226話 びびりのマスター | ぶらり荒磯 一竿子
2018年05月09日

226話 びびりのマスター

テーマ:ブログ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今年のゴールデンウィークは5月1日と2日の平日を休みにすれば、超豪華な9連休であった。その9連休明けの7日、カフェピンコロのドアを開けて、上り口でスリッパに履き替えていると、店の奥のピアノの陰から「ホットにしますか?アイスにしますか?」とマスターの声が聞こえた。
ホットでと答えて、わいが窓際の席に腰を下ろすと、マスターがコーヒーと水を載せたトレーを「お待たせしました。」と言いながら運んできた。トレーをテーブルに置くと、マスターはすぐにカウンターに戻って、今度は自分のコーヒーカップを片手に、はす向かの椅子に腰を下ろした。広々とした店内に客はわいひとりである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大ガラスを隔てて、通りを行きかう車を眺めながらコーヒーをすすっていると、マスターがおもむろに口を開いた。

「連休中は家にいてもやることがないので、3日、4日、5日と店を開けたんですが、甘かったですね~。」と苦笑するように話し始めた。「3日間で、何人お客さんが来たと思いますか?」と尋ねてきたので、普段でも少ないから、一日一人として、三日で三人かなと答えてやると、ブブーとブザーを口で鳴らし、「では三択です。1人、5人、10人のうちどれでしょうか。」とヒントを出してくれた。

わいが5人ぐらいかなと答えると、「残念でしたぁ、3日間でたったの一人です。それも、いつも土曜日に来てくれるお客さんが一人でした。」と答えたので、

それは残念だったね、でも、1人でも来れば御の字だよ。祝祭日はいつもやってないんだから、思い付きで店を開いたって、営業してるなんて誰も知らないよ。マスターだって、家でゴロゴロしているよりましだったろうとあしらってやると、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


「こないだのメジナ、塩焼きで食べましたが、あれくらいのが丁度いいですねぇ。今度はいつ行くんですか?」と唐突に話題を変えてきた。連休前に行ったばかりだから、体がまだ回復していないよ。行くとしても中旬以降だねと答えると、「少し早かったですか。でも、今度行ったら、サバを釣って来てくださいね。」と注文をつけてきた。

三宅島でメジナが釣れると、わいはいつも、マスターに釣れたよとメールを打ってやる。そうすると、翌朝、マスターがわいの自宅前に受け取りに来る。

 

最初の頃はどんな魚でも文句ひとつ言わなかったが、最近はやたらと文句が多くなって、40センチを超すメジナを上げると、ウロコを取るだけで苦労するとか、骨が固くて刃が立たないとか言って文句をつけてくる。塩焼きにするのだから、20センチくらいのを釣って来てくれと平気で我が儘を言うようになった。

前回は肥ったサバが釣れたので持ち帰ってやったが、それに味を占めたのか、味噌煮にするから、またサバを釣って来てくれなどと注文してくる。言うに事欠いて、メジナはいらないからサバを釣って来てくれとまで言い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


ところで、料理好きのマスターは率先して朝晩の食事づくりをしているらしいが、メジナを料理する場合、従来は刺身中心だった。ところが、最近では塩焼きとか煮魚またはフライばかりで、刺身にすることは全くないという。

その理由が奮っている。昨年の中頃、マスコミが一時、魚の寄生虫アニサキスについて大々的に報じたことがあったが、そのさなかに、マスターはアニサキスの恐ろしさを誇張して家族に伝えたのだ。そのせいで家族が刺身恐怖症になってしまったらしい。マスター自ら刺身嫌いを作り出していたのだから笑い話である。


それは、昨年の初夏の頃、マスターは夕食にカツオのたたきを作ろうとして、近所のスーパーでカツオの柵を仕入れてきたが、ひょっとして、この柵にもアニサキスがいるかもしれないと考え、念入りに調べたそうである。

すると、「いたんですよ。半透明の糸みたいな細い虫が、長さは4,5センチありましたね。」と話してくれた。それだけならいいが、その発見を鬼退治でもしたかのように、手柄話として家族全員に話して聞かせたらしい。それ以後、マスターの家では全員が刺身恐怖症になってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ところで、30年以上も前のニュースだが、俳優の故森繁久彌が公演中に腹部に激痛を訴えて緊急手術を受けたことがある。手術の結果、森繁さんの腸からはアニサキスが見つかったそうである。森繁さんは前日、サバの押しずしを食べていたそうである。
そういうこともあるから、決して見くびってはいけないが、そうかと言って過度に恐れることはない。アニサキスはサバやサンマなど青魚またはイカなどに寄生するが、メジナには寄生していない。もし、いたとしても、一度冷凍するか加熱すれば、すぐに死んでしまうから心配ない。生きていても、よく噛んでしまえば、死んでしまうだろうと教えてやったが、もはや、マスターは聞く耳を持たなかった。マスター自身がびびりまくっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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