MA-05Ad ビグ・ラング | 宇宙世紀兵器回想録UC0001~0084

宇宙世紀兵器回想録UC0001~0084

宇宙世紀130年に一年戦争終結50周年を記念して出版された、ウォルター・E・ベルンシュタイン著「宇宙世紀兵器回想録」の一部を抜粋したものです。
※プラモデル製作のサポート、マイナーな機体の情報存続を目的としています。



















諸元
型式番号MA-05Ad
英語名BIG-RANG
所属ジオン公国軍
開発ジオン公国技術本部
生産ジオン公国軍?
生産形態試作機?
開発年U.C.0079
退役年U.C.0080?
全長138.0m
頭頂高203.0m
本体重量12,000t
全備重量17,900t
装甲材質超硬スチール合金
原動機不明
出力不明
推力4,600t
センサー有効範囲不明
最高速度不明
武装大出力メガ粒子砲×1
ミサイル・ランチャー×8
ガトリング砲×2
ビーム撹乱幕発射筒×4
3連装大型対(宇宙)艦ミサイル×2
乗員数1名
搭乗者オリヴァー・マイ技術中尉
登場作品機動戦士ガンダム MS IGLOO -黙示録0079-
参考作品機動戦士ガンダム MS IGLOO -黙示録0079-


解説

 

 本機はジオン独立戦争中に公国軍が投入したMA-05のバリエーション機である。

 宇宙世紀史上最大規模の宙間戦闘であるア・バオア・クー攻防戦は、連邦・公国共に互いの持てる戦力を惜しげなく投入した為、多種多様な兵器が入り混じったカオスな戦場が形成されていた。その中でも特に異彩を放っていたのが、当時Eフィールドの防衛に従事していたこのMA-05Adである。

  本機が異様な機体として後世まで語り継がれる事になったのも、その巨大すぎる機体サイズ故であるが、これは本機が機動前線橋頭堡(モビル・フロントヘッド)というコンセプトの下に開発された事に起因している。機動前線橋頭堡とは、端的にいえば補給・修理能力と重装甲を持つ機動兵器の事で、大戦末期の公国軍でのみ確認される特殊な兵器として知られている。

 その特殊さ故に機体構成も複雑で、制御ユニットとして搭載されたMA-05、重装甲で守られたADユニット(Ad=Ammunition Depot・可搬補給廠)、同じく重装甲で覆われた弩級装甲ブースター(一説には耐ビームコーティングも施されていたと言われる)の3つで構成されていた。これは、「弩級装甲ブースターで最前線へと突入しMA-05での自衛や攻撃、Adユニットで味方機への補給又は修理を行なう」という野心的な運用を狙っていた為である。

 ここまでだと一見、理想的な戦闘支援型モビルアーマーに見える本機だが、その実態は大戦末期の混乱の中で、中断・放棄された複数のプロジェクトを技術本部が繋ぎ合わせて開発した急造兵器であった。その中核となった物が前述したAdユニットである。

 元々、同ユニットは計画初期段階において、わずかな武装のみを装備する重装甲の前線用補給拠点として考えられていた。もっともこの時点でのAdは前線橋頭堡(フロントヘッド)と呼ばれ、補給修理能力こそ持つものの自走能力は無かった為に解決手段が模索された。そこで、急激な戦線の後退により、月面からの大重量物資輸送用として4基のみの建造でストップしていた弩級装甲ブースターが流用されることとなった。

 この機材は当初、地球からの打ち上げ用として開発されていた物で、一般的な打ち上げ用ブースターの脆弱性が解消されていた。詳しく言えば、対ビーム防御能力を持つ重装甲と大重量化した本体を軌道上まで到達させる大出力熱核ロケットを有していた。これにより、上昇中にビーム・ライフルなどで狙撃されても、破壊されずに衛星軌道に到達できたといわれる。しかも、推進剤には重元素が採用されており、艦艇級のサイズを持つAdに十分な機動性を付与できると考えられた。

 余談ではあるが、デラーズ紛争期にはこのADユニットとブースターのみで構成されたモビルアーマー、ラングが投入されたとする説もある。もっともこれは、MA-05Adの様な高度な制御ユニットを有しておらず、前線橋頭堡と言うよりは巨大な突撃コンテナ的意味合いが強い機体であった。

 話を戻し、最後にAdと弩級装甲ブースターの制御ユニット兼火カプラットホームに選ばれた機動兵器が、MIP社が開発したMA-05である。生産ラインにあった後期型の6号機が改造され本機へと転用されたとされる。

 こうして機体を構成する各ユニットが選択され弩級装甲ブースターを中心に、複数のAdユニットがスカート状に繋ぎ合わされていった。本来であれば、混戦を強いられる大戦末期の最前線で戦うという特性上、補給・修理を受ける味方機が進入する方向も含め、Adユニットは全方位を装甲防御可能とするべきだった。このため動的装甲システムが搭載されるはずだったが、このシステムはア・バオア・クー戦には間に合わず、本機は未完成のまま投入されることとなった。


 本機について特筆すべき事として挙げられるのは、なんと言っても12月からの開始と言う開発期間の短さだ。民間企業や軍内の研究機関など、各開発部門で進められていた各種兵器開発計画が大戦末期の混乱で頓挫する中、技術本部は驚くべき事に数日から1週間で前線に送り出せる物をピックアップしたのだ。Adユニットや弩級装甲ブースターもこうして選ばれた機材であった。秘密兵器のなり損ないに過ぎなかった「瓦礫の山」から、短期間の内に実用的な巨大モビルアーマーを作り上げた当時の公国の底力は驚愕に値する。


