食パンブーム! 自家培養した発酵種ですべてのパンを焼きあげる食パン専門店/KUKULI | 飯島 愛ちんのガッタス・オスピタル

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 先週につづいて、いまブームの「食パン専門店」にフォーカスする。パン酵母(いわゆるイースト)を使用せず、すべてのパンを自家培養した発酵種(いわゆる天然酵母)で作る驚異的な食パン専門店がある。田園調布の「KUKULI」だ。

 

KUKULIキューブ

 

 「生食パン」に近いタイプが、「KUKULIキューブ」。歯の重さを受け止めながらふにっと沈む。ちゅるちゅるーと溶ける。ふわーりバターが香り、後味に北海道産小麦ならではのごはんのようなフレーバーがささやく。つまんだ手にフランス産発酵バター「イズニー」の香りがまとわりついて消えない。

 

 同じ生地にあんこを詰め、小さなキューブ型に入れた「プチ小豆」。「あんバタ餅」と呼びたい。しっとり、なめらかな舌触り、もっちり感。小麦の味わいの清らかさ、とろけだすバター感とあんこが渾然一体となり、見事にあんバタ餅が完成。耳の香ばしさとあんこの豆感も実に響きあう。

 

KUKULIショコラ

 

 「KUKULIショコラ」も名品の域。KUKULIキューブの生地にオーガニックのチョコチップを入れたもの。ミルクチョコ、ダークチョコと2種類入れているのが愉楽への踏切板となる。濃密なカカオの香りが繊細に鼻をくすぐりつつ、一方でミルキーなチョコがほろ苦さを癒やす。

 

 すべてがキューブ。食パンから小型のおやつパンまで型を使って焼く。パンは見事にふくらんで、形は狂いもない。話を聞くまで、自家培養発酵種のパンだとわからなかったほどの完成度。発酵種だけに香りは清らか、質感もふわふわすぎず、気付くか気付かないかの素朴さを残す。

 

南部弘樹シェフ

 

 南部弘樹シェフは、自家培養発酵種のパン専門店の草分け「ルヴァン」の出身。レーズンから起こしたレーズン種を使うことは同様だが、KUKULIのパンは、多くの人にとって発酵種のパンを食べることのハードルとなる「酸味」を感じさせない。秘密は、リキッド状の発酵種を低温下で管理すること。種を育てる上で欠かせない「種継ぎ」を行ったら即冷蔵庫へ。高温で活性化させずとも発酵力は落ちない。この発見によって、酸味のないクリアな味わいを実現。たゆまぬ研究のたまものだ。

 

 通常より多めの水分で仕込んで生地の伸びをよくし、口溶けよいパンにしているのも特徴。一般の食パンのようにきめこまやかにはしていない内相(ないそう)を示しながら、南部さんは説明する。

 

「ときどきこんな大きな気泡がありますよね。バゲットと同じように気泡がふぞろい。(目がつまらず)ぎゅうぎゅうになってないから口溶けがよくなります」

 

 化学添加物は不使用。北海道産小麦をはじめ、イズニーやオーガニックチョコ、オーガニックレーズンなど自然な材料のみを使うことも信条としている。

 

 

 素材のおいしさを存分に感じさせてくれるのが、はちみつのパン「ミエル」。しっとりして、もっちりして、噛(か)むとねっちりする。もわんもわんと噛みごたえたっぷりに弾みつつ、濃厚なはちみつの甘さを滲ませ、香りは鼻腔(びくう)まであふれ出る。その刹那(せつな)、こりっと松の実を噛む。香ばしくも、少しほろ苦いこのなんということもない食べ物が、はちみつの香りとコンビになると爆発的に存在感を発揮、甘さをより悩ましくさせる。

 

 油脂も砂糖も使わず、小麦粉、塩、種だけで作られるセーグルコンプレ。驚くことに、窯から出た途端に霧吹きで水をかけていた。熱々のてっぺんから湯気が立ち上ったかと思うと、てかてか光り輝いた。

 

「こうすることで、香りが立つし、ばりっとした食感になるんです」

 

 確かにばりっばりである。激しい香ばしさがあり、豪快に割れたクープはコーヒーのようにほろ苦い。もっちりとした中身からはほんのり甘く、野性的な発酵種の香り。それが、ライ麦や全粒粉の深々とした風味と混じり合う交点に正統派のカンパーニュの味わいが浮かんだ。口溶けよく、食べやすくありながら、原初的なおいしさ。自家培養発酵種のパンを、食パンブームに沸く現在形へ見事に落とし込んだ仕事だ。

 

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■KUKULI
東京都大田区田園調布2-51-7
03-6362-8845
10:00~19:00(日祝は~18:00まで)
不定休

https://www.KUKULI-p.com

 

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