カスハラ(カスタマー・ハラスメント)が社会問題としてマスメディアに取り上げられることが増え、JR東日本は乗客によるカスハラが行われた場合、客への対応を「いたしません」と対応方針を公表した。社員への身体的・精神的な攻撃や土下座の要求、社員の個人情報のSNS投稿などの行為には対応しないとし、社員を「守ることも、継続的に安全で質の高いサービスを提供していくために不可欠」と説明した。

 

 UAゼンセンが行った調査では、過去2年以内にカスハラ被害に遭った人は46.8%で、カスハラの実態は「暴言」39.8%、「威嚇・脅迫」14.7%、「何回も同じ内容を繰り返すクレーム」13.8%、「長時間拘束」11.1%など。カスハラのきっかけは「客の不満のはけ口や嫌がらせ」26.7%、「接客やサービス提供のミス」19.3%、「消費者の勘違い」15.1%など。

 

 セクシュアル・ハラスメントやパワー・ハラスメントを行った人物に対する批判や糾弾が行われることはフツーとなり、そうした言動を暴かれた高位にある人物や著名人が謝罪に追い込まれることも珍しくなくなった。そして、店舗や企業に対する客の言動にハラスメントに該当するものがあり、カスハラだとの認識が広がっている。「お客様は神様」だとの幻影は消えつつあるようだ。

 

 ハラスメントとは「嫌がらせ、いじめ、苦しめることなどの迷惑行為」で、優越的な立場にある人物による周囲の人物に対する不適当な言動が該当する。対等な立場にある人物間では、不適当な言動はハラスメントではなく単なる喧嘩や諍いだ。カスハラは客が自分の立場を優位にあると信じ、それに相応した扱いを受けることができない時に感情的な言動を行ってしまうことで生じる現象だ。

 

 一方、ハラスメントを受けたと判断するのは人間であり、客が冷静に商品やサービスに対する苦情や不満を言ったつもりでも、つい声が大きくなったりすると、言われた店員や社員が「ハラスメント攻撃を受けている」と感じることもあるだろう。言葉だけのハラスメントの判断は個人が行うことであり、状況などによって判断が揺れ動いたりし、「これはハラスメントだ」「いや、苦情を言っているだけだ」などと水掛け論になったりする。

 

 感情的になりやすい人や粗暴な言動が身についた人に対応した店員や社員が、被害者意識に敏感だったりすると、すぐにカスハラ騒動に発展するだろう。カスハラは否定されるべきものとの認識が広がると、「お客様の言うことは尊重し、逆らってはいけない」などという接客マナーは捨てられ、客も店員も社員も対等な人間であるとの意識が広がっていくかもしれない。さらに、地位や立場に関係なく誰もが対等な人間であるとの意識の広がりに繋がっていくなら、風通しのいい日本社会への変化に寄与するかな。

 

 ※法改正により、職場におけるパワーハラスメント防止のために必要な措置を講じることが雇用主の義務となり、また、顧客等からの暴行、脅迫、暴言、不当な要求などの著しい迷惑行為(カスタマー・ハラスメント)に関し、事業主は適切に対応する体制整備や被害防止の取り組みなどが求められていたこともあってカスハラ対策を強化することが急務となった。

 厚労省は、顧客等からのクレーム・苦情は「商品・サービスや接客態度・システム等に対して不平・不満を訴えるもので、それ自体が問題とはいえず、業務改善や新たな商品・サービス開発につながる」ものだが、「過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけるもの」は従業員に「過度に精神的ストレスを感じさせると共に、通常の業務に支障が出るケースも見られ」、企業は「不当・悪質なクレームに対して従業員を守る対応が求められる」として、カスハラ対策の企業マニュアルを2022年に公開した。