 こうして一応の完成を見た本機は、カスペン戦闘大隊に編入され、ア・バオア・クー方面に展開していた第603技術試験隊に配備される事となった。これは、同部隊が駆逐モビルポッドであるMP-02Aを多数運用していた事に起因する。詳しく言えば、本機は元々モビルスーツに対する補給修理機能を付与する予定だったが、戦局の悪化から同じく急造兵器であるMP-02Aのバックアップに特化する様に機能が変更されたと言う事である。学徒兵が粗悪な急造兵器で前線を張るという事に流石の上層部も思うところがあったのだろう。もっとも、これは表向きな理由で、この様な試験隊上がりの特別編成部隊に本機が配備された事実を、技術本部が本機に何らかの技術的不安を抱えていた事による、半ば押し付ける形での配備であったとする見方もある。


 試験隊は、ア・バオア・クー戦が始まる直前に本機を受領したが、指揮系統の混乱のためか、ついに正規のパイロットは到着しなかった。そのため、乗員には総帥府から同隊に派遣されていたモニク・キャディラック特務大尉が予定されていたが、彼女が(弟のエルヴィン・キャディラック曹長が戦死したショックによる)戦闘神経症により任務遂行不可能と判断されたため、検分で本機に乗り込んでいたオリヴァー・マイ技術中尉が急遽テスト・パイロットに任命される。


 しかし、調整に手間取ったビグ·ラングは、Eフィールドに向かう艦隊に同行できず、後から合流することになった。Eフィールドに到着した試験支援艦ヨーツンヘイム(第603技術試験隊母艦)は、敵の予測進路を高速で横切り、そこに全力散布フレームを使ってMP-02A部隊を展開しようとしていた。巡洋艦ですら危険な任務を鈍重な連絡貨客船が行なおうというのである。友軍艦艇が次々と沈んでいく中、ヨーツンヘイムは敵前衛艦隊の中央突破に成功。背後からのMP-02Aの一斉攻撃で、敵前衛は甚大な被害を出した。


 しかし、その直後、敵に追い詰められたヨーツンヘイムは、絶体絶命の窮地に立たされた。初弾こそかわしたものの、クルーの誰もが諦めかけた瞬間、強力なビーム砲が連邦軍の艦隊をなで切りにする。遅れて到着した本機の大型メガ粒子砲による掃射であった。マイ中尉はヨーツンヘイムが退避した事を確認すると、MP-02Aが展開している戦闘宙域に進出した。敵に取り囲まれ始めたMP-02A部隊のために、自らをもって橋頭堡を形成したのである。ビーム攪乱膜を展開し、強力なメガ粒子砲でマゼラン級戦艦をも撃沈した本機に威圧され、連邦軍は一時退却した。こうして稼いだ貴重な時間を使い、本機は、生き残ったMP-02Aに補給、修理を施して、彼らを戦線に復帰させた。


 このように、本機は期待通りの働きを見せてEフィールドの維持に大きな役割を果たしただけでなく、「最前線での弾薬供給の可能性」が有効であることを証明した。また、実戦での戦闘力の高さも証明している。MA-05としての武装の他に、本機はAdユニットのアーマー上に2基の3連装対艦ミサイルを搭載している。後方の死角をカバーする緊急用の装備であるが、これを使って2隻のサラミス級巡洋艦を撃沈している。


 マイ技術中尉は「本来MA-05は加速性能を活かしての戦闘を得意とするモビルアーマーである」と記録に残しているが、本機は自らに敵の攻撃が集中する橋頭堡としても、持ち前の火力が役に立つことを証明できた。機動性が失われても、ビーム攪乱膜によって被弾率が低下している状況ならば、敵が向かって来てくれる限り、MA-05の攻撃力は健在なのである。


 停戦命令後、散発的な小競り合いから発生した局地戦で、本機は弱点である下部後方から攻撃を受け、撃墜された。しかし、カスペン戦闘大隊の残余部隊は、本機を中心に最後の粘りを見せて、Eフィールドを守り抜き、友軍艦隊の脱出を成功させた。マイ技術中尉も爆発した本機からの脱出に成功し、ヨーツンヘイムに帰還している。こうして彼は、第603技術試験隊で生き残った、数少ないテスト・パイロットの一人となったのである。


 結果的に本機は、急遽パイロットに任命されたマイ技術中尉の技術的見識の広さもあり、当初上層部が期待した以上の効果を発揮する事になった。しかし、この様な橋頭堡としての意味合いの強い艦艇クラスの巨大決戦兵器は、ジオン独立戦争と言う一大戦争下であったからこそ投入された物であり、以後の紛争・抗争において同じコンセプト/規模を誇る兵器の投入は確認されていない。


(宇宙世紀兵器回想録 ジオン独立戦争編 ~不遇の最良傑作機MA-05~ より抜粋)


メタ


 イグルーの悲しきラスボス。マイ中尉の技術屋魂と機体の特殊性がたまたまマッチし、なんちゃって「赤い彗星」になってしまった。何個かの資料に「赤き鬼神」っていう記載があるが、異名なのかどうかはわからない。0083リベリオンでビグロなしコンテナタイプの"ラング "が登場しているのでそちらも近いうちに投稿します。