俺の存在には気がついているはずだ、五本松から遠く離れた場所まで、アカシは無言で歩き続けた。




アカシは結局自分の家まで無言を貫いた。




そして、家の前まで来ると、ようやく振り返った。




俺見て、ボコボコに腫らした顔で、照れくさそうに笑った。




ぎこちない笑顔だった。




作り笑いなのが分かった。




「腹減った。ラーメンでも行かない?」




俺は何と言っていいのか分からなかったので、とっさに思いついた言葉をかけた。




するとアカシは今度は自然な笑みを浮かべた。




「達也、お前優しいな」




「は?」




優しいといわれた意味が分からなかった。




「ラーメン、いいな。というか、お前金持ってねーべ」




「ねーよ」




「じゃあ、ダメじゃん」




「おごるべきでしょ」




「なんでだよ」




いつものアカシが戻ってきたような気持ちになった。




俺達はその後ラーメン屋に行き、アカシは切れまくっている口の中にアツアツのスープを流し込み、苦悶の表情を浮かべながらも完食した。




結局こてっちゃんとの事は一言も会話に出なかったし、聞くことも出来なかった。




アカシは原付で俺を家まで送ってくれ、そのまま帰ろうとした。




呼び止めようと思ったが、アカシから口を開いてくれた。




「俺なら大丈夫だからさっさと寝ろよな」




アカシはそう言って帰っていった。




きっと俺が頭だけで考えても分からないような感情をアカシは味わっているのかもしれない。




それでも、笑顔で帰っていったので安心した。




それから数日たったある日、多摩川沿いの沿道をアカシとノブオ、そしてこてっちゃんが三人で歩いているのを見掛けたのだった。





-おしまい-



井口達也


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