死ねばいいのに② | 徒然ブログ

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好きな事書いています。

国久田さんは、

 

「三国志が好きで中国語勉強したの。」

 

と言っていた。それから英語は、

 

「若い時にバックパッカーをやっていた時に覚えた。」

 

と言っていた。

 

私は子供の頃から両親、というか父親の教育方針で英語と中国語は先生についてやっていた。だから国木田さんよりうまく話せるというのも道理といえば道理だった。よく彼女は英語とか中国語を私に質問してきた。だけど特に資格とかはない。両親は「資格を取れ!」とか前々からうるさく言っているけど、資格があろうがなかろうが私が今まで会社の中で会ってきた人たちを見ていると、例え語学でどんなすごい資格があってもあの人達がまともに評価するとは思えない。やるだけ無駄だと思っている。

 

しかし大宮は全く英語も中国語も話せなかった。免税関係のお客なので外人だ。大勢来るので英語も中国語も全く話せないとなるとそれはそれで問題だった。

 

だけどそれは小さな問題で、大きな問題じゃなかった。結局販売は「販売員の性格」とか「販売員の愛想」に大いに関係しているんだと思う。

 

本宮さんという人は英語も、中国語もできなかったけど、枕も、寝具も売り上げはよかった。いつもトップを狙う位置にいた。

 

彼女は愛想がよくて、外国語がわからなくても「ハロー」とか「ニーハオ」とかお客さんに話しかけ、後は筆談とジェスチャーで販売してしまう人だった。本当にわからなくなった時は通訳を呼んだ。それで充分だった。彼女は小柄で、ショートヘアで、いつもニコニコしていて、販売の仕事にぴったりの人だった。ニコニコ笑って、相手の為に親身になる。これが一販売では番重要だ。今でもそう思っている。

 

英語とか中国語、またはそれ以外の外国語が喋れればいいけど、喋れなくても別に英語で論文を発表するわけでもない。

 

だけど大宮は同じリーダーの国木田さんが外国語を喋れて、自分は喋れないのが気に食わなかった。彼女が英語圏のお客様に応対している時の見つめている顔を見たことがあるけど、

 

「うわぁ。」

 

と思った。ジロジロ、ギロギロと彼女を睨んでいた。国木田さんが喋れるのが相当気に食わないんだと思った。これは彼女だけじゃなくて他の外国籍のスタッフに対してもそうだった。外国語が聞こえてくると睨みつけていた。私は話しかけやすいから何度も大宮から、

 

「ねぇ、どうして英語も中国語も喋れるの?外国人の彼氏がいたの?」

 

と聞かれた。バリバリのセクハラ発言だけどこれは彼に限ったことじゃない。この頃コロナのおかげで会社で私が一番大嫌いな『飲み会』という恐ろしい行事がなくなったけど、コロナの前はしょっちゅう飲み会でこれを言われていた。自分は喋れないけど、お前が喋れるのは俺と同じ男のおかげだろうとでも言いたいんだと思う。

 

「また始まった。」

 

と思っていた。頭の上から熱湯でもぶっかけてやりたくなり、

 

「お前は前頭葉が発達してなさそうだから外国語の習得は無理だな。」

 

と言いたかったけど、

 

「そんなことないですよ。私はモテないです。」

 

と言うとまたハンコで押したように、

 

「えぇ~今まで本当に彼氏いないの?」

 

とおっさん達は質問をしてきた。大宮もそうだった。私に今まで彼氏がいなくても、また彼氏が100人いようが、会社でたまたま一緒になっただけのおっさんに話さなくちゃいけない必要がどこにあるというのだろうか?この疑問は働き始めてから〇〇年以上誰も答えてくれない。

 

これぐらいのレベルなら今までそれこそ耳にたこができるほど聞かされていたので許容範囲だった。ところが大宮はある日国木田さんに、

 

「国木田さん、何でSirて言うんですか?」

 

と言った。彼女が最初意味が分からず、

 

「えっ?」

 

と言うと、

 

「お客様はカスタマーと言うんじゃないんですか?僕は前々から不思議だったので昨日ネットで調べたんですよ。」

 

と得意げに言った。間違いを指摘したと思ったんだと思う。その瞬間国木田さんは笑い出した。その場にいた香港人のアランも笑い出した。これが大宮はカチンときたらしい。

 

「何がおかしいんですか⁉」

 

と大声をあげた。それから国木田さんとアランは一生懸命大宮に英語圏のお客様に、

 

「Hello, Sir.」

 

というのは、普通にお客様に呼びかける言葉で

 

「いらっしゃいませ。」

 

と同じ意味だ。どこでも使うとかれこれ30分以上話していた。だけどあの男の特徴というか最後の最後まで、

 

「だけど僕はミスターの方がいいと思います。カスタマーの方がいいと思います。」

 

とか必死に繰り返していた。

 

「お前相当権力があるんだな。英語圏の習慣まで変えるつもりなんだな。」

 

と私は思っていた。30分以上説得しても言うこと聞かないので、私はこちらを見た国木田さんに、

 

「無理無理、大宮は勝手に恥じかかせておけばいいじゃないですか。そいつはそういういわゆる”普通の日本のおじさん”ですよ。」

 

と視線で送った。今までああいう風にごちゃごちゃ英語も、中国語も知りもしないのに文句を言うおっさんは大勢見た。

 

「あんた達みたいなおバカさんがこの国じゃ男というだけで偉いことになっているから、中国に世界第二位の経済圏を奪われるんじゃないの?ドイツにも抜かれて第四位に落っこちそうよね。円安が原因じゃなくて、あんた達みたいなアホが一番の原因じゃん?」

 

と思っていた。

 

「ハロー、カスタマー」

 

と言うのはお客様が来ても何も呼びかけないよりいいのかもしれない。だけど私はあの男が最後に国木田さんとアランに言った、

 

「外国語が喋れるからって何が偉いんだ!」

 

のを聞いて、

 

「どうしようもねぇ。」

 

と内心笑っていた。だけどそれだけじゃ終わらないのが大宮だった。一週間ぐらいたった後、デパートの上の人から国木田さんに呼び出しがあった。お客様から投書があった。それは国木田という人が中国語を大声で話している。不愉快だったという話だった。どういう話を中国語で売り場でやっているのか教えて欲しいと国木田さんはデパートの上から言われた。その瞬間に、

 

「大宮だな。」

 

と思った。国木田さんがフロアーの統括と話をしているのを見て時うれしくてたまらない様子の大宮を見た。

 

「こいつがチクったんだ。間違いない。」

 

と確信した。

 

「あの営業達が選びそうな奴だ。」

 

とも思った。