ロンドンからクロベリー村まではちょっと日帰り旅行では行けません、でもクロベリーは一度は行ってみる価値があるとてもアンティークな村ですので、私はお薦めしたいと思います。

高速道路でロンドンから英国南西部のエクセターまで320km、そこからシャーロック・ホームズの「バスカーヴィル家の犬」で舞台となった荒涼たるダートムーアを抜けて、ローカル道をしばらく走った海辺の小さな村がクロベリーです。

今日のクロベリーがイギリスの中でも特に珍しいアンティークな村となったのは、ヴィクトリア期後半から二十世紀初めにかけて、この村のスクワイア(郷紳=大地主)であったクリスティーン・ハムリンという女性のおかげです。彼女は当時押し寄せてきた時代の波であったモータリズムを拒否し、クロベリー村への自動車の乗り入れを禁止したのです。

クロベリーの家々は標高差120mの崖上から波止場へ向かって下る急坂に立ち並んでいます。今日でも村を訪れる人は崖上の駐車場に車を止めて、その先は自動車通行不能ですから、あとは徒歩で行かねばなりません。

それでは、ご一緒に波止場まで歩いて下りながら、このアンティークな村をご案内しましょう。
車を降りて、丸石の敷きつめられた歩道を下り始めると、まずは素晴らしい海の眺めに息を呑みます。しばらく行くと小道は左に折れて村のハイ ストリートに入ります。
村や街の一番の繁華街はハイストリート呼ばれますが、こんなに狭くて、可愛らしいハイ ストリートを見たことがありません。

【ハイストリートのNew Innから、海に向かって下る坂道を見る】

 

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少し下ると村で二軒の旅籠の一つ、ニューインの看板が見えてきます。
暖炉に薪がくべてあるのか煉瓦の煙突から煙がのぼり、古い家並みと丸石歩道の急坂が海に向かって落ちていくこの風景は、なんともノスタルジックな心地よさです。




夕暮れ時ともなると数少ない街灯にも灯がともります。右手の小さな看板はクロベリー ポスト オフィスですが、もう閉まっています。
ここは村の郵便局であるとともに、村でたった一つの雑貨屋さんでもあります。切手や絵葉書も売っているので、ここから記念に手紙を出す人も多いようです。

郵便局から少し下ると、Look-out(見晴らし)と呼ばれる海に向かって突き出した眺望のよい辻にぶつかり、ベンチも置かれているのでこのオープンスペースで一休みです。


ルックアウトからは小さな港が見渡せます。そしてここから海辺まではまた一段と坂がきつくなって、この村の終点レッドライオンに到着です。この時は引き潮で、水際がかなり後退していますが、海辺にあるのが村で二軒目の旅籠&パブであるレッドライオンです。
パブタイムが引けたあとのレッドライオンは静けさそのもので、潮騒に包まれての一泊は思い出に残るものでした。


港の突堤からみた村の全景です。海に向かって落ちる崖の谷筋に沿って家々が軒を連ねる様子がお分かりいただけると思います。

標高差が120mで村の端から端までが1km足らずの小村に200人ほどの人々が暮らしています。
クロベリーに突堤が築かれたのは16世紀のことで、当時はこの村を拠点に海賊行為や密輸が横行していたようです。
冒頭でご紹介したクリスティーン・ハムリンのハムリン家がこの辺り一帯を買い取ったのが1738年のことでした。

クリスティーンは1884年にクロベリーを相続し、クロベリーとそこに住む人々を愛した理想的な大地主でした。彼女は自動車という二十世紀の発明を拒否しましたが、村の人々の暮らしを向上させる工夫はどんどん取り入れていったのです。
彼女の時代に村の水道や下水道が完備しましたし、古くなってきた家々の改修に力が注がれました。クロベリー村を歩くとクリスティーン・ハムリンのイニシャルを刻んだ家屋が多いのですが、それは彼女が住みよくした家屋であることを示しています。

クリスティーンは1936年に亡くなりましたが、村人の誰もが彼女を畏れることを知らない、そして誰からも愛され、よい意味でからかわれるような村の”支配者”だったと伝えられています。

百年も昔にアンティークな村をそのまま残そうとしたクリスティーン・ハムリンという人がいたことは驚きですが、それを今日まで守ってきたというのは、もっとびっくりです。
自動車を入れない暮らしというのは、少しだけ村で過ごす観光客にとっては美しい限りですが、考えてみればそこで生活する人は大変です。
村の物流手段は、昔も今も、ロバに引かせたSledge(そり)です。
仮に自家用車を崖上の駐車場に置いていても、かなりの標高差ですので、行ったり来たりも大変です。
お年寄りの急患が出たらどうするのでしょう? そんな時は救急車が近づける最寄のポイントまで、村人が担架に乗せて運びます。
何もかもクロベリー暮らしのキーワードはハードワークなのです。

レッド ライオン パブお薦めの温かくて美味しいコーニッシュペイストリーをいただきながら、本当のアンティークな暮らしについて考えてみました。
私もアンティークが好きですが、この村の人たちの足元に及びそうにもありません。
けれども、英国アンティークの底力がクロベリーにはあって、この村を訪れることで、少しでもそれが私に移ってくれればいいと思いました。


(追記 1)
昔のクロベリー村が分かるアンティーク ポストカードを手に入れました。 このカードにはクロベリー郵便局 1930年1月7日の消印があり、今から九十年ほど前の風景になります。 急坂なハイストリートを New Innに向かって見上げた様子ですが、写真一番目と比べてみると、今日のクロベリーがほぼ昔のままであることがお分かりいただけると思います。


(追記 2) Clovelly Harbour Webcam
クロベリーの海を見ていて興味深いのは、満潮と干潮で海面の高低差がとても大きいことです。 1日のうちにほぼ2周期の頻度で、満月や新月の頃には海面が 9メートルほど上下します。 これは目に見えて楽しめる大きな変動と思います。 日本の海でこれほど満潮と干潮で差が現れるところはないだろうと思います。


ある日の満潮 8:10 の様子。 新月が終わってすぐの頃なので、満潮の潮位が高く、満干差が大きいです。 
ここをピークに次第に潮が引いていき、6時間と少し後には干潮になります。


同日の干潮 14:34 の様子。
朝方の満潮から6時間24分が経過して海面が8.42m下がり、海の眺めは様変わり。
ここをボトムにして、こんどは次第に潮が満ちて、また6時間強したら満潮です。
6時間強ごとに満干を繰り返す、自然の時計が心地よく、タイムキーパーとしてPCのお気に入りに加えて時々眺めています。

 

Clovelly Harbour Webcam
http://www.clovellywebcams.co.uk/webcam_harbourview.htm

日英の時差はイギリスが9時間遅れ、日本の午前9時は、英国の深夜0時です。ウェブカムは英国の昼間にご覧ください。

クロベリー港の潮汐表
https://www.tidetimes.org.uk/clovelly-tide-times

 

 

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おおらかなGBグレート・ブリテン

イギリスの暮らしと社会、歴史文化、そして英国アンティークの本(note)です。

四半世紀を暮らして感じる英国のよさ、そして日本のよさ。二つを合わせてよりよくありたい、と考えてます。

私が一番お伝えしたいこと、note 全14章にしました。(40500文字、写真50枚)


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