは言え、たいしたものである。褒めてあげたい。あとで昆虫図鑑を調べてみたら、あまたいる毛虫の中で、この毛虫はチャドクガという毒のある毛虫らしかった。
そんな出会いや大汗をかきながら、3キロほどの炎熱の道を歩き切ってやっとカフェCOMODOにたどり着き、テーブルに座って流れ落ちる汗を拭いていると、冷水のコップを持ってきてくれたマスターは開口一番 「道中は暑かったですか。」だってさ・・